ツクヨミさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1)
有川浩 / 角川文庫
「本」を愛するすべての人に
10
有川氏お得意のバトル×恋愛ものですが、登場するのは自衛隊ならぬ「図書隊」です。恋愛要素も自衛隊三部作(「塩の街」「空の中」「海の底」)よりは強めに押し出してある感じです。
自由に本を読めなくなった近未…来の日本で、主人公・郁(図書隊員)は検閲機関相手に戦います。すべては大好きな本を守るために!
本好きとしてはこの設定だけでも胸躍るものがありましたが、各組織の結成背景なども作り込まれており、シリーズ随所にみられる組織対組織、人間対人間の駆け引きも魅力です。
本が好き、読書が趣味という方は間違いなく楽しめるでしょう。読後は当たり前の読書ライフが貴重なものに感じられるかもしれません。 続きを読む投稿日:2013.10.16
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孤島パズル
有栖川有栖 / 創元推理文庫
モアイパズルも面白い
9
江神&アリスシリーズ第2弾です。前作『月光ゲーム』では陸の孤島(と化したキャンプ場)で事件が起きましたが、今回は文字通り「嘉敷島」という島が舞台となっています。
本書のメインは連続殺人の犯人当てです。…江神が展開する隙のない推理には、毎回惚れ惚れしてしまいます。江神と違って、アリスは格好いいところをあまり見せられませんが、その「人間らしさ」こそが語り手・アリスの魅力といえるでしょう。
さて、題名にもあるように、本書にはあるパズルが登場します。これがまたよくできていて、このネタだけでも作品が1つ書けそうなくらいです。それを惜しげもなくつぎ込んだのは、新人(当時)ゆえの勢いというやつでしょうか……? もちろん、読者にとっては嬉しい大盤振る舞いです。 続きを読む投稿日:2014.05.17
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怪しい店
有栖川有栖 / 角川文庫
店もいろいろ、見せ方もいろいろ
9
火村シリーズの短編集。「店」にまつわる短編を5編収録しています。作品ごとに出てくる店もいろいろですが、事件内容や小説の長さ・形式なんかもそれぞれ異なっていて、一編ごとに違った味わいが楽しめます。
「…古物の魔」……骨董品店で店主が殺される。形式としては、オーソドックスな犯人当てといえるでしょうか。骨董品業界の豆知識もあって、楽しく読みました。この先骨董品集めにハマりそうなアリスが心配(笑)
「燈火堂の奇禍」……古書店の店主が万引きに遭って怪我をした。短めの作品ですが、結末の後味がよくて好みです。でも、この店主のこだわりは客としてはちょっと……。
「ショーウィンドウを砕く」……アリスではなく、芸能事務所の社長が語り手を務める倒叙もの。テーマの「店」が意外なところで生きてきて「おお」と思いました。ドラマ化もされた一編です。
「潮騒理髪店」……理髪店が舞台の、人の死なないミステリ。謎の真相は「えー」という感じでしたが、作品全体の雰囲気は収録作品中いちばん好きです。あの火村が夢見心地になるほどの理髪店、行ってみたいです。
「怪しい店」……怪しい店〈みみや〉の女店主が殺される。「古物の魔」同様オーソドックスなミステリですが、真相が明らかになる前にヒントが提示されて、読者も謎解きに挑戦できるようになっています(私は正解できませんでしたが……)。この作品にはほかにも怪しい店が紹介されていて、最後に出てくる隠れ家的な店は近所に一軒欲しいと思いました。 続きを読む投稿日:2017.01.10
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メルニボネの皇子
マイクル・ムアコック, 井辻朱美 / ハヤカワ文庫FT
どっぷり浸かれる本格ファンタジー
8
主人公・エルリックが治めるメルニボネ帝国には、残虐と退廃を好む人々が住んでいます。王道RPGなら間違いなく敵側、それもボスレベルの敵として登場するでしょう。
しかし、皇帝であるエルリックはあまり「メル…ニボネ的」ではありません。虚弱体質だったり、すぐ悲観的に考えたり、情に流されたりと、まるで普通の人間のようです。美貌も力も備えたエルリックですが、それでも親近感が湧くのはこの人間っぽさのおかげかもしれません。
内容としては、ずっしりとした世界観と濃密な描写がすばらしいです。架空の虫や動物などは、姿をはっきり思い浮かべられるほど作り込まれています。翻訳(同じ訳者による新訳)も一語一語にまで配慮された、本格ファンタジーにふさわしい訳だと感じました。
王道ファンタジーにはない陰鬱な世界観が癖になりそうです。 続きを読む投稿日:2014.08.28
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ジュリエットの悲鳴
有栖川有栖 / 角川文庫
手堅くまとめたミステリ集
8
短編8編+ショートショート4編(計12編)を収録したミステリ集。シリーズものではありませんが、そのぶん作風に幅が出ていて、さまざまな雰囲気のミステリを楽しめます。
「落とし穴」――完全犯罪を狙う犯人…のアリバイ工作を描いた作品。意外な“落とし穴”にニヤリとしました。
「裏切る目」――亡くなった従兄の妻と再会した主人公は、彼女からある秘密を打ち明けられる。読後、ほろ苦い余韻が残ります。
「危険な席」――出張先から特急電車で帰る主人公。その後続の電車内で殺人事件が起きる。これも余韻を引きずります。
「パテオ」――作家たちのパーティで語られる奇妙な話。不思議体験系。
「登竜門が多すぎる」――ミステリ作家志望者のもとに現れる謎の男。ミステリをネタにしたギャグ作品です。ミステリに詳しいほどより楽しめる内容になっていて、個人的には本書の中でいちばん好きだったりします。
「タイタンの殺人」――土星の衛星を舞台にしたSF風ミステリ。設定はSFですが、内容はあくまで本格。
「夜汽車は走る」――夜汽車の窓を見つめながら、過去を思い出す男。しっとりとした雰囲気が好きです。
「ジュリエットの悲鳴」――主人公はあるバンドのボーカリストにインタビューをするが、そのバンドのCDには奇妙な噂があった。派手さはないけれど、記憶に残る作品です。
ショートショート4編(「遠い出張」「多々良探偵の失策」「世紀のアリバイ」「幸運の女神」)はどれも切れ味鋭い良作です。特に「多々良探偵の失策」は、短いのにちゃんとミステリになっていて驚きました。 続きを読む投稿日:2014.09.23
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幻坂
有栖川有栖 / 角川文庫
余韻じんわりな大阪怪談集
8
大阪を舞台にした怪談集。大阪にある7つの坂(天王寺七坂)をモチーフにした現代もの7編と、芭蕉や藤原家隆が出てくる歴史もの2編の、計9編が収録されています。
怪談といってもあまり怖くはなく(個人的に「口…縄坂」だけはぞわっときましたが)、幽霊などの怪異を織り込んではいるものの、メインとなるのはあくまでも人と人とのつながりや心の動きです。また、どの短編もラストが印象的で、最後の行を読み終えたあともじんわり心に残るものがあります。作品によって、それは温かかったりほろ苦かったりするのですが……。
特に好きなのは、切ないながらも希望の見えるラストが魅力の「真言坂」と、こぢんまりとした料理屋で交わされる会話が楽しい「天神坂」です。
著者のミステリ作品などに比べて文体が渋め(重め?)ですが、この本の内容には合っていると思います。芭蕉の一人称で語られる「枯野」は、当時の空気が感じられる味わい深い1編でした。 続きを読む投稿日:2016.02.25