meatmanさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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イニシエーション・ラブ
乾くるみ / 文春文庫
"超"現実派 恋愛小説
6
大学4年生の鈴木は、人数合わせとして参加した合コンで、成岡繭子に一目ぼれをする。。。
理系男子と、愛嬌のある小動物系女の子の、昔懐かし青春ラブストーリー。
ドラマティックな展開や描写はないけれど、恋…が始まり、仲良くなって、付き合って…と、平凡だった僕たちの、若かりしあの頃がよみがえる、そんなお話。
その平凡さ故、読んでいる間は「なんと陳腐な物語か!」と思われるかもしれないが、侮るなかれ。
最後の最後まで読んだその時初めて、この恋物語が、あたかもフィクションとして着飾った夢に浸らせるだけの、そんぞそこらのラブストーリーとはわけが違う事に気づかされる。
読み終えたその瞬間、ストーリー展開としてのエンターテインメント性を持たせると同時に、非常にリアリティのある形で、男と女の恋の成長、作中の言葉を借りれば「イニシエーション(通過儀礼)」が、しっかりと描かれていたことを知る。彼氏である鈴木にのみ視点が向ていると思っていたが、決してそのようなことはなく、繭子側のイニシエーションも存分に描かれていた事に気づく。
ラブストーリーの常套手段である、嘘っぱちな涙や、過剰な演出とは比べ物にならない、予想だにしない結末が私達の心に衝撃をもたらす。
それと同時に、彼らのイニシエーションを覗き見る事によって、私自信の恋愛観が、若かりし頃の純粋な形から成熟し尽くし、腐りかけてしまっている事に気づかされ、一抹の寂しさを感じた。
ちなみに、2004年に書かれた作品ですが、時代背景は1986,7年あたり。当時の流行りなども多々出てきます。ですが、その年代を若者として生きた世代でなくても十分ついていけます。
また、本書はミステリー小説として評価が高い様ですが、個人的には、ミステリーの部類に入るものなのか判断が付きかねます。確かにミステリー的な展開はありますが、「怪奇」「幻想」「オカルト」「事件」「推理」をミステリーの定義とすると、やはりどれにも当てはまらないと思います。
この物語は、あくまでラブストーリーです。 続きを読む投稿日:2014.10.09
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チーズはどこへ消えた?
スペンサー・ジョンソン, 門田美鈴 / 扶桑社BOOKS
チーズは消えるものだ
2
「迷路」=「人生」の中で、「チーズ」=「成功に値する目標」を探すお話。
メインとなる寓話の前後には、この物語を聞く架空の人物たちによるディスカッションも描かれており、それを通して我々に問題提起や解決案…の一例も提示している点に、やはりビジネス書としての機能を感じた。
チーズを失ったとき、我々は往々にして必要以上で無意味な"反省会"、”原因追究”、"責任問題"の議論に偏りがちだ。
PDCAサイクルを回すにあたり、PlanやCheckは重要であるが、具体的行動に落とし込めないことは多々ある。早急なDoとActionに移る事の大切さを身に染みて感じた。
その一方、本書では闇雲に次のチーズを探しに出たネズミ達が成功の道を辿るのであるが、そこを重要視してしまうのも曲解であるように感じた。無計画な行動は、それはそれで無駄も多いし、危険だと感じる。
重要なのは、ネズミ達はチーズが恒久的に存在するものでないという感覚を常に有していた事と、小人の一人「ホー」が勝ち得た”変化に対する恐怖心”を克服した事、そして、新たなチーズもいつかなくなると心得て、それに対するリスクヘッジを取るようになった事。
人生という迷路を生きる以上、安定なんてどこにもない。
私のチーズにもだいぶカビが生えてきている。早速、近くの路地を曲がってみようか。 続きを読む投稿日:2014.06.11
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Another (下)
綾辻行人 / 角川文庫
いないものが.....いる...
