ツクヨミさんのレビュー
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さいはての彼女
原田マハ / 角川文庫
「彼女」のカッコよさに魅せられる
11
いろいろあって旅に出た女性の話を集めた短編集です。収録の4編はそれぞれ語り手が違いますが、最初(「さいはての彼女」)と最後(「風を止めないで」)の作品には共通する人物が登場します。
その人物とはタイト…ルにもなっている「彼女」のことですが、これがめちゃめちゃカッコいいんですよ。ふとした仕草やまなざしには、同性ながらキュンとしてしまいます。
彼女と一緒の旅ならどこだって楽しいだろうな~、と主人公がうらやましくなりました。 続きを読む投稿日:2013.10.27
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孤独の価値
森博嗣 / 幻冬舎新書
孤独じゃないと本も読めない
12
『すべてがFになる』などの作品で知られる森博嗣が、孤独について論じた1冊。
本書において著者は、孤独は悪いことじゃない、むしろ人間にとって必要なものだ、と語ります。本好きなら、この主張にきっと共感する…ことでしょう。本を読むときは、たいてい1人きりで読むものです。誰かと話しながら読んでも、内容が頭に入らないのではないでしょうか。私も本好きの1人なので、「孤独(=1人の時間)は必要」という著者の意見はごく納得できるものでした。
その一方で、「孤独」という言葉についついネガティヴな印象を抱いてしまうのも確かです。本書の中でいちばん刺激的だったのは、人はメディアによって子供のころから「孤独は悪い」と思い込まされている――という部分。普通の人が書かないことをきっちり書いてくれるあたり、さすが森博嗣だなと思いました。
余談ですが、「第5章 孤独を受け入れる方法」に出てくる「無駄なこと」の内容が具体的で面白かったです。 続きを読む投稿日:2015.03.29
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世界のエリートがIQ・学歴よりも重視! 「レジリエンス」の鍛え方
久世浩司 / 実業之日本社
踏まれてもまた起き上がる雑草のように
11
レジリエンスとは、「逆境やトラブル、強いストレスに直面したときに、適応する精神力と心理的プロセス」(序章より)を意味します。失敗に負けない力、または単に打たれ強さといってもいいかもしれません。
本書に…はそのレジリエンスを身につける方法が書かれているのですが、自己啓発書でたまに見かけるような無茶ぶり(「どんな状況でも笑顔で」とか)もなく、全体的に素直に納得できる内容でした。
特に印象に残ったのは、
「役に立たない『思いこみ』をてなずける」
「『やればできる!』という自信を科学的に身につける」
「自分の『強み』を活かす」
技術です。どれも理論がしっかりしていて、実践すれば少しずつでも打たれ弱い自分から抜け出せるのではないかと思いました。
レジリエンス技術については★5をつけたいのですが、著者が自分のエリートな経歴について語っている部分がときどき鼻につく(私だけでしょうか……)ので、少し評価を下げました。
ビジネスマンだけでなく、「自分は打たれ弱い!」という人すべてにオススメしたい一冊です。 続きを読む投稿日:2015.10.05
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ハーモニー
伊藤計劃 / 早川書房
とある窮屈な世界で
11
真っ白な表紙からは、どんな内容か想像できないと思いますが……
本作は未来の地球を舞台にした物語です。医療技術のめくるめく発達により、そこではほとんどの人類が健康なまま寿命を迎えます。風邪をひくこともな…ければ、肥満も痩せもありません。そんな世界に違和感を覚える主人公(女)は、大人になってもシステムを騙して煙草を吸ったりしています。誰よりも世界に反感を抱いていた友人、ミァハのことを思い出しながら……。
これは単なるSFにとどまらない、深い物語です。ときには残酷な描写も出てきますが、それが理由で読まないのはもったいないと思います。独特な人物名やHTMLタグのような文字列を多用した文章形式も、この物語独特の雰囲気を生み出すのに一役買っています(文字列の意味は最後まで読めば分かります)。
「面白い」の一言では片付けたくない、いろいろな意味で「衝撃的」な作品でした。 続きを読む投稿日:2013.12.05
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月光ゲーム
有栖川有栖 / 創元推理文庫
「嵐の山荘」的状況に燃える
11
本書は著者の長編デビュー作にして、江神&アリスシリーズ(学生アリスシリーズ)の1作目です。副題に「Yの悲劇’88」とありますが、エラリー・クイーンの『Yの悲劇』を読んでいなくても問題ありません。
火山…の噴火により外部と寸断されたキャンプ場(いわゆる「嵐の山荘」ですね)、連続殺人、ダイイング・メッセージ……このいかにも「本格(ミステリ)」という感じが、本シリーズの魅力といえるでしょう。登場人物が多いですが、それぞれのキャラが作り込まれているので、読み進むうちに自然と覚えられると思います。
結末に向けて論理的に謎が解かれていく様子には、何度読んでも鮮やかさを感じます。また、舞台が山のせいか、月夜をはじめとする情景描写も印象に残りました。 続きを読む投稿日:2014.03.30
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アンデッドガール・マーダーファルス 1
青崎有吾 / 講談社タイガ
怪奇小説風味の本格ミステリ
11
十九世紀末のヨーロッパを舞台に、探偵(女)と助手(男)のコンビが怪物がらみの事件に挑む怪奇ミステリ。事件の関係者として吸血鬼や人造人間が登場しますが、探偵・輪堂鴉夜の推理は非常に論理的で、この作品の芯…があくまでも本格ミステリなのだと実感させてくれます。
この1巻には、序章のほかに吸血鬼の事件と人造人間の事件が収録されています。多少血なまぐさいところもあるけれど、人が死ぬミステリに抵抗がなく、本格ミステリが好きな方なら問題なく楽しめるでしょう。
推理の鮮やかさはもちろんですが、鴉夜と津軽の迷コンビぶりも読みどころです(二人が笑い合うシーンの微妙な空気がたまりません)。まだまだ謎が多い二人ですが、最大の謎は静句さんかも……。
ほかにも、古典作品の登場人物がちゃっかり(何人も)出てきたり、ミステリなのにバトルシーンがあったりと、いろいろと規格外な作品です。でも、とにかく読んでいて楽しい! それに尽きます。 続きを読む投稿日:2016.02.05