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記憶の絵
森茉莉 / ちくま文庫
確かにあった蜜の日々
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日本語の表現の豊かさ、言葉選びの巧みさ、そして見た目にすら美しい文字の使い方といったものを知ったのは吉屋信子、三島由紀夫、そして森茉莉からである。
なにしろ、玉子のから1つ取り上げて「障子を閉めたほの…明るい部屋のように透っている」である。唸るしかないではないか。
明治から大正、どこかにまだ江戸の情緒を匂わせる頃、両親から溺愛され、贅沢を贅沢と思わない当然のものとして享受した茉莉。その蜜の日々を、両親の思い出を、ものにまつわる思いを、その美しい筆致で綴る。その「古き佳き日々」は、その実無惨な時代であったことを知識として知ってなお、憧れを懐かずにはいられない。
ただ、流行語や時事ニュース、演劇や映画、俳優について、また文学者との交際についての文章は、私には退屈だ。知らない人の噂話が楽しい人がいるだろうか?
茉莉は汚部屋で一人、亡くなった。「気の毒な孤独死」の典型である。だが、他人の目にはゴミ部屋でも、それは茉莉にしか見えない美を精緻に組み上げた部屋である。ありあまる豊かで美しい思い出を持ち、最期まで他人の世話にならず自立して暮らしていた茉莉が、不幸だの可哀想だの言われる筋合いはないのではないかと思えてならないのである。
続きを読む投稿日:2016.06.04
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ケトン体が人類を救う~糖質制限でなぜ健康になるのか~
宗田哲男 / 光文社新書
妊婦さん必読!
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産婦人科の医師である著者が胎児がケトン体で生きていることをデータを並べて証明し、糖尿病で辛い思いをしている妊婦さんを糖質制限で血糖コントロールして安全に出産に持っていく実例、他人事ながらほっとします。…
傑作なのは学会でその発見を発表したときの騒動で、「権威」を脅かされた「偉い」先生たちの浅ましいばかりの逆上ぶり、小保方さんの時と同じよなあ、と。
そして、著者の病院ではないところに入院している妊婦さんがリアルタイムでネットに「医者や看護婦にうるさいことを言われないように」適当に検査前に糖質を摂りつつ、主体的に糖質制限および血糖コントロールを進めていく様子は、著者も言うように「面白すぎる」。
そもそも糖質を摂って血糖値が上がるから薬で下げる、なんて子供でもわかるバカバカしいことをなんの疑いもなく押し付けてくる医者、お医者様のおっしゃることを絶対のものとして受け入れる患者ー治った人いないということは、それじゃだめだってことでしょう。知は力です。賢い患者にならなければ、製薬会社と結託している医者に殺されます。
もし、糖尿病で妊婦さんという人が近くにいたら、是非この本を読んでもらってください。宗田先生の病院に電話してください。赤ちゃんもお母さんも、大丈夫だということがわかりますから!
続きを読む投稿日:2016.06.18
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わたしのウチには、なんにもない。4 はじめての遺品整理。さすがのわたしも辛かった・・・
ゆるりまい / ホビー書籍部
家族のエッセイ>片付け
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よそのレビューでこき下ろされていたので躊躇したんですが、本屋で立ち読みしてそんなに悪くもないし面白かったので買いました。これまでの3冊とは趣が変わります。汚屋敷汚部屋の元凶だったお祖母さんとの折り合え…ない日々、亡くなってから遺品を整理しながら思い出すことども、といったこれは家族がテーマのエッセイです。
とはいえ「捨て」「片付け」「何にもない」で売ってる人なんだから、さぞかし豪快にばっさばっさ、遺品だろうが何だろうが私の要らないものは家には置かない、みたいな展開…を期待すると外れます。
遺品整理ーこれまでは「今の自分がいかに快適に暮らすか」を主眼に「何にもない」部屋を実現しつつありましたが、「親の死んだ後」をやるのは私よなあ、片付けといて欲しいよなあ、「自分が死んだ後」なるべく簡単にしときたいよなあ、などと考えております。
続きを読む投稿日:2016.06.18
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算盤が恋を語る話
江戸川乱歩 / 東京創元社
浪漫、レトロなかつての日本
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この本の中で好きな話は表題の算盤が恋を語る話と、日記帳です。
どちらも相手になんとか思いを伝えたいという涙ぐましい努力をするんですが、その努力の元は「拒されたら恥ずかしいから、全然別の意味にも取れる方…法をとる」といううじくじした、いっそ卑怯なまでの情けない性根です。
葉書や切手、日記、算盤、どれもこれも今でも使われている日用品ですが、当時はもっと身近なものだったんだろうなと、昔の日本人の生活を思い浮かべ、しばしタイムトリップを楽しんでいます。 続きを読む投稿日:2016.06.19
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人でなしの恋
江戸川乱歩 / 東京創元社
セピア色の世界へ
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表題作はまず漫画で読んでいましたが、文章で読む方が細部にわたり空想できるものだなと実感します。そしてこれは恐ろしいことに、ものすごく現代的な話でもあるんです…このまま21世紀に舞台を移しても全然違和感…がない。
あと好きなのは「躍る一寸法師」身体障害者を見世物にしたり、子供を売り買いしたりしていた「昔の」サーカスの話、最後の「木馬は廻る」はつましい生活を真面目に送る人々の一寸した憧れの話です。これらを読むとき、画面は勝手にセピア色です。 続きを読む投稿日:2016.06.19
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陰獣 芋虫
江戸川乱歩 / 創元推理文庫
夢幻の世界へ
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甲乙つけ難い傑作揃いの1冊です。
「陰獣」は一寸冗漫な気もしますが、昔の文章ってこういうものかも?
「芋虫」は現代にも置き換えられる介護の話、状況も社会資源も全然違いますが、結局一番身近な人間と本人…の苦悩と言う点は何十年経っても同じかもしれません。
「押し絵と旅する男」、幻想的なお話で、これが一番好きという人が多いのも頷けます。ファンタジーであり恋物語であり…
「目羅博士」は次々と人が死んでいく建物にはほんまかいな?と思わせるトリックが。見ているのは煌々と照るお月さま…ひどい話なのに夢幻が勝ります。 続きを読む投稿日:2016.06.19