0
状況把握に追われる上巻に対し、下巻は、どうやって解決していくのか?がただひたすら気になります。
最後には驚きの叙述トリックが待っています。
そこに至るまでのヒントが十分に書かれて来てはいるわけではな…いのですが、断片的に描写される不可解な会話や登場人物(動物)の行動にに対しては一連の解答が与えられます。解答と言っても、推理小説ではないため、そこにアリバイや動機などの論理的なつながりがあるわけではないのですが、それでもある種の納得感やモヤモヤが解消した気分は味わえると思います。
登場人物もみんな若いし、軽~いライトノベルみたいな気分で愉しめました! 続きを読む投稿日:2014.06.05
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Another (上)
綾辻行人 / 角川文庫
いないものが.....いる...
0
ホラーファンタジーもの。
上巻は、ただひたすらに異質な雰囲気に飲み込まれていく。
一体何が起こっているのか?なぜ皆こんな行動をとっているのか?これは一体どういった話なのか?
色々な謎の展開によって、…我々読者を引き込む力が凄まじいです。
いくつかの考察は容易に可能だが、その答えは最後になるまで明らかにされない。
最後まで読んで、はじめて何が行われているのかがわかり、ようやく舞台設定は本質へと迫る準備が整う。
このモヤモヤ感こそ、正に主人公の榊原が感じていたものなのかもしれない。 続きを読む投稿日:2014.06.05
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罪と罰(下)
ドストエフスキー, 北垣信行 / グーテンベルク21
ニヒルな青年は、ひとつ大人になりました
0
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(あらすじ)
ロシアのサンクトペテルブルグ住む貧乏青年ラスコーリニコフは、金貸しの老婆アリョーナの殺害を計画、実行する。法科大学の除籍にまで陥った金銭的困窮と精神の衰弱状態とが相まっての、言わばありきたりな動機と見える本犯行であったが、実はラスコーリニコフは“選ばれし者は殺人をも許される”という独自の理論を抱いており、自分にはその資格があるという固い信念をもっていた。
時同じくして、ラスコーリニコフの妹アヴドーチャが弁護士ルージンと婚約し、ペテルブルグに移り住むために母親のプリヘーリアと共に越してくるという旨の手紙が、ラスコーリニコフの元に届く。その手紙を受け取ったラスコーリニコフは、母と妹に施しされた振る舞いの様子から、ルージンという男が卑劣な人物である事を見抜く。
さらに、町を徘徊していたラスコーリニコフは、とある酒場で酔いどれの退職官史マルメラードフと出会う。マルメラードフは家族に病弱な妻カテリーナと、娼婦として家計を支える素直で実直な娘ソフィアと他3人の子供を抱えていた。
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殺人犯となったラスコーリニコフと、彼を取り巻く人々に起こる13日間の出来事を描く。
主人公ラスコーリニコフの殺人犯としての犯罪心理、予審判事ポルフィーリとの心理戦、卑劣漢ルージンと婚約してしまった妹の問題、妹を追ってやって来た淫蕩な地主スヴィドリガイロフの不可解な行動、これら一つ一つのストーリーが丁寧に描かれ、また各々のストーリーが主にラスコーリニコフの心理状況という軸を通し、互いに関連もする、非常に内容の濃い作品でした。
物語が進むにつれて登場人物や問題が増えて行き、どんどんと大風呂敷を広げられていくような感覚がありましたが、見事に纏め上げられており、むしろ最終的にそれら全ての場面が必要最低限の事象として有効活用されている点には脱帽です。
総合小説として筆者自身の持論が織り込まれた、より難解な作品かとも思っていたのですが、その要素に関しては思っていた程でもなかったです。
文章構成として特徴的だったのは、各登場人物の台詞が非常に長く、まるで長台詞を演説のように喋る古典舞台の一幕を見ているようでした。部分的に飽きてしまいそうな一遍もありますが、一度物語が動き出すとその展開の意外性には目を見張るものがあり、表面的なエンターテイメント性にも欠けていません。
