ツクヨミさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet
桜庭一樹 / 角川文庫
暗黒に射す光
11
ハッピーエンドを期待してはいけません。本書は最初から結末がおぼろげに見えていますが、それでも私は、最後の最後できれいな幸せに行き着くことを願ってしまいました。
もともとライトノベルとして発表された本作…は、ライトノベルの範疇にとどまらない黒さと絶望感に満ちています。でも、黒一色ではありません。ラストシーンではかすかな光が感じられます。詳しくは語れませんが、その結末には救われた思いがしました。
たとえ痛くても黒くても、本作は私にとって桜庭作品ベストワンです。 続きを読む投稿日:2013.10.02
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図書館戦争 図書館戦争シリーズ(1)
有川浩 / 角川文庫
「本」を愛するすべての人に
10
有川氏お得意のバトル×恋愛ものですが、登場するのは自衛隊ならぬ「図書隊」です。恋愛要素も自衛隊三部作(「塩の街」「空の中」「海の底」)よりは強めに押し出してある感じです。
自由に本を読めなくなった近未…来の日本で、主人公・郁(図書隊員)は検閲機関相手に戦います。すべては大好きな本を守るために!
本好きとしてはこの設定だけでも胸躍るものがありましたが、各組織の結成背景なども作り込まれており、シリーズ随所にみられる組織対組織、人間対人間の駆け引きも魅力です。
本が好き、読書が趣味という方は間違いなく楽しめるでしょう。読後は当たり前の読書ライフが貴重なものに感じられるかもしれません。 続きを読む投稿日:2013.10.16
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有栖川有栖の鉄道ミステリー旅
有栖川有栖 / 光文社文庫
車窓からの景色が目に浮かぶよう
10
鉄道をテーマにしたエッセイ集。著者はいわゆる「乗りテツ」だそうで、本書の後半は鉄旅エッセイ(鉄道で日本各地を回った様子を記したもの)で占められています。前半には鉄道を好きになったきっかけや学生時代の鉄…道旅行の話が収録されていますが、それに加えて「オススメの鉄道ミステリ」が多数紹介されているところがミステリ作家らしいですね。
鉄道好きのミステリ作家が薦める鉄道ミステリ、というのにも興味を引かれましたが、それ以上に鉄旅エッセイが面白かったです。車窓からの風景描写が印象的で、読んでいる自分も一緒に電車に乗っているような気分でした(気分だけでなく、実際に鉄旅に出たくもなります)。
有栖川ミステリのファンだけでなく、鉄道ファンにもオススメしたい1冊です。 続きを読む投稿日:2016.03.22
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働かないアリに意義がある
長谷川英祐 / 中経の文庫
アリやハチに親近感がわく
10
アリやハチなど、分業制(身分制?)の社会を作る昆虫について書かれた本です。一般向けなので、生物学の専門用語も例え話などを使ってうまく解説してくれます。
働かないアリが生まれる謎を生物学の理論に沿って…説明するくだりは、とても興味深く、アリが暮らす小さな社会に親しみがわきました。特にワーカー(「働きアリ」や「働きバチ」)の行動は人間社会と奇妙に重なるものがあり、昆虫の世界でも社会人は大変なんだな~、としみじみ思ってしまいました。
(※文庫化に伴い新書版に書いたレビューが消えてしまったので、こちらに再投稿しました) 続きを読む投稿日:2016.07.09
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夜の床屋
沢村浩輔 / 東京創元社
意外すぎる!?着地点
10
男子大学生・佐倉が語り手を務める連作短編集(全7編)。タイトルやあらすじから、いわゆる「日常の謎」系ミステリなんだろうなー、と思って読みました。実際、前半3編(「夜の床屋」「空飛ぶ絨毯」「ドッペルゲン…ガーを捜しにいこう」)はそんな感じで、深夜に突然営業を始める床屋の謎、住人が寝ているあいだに盗まれた絨毯の謎、廃工場に住むドッペルゲンガーの謎を解き明かしていきます。1編1編を取っても、ミステリとして綺麗にまとまっているように感じました。
印象が変わってきたのは、4編め(「葡萄荘のミラージュⅠ」)からです。そこからラストの「エピローグ」まで一気に読んで、その着地の仕方に驚きました。なんかいろんな意味で「やられた!」というか……。賛否両論あるとは思いますが、個人的には歓迎できる離れ業でした。 続きを読む投稿日:2015.01.13
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ラブコメ今昔
有川浩 / 角川文庫
形いろいろ、甘さもいろいろ
10
『クジラの彼』に続く、自衛隊ラブコメ短編集第2弾。中年カップルが登場したりと、前作よりバラエティに富んだ印象です。
「ラブコメ今昔」――隊内誌の記者が幹部(中年)の恋愛談を聞き出そうとする話。自衛官…の結婚事情がよくわかります。
「軍事とオタクと彼」――多少キャラが濃いものの、男前な「彼」にやられました。ときどき出てくるオタクネタはそんなにディープではないです(たぶん)。
「広報官、走る!」――題して自衛隊(広報部)vsテレビ局。すっきりとした読後感が魅力です。
「青い衝撃」――タイトルからも分かるように、ブルーインパルスの話です。恋愛モノには違いないのですが、ほかの作品とは異なる、独特な雰囲気がただよっています。
「秘め事」――単なるラブストーリーにとどまらず、なにかと考えさせられる1編でもありました。
「ダンディ・ライオン~またはラブコメ今昔イマドキ編」――表題作「ラブコメ今昔」とリンクしているので、まずは「ラブコメ今昔」からお読みください。個人的にとても好きな作品です。 続きを読む投稿日:2014.06.05