下巻は「マルメラードフの葬式」「ソフィアへの自白」「ポルフィーリの訪問」「スヴィドリガイロフの足取り」「ラスコーリニコフ最後の行動」「エピローグ:ソフィアへの愛の自覚と、未来への希望の芽生え」が主なプロットとなっています。各々のストーリーがクライマックスの様相を見せてきます。メインストリーでは、ラスコーリニコフが犯した罪に対する意識がどのように変わっていくのか、そして彼自身はどのような行動で終止符を打つのかに注目です。特に、心境の変化においては彼らしい結論を付けたと思いました。
エピローグでは、今まで全体を通してどことなく暗く寒い雰囲気を醸し出していた物語には似合わず、明るく暖かな終わり方となっていた事は予想外であり、また読んでいて救われた気分にもなりました。
ニヒルな青年は、ひとつ大人になりました。 続きを読む投稿日:2013.10.30
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罪と罰(中)
ドストエフスキー, 北垣信行 / グーテンベルク21
ラスコーリニコフの“論文”に注目、そして、物語展開は意外な方向へとさらに広がっていく…
2
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(あらすじ)
ロシアのサンクトペテルブルグ住む貧乏青年ラスコーリニコフは、金貸しの老婆アリョーナの殺害を計画、実行する。法科大学の除籍にまで陥った金銭的困窮と精神の衰弱状態とが相まっての、言わばありきたりな動機と見える本犯行であったが、実はラスコーリニコフは“選ばれし者は殺人をも許される”という独自の理論を抱いており、自分にはその資格があるという固い信念をもっていた。
時同じくして、ラスコーリニコフの妹アヴドーチャが弁護士ルージンと婚約し、ペテルブルグに移り住むために母親のプリヘーリアと共に越してくるという旨の手紙が、ラスコーリニコフの元に届く。その手紙を受け取ったラスコーリニコフは、母と妹に施しされた振る舞いの様子から、ルージンという男が卑劣な人物である事を見抜く。
さらに、町を徘徊していたラスコーリニコフは、とある酒場で酔いどれの退職官史マルメラードフと出会う。マルメラードフは家族に病弱な妻カテリーナと、娼婦として家計を支える素直で実直な娘ソフィアと他3人の子供を抱えていた。
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殺人犯となったラスコーリニコフと、彼を取り巻く人々に起こる13日間の出来事を描く。
主人公ラスコーリニコフの殺人犯としての犯罪心理、予審判事ポルフィーリとの心理戦、卑劣漢ルージンと婚約してしまった妹の問題、妹を追ってやって来た淫蕩な地主スヴィドリガイロフの不可解な行動、これら一つ一つのストーリーが丁寧に描かれ、また各々のストーリーが主にラスコーリニコフの心理状況という軸を通し、互いに関連もする、非常に内容の濃い作品でした。
物語が進むにつれて登場人物や問題が増えて行き、どんどんと大風呂敷を広げられていくような感覚がありましたが、見事に纏め上げられており、むしろ最終的にそれら全ての場面が必要最低限の事象として有効活用されている点には脱帽です。
総合小説として筆者自身の持論が織り込まれた、より難解な作品かとも思っていたのですが、その要素に関しては思っていた程でもなかったです。
文章構成として特徴的だったのは、各登場人物の台詞が非常に長く、まるで長台詞を演説のように喋る古典舞台の一幕を見ているようでした。部分的に飽きてしまいそうな一遍もありますが、一度物語が動き出すとその展開の意外性には目を見張るものがあり、表面的なエンターテイメント性にも欠けていません。
中巻では、「予審判事ポルフィーリ邸での心理戦」「母、妹、ルージンらとの会食」「ソフィアとの会話」「ポルフィーリとの警察署での心理戦」がメインプロットとなります。ポルフィーリ邸での心理戦では、この物語の中核をなすラスコーリニコフの犯罪に対する考え方が、彼の書いた論文という形で述べられる点に注目です。その理論自体も、現代における戦争の正当性などと絡めると、あながち逸脱したもので無い様に感じられ、考えさせられました。中盤では、ようやく初めてスヴィドリガイロフが登場したり、さらに別の新たな大きな問題が浮上したりと、これ以上風呂敷を広げて良いものかと思われる部分もありますが、最終的に全て必要な展開であった事が分かり、面倒な展開になりそうだと投げ出さずに我慢した甲斐がありました。 続きを読む投稿日:2013.10.30