meatmanさんのレビュー
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72
このユーザーのレビュー
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魍魎の匣(2)【電子百鬼夜行】
京極夏彦 / 講談社文庫
奇妙な事件
1
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(あらすじ)
「少女殺害未遂事件」、「連続バラバラ殺人事件」、「少女誘拐事件」、一見異なる3つの事件は『御筥様』なる謎の教団へと結びつく。果たして、これらの因果関係とは?そして、犯行は一体誰によるものなのか?刑事、陰陽師、作家、雑誌編集者、探偵の5人を中心に描かれるミステリー小説。
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一応推理ものであり、トリックやその解明も理論的とは言えますが、いくら我々が推理しようが、衝撃のラストに辿り着く事は出来ないでしょう。寧ろ、ただひたすら深まる謎と、張り巡らされる伏線に浸りながら読むのが良いと思います。
ただ、謎を提示した後、話が一度登場人物の難解な持論展開へとずれ、しかもそれを非常に長く丁寧に語るという事が度々あるので、せっかちな方はその都度歯痒い思いをするかもしれません。
自分も、読んでいて流石に疲れたと感じた場面はありました。ところが、そう言った長文を読む事に心が折れそうになるちょうど上手いタイミングで、物語は新たな展開を見せ、時にそれは全く予想だにしない方向であり、結局最後まで面白く読めてしまいます。
もちろん、本筋からずれた話全てが退屈であった訳でなく、霊能者の存在意義や、一般的に犯行の動機と呼ばれるも犯罪心理を憑き物として捉える解釈など、興味深いものも多々ありました。
登場人物たちの一人一人の個性も、上手に書き分けられていて、それだけでも面白い作品です。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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魍魎の匣(1)【電子百鬼夜行】
京極夏彦 / 講談社文庫
奇妙な事件
1
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(あらすじ)
「少女殺害未遂事件」、「連続バラバラ殺人事件」、「少女誘拐事件」、一見異なる3つの事件は『御筥様』なる謎の教団へと結びつく。果たして、これらの因果関係とは?そして、犯行は一体誰によるものなのか?刑事、陰陽師、作家、雑誌編集者、探偵の5人を中心に描かれるミステリー小説。
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一応推理ものであり、トリックやその解明も理論的とは言えますが、いくら我々が推理しようが、衝撃のラストに辿り着く事は出来ないでしょう。寧ろ、ただひたすら深まる謎と、張り巡らされる伏線に浸りながら読むのが良いと思います。
ただ、謎を提示した後、話が一度登場人物の難解な持論展開へとずれ、しかもそれを非常に長く丁寧に語るという事が度々あるので、せっかちな方はその都度歯痒い思いをするかもしれません。
自分も、読んでいて流石に疲れたと感じた場面はありました。ところが、そう言った長文を読む事に心が折れそうになるちょうど上手いタイミングで、物語は新たな展開を見せ、時にそれは全く予想だにしない方向であり、結局最後まで面白く読めてしまいます。
もちろん、本筋からずれた話全てが退屈であった訳でなく、霊能者の存在意義や、一般的に犯行の動機と呼ばれるも犯罪心理を憑き物として捉える解釈など、興味深いものも多々ありました。
登場人物たちの一人一人の個性も、上手に書き分けられていて、それだけでも面白い作品です。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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鉄鎚
夢野久作 / 青空文庫
叩きつけられたのは、“鉄鎚”でなく、“現実”でした
0
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(あらすじ)
小島愛太郎は、幼き頃から父親に、「良平(愛太郎の伯父)は悪魔なので世のために鉄槌を食らわせて遣れ」と言われ続けて育つ。伯父は、愛太郎の幼い頃、喘息にかかった父親の隙を突いて財産と母親を持ち出した悪魔なのだと。
やがて父親は亡くなり、愛太郎は悪魔と教えられ続けてきた伯父の元にひき取れられ、伯父の経営する株式取引所で働きながら暮らすこととなる。愛太郎は電話越しに感じ取られる天気などの情報から株価変動を予測する能力を身につけ、数年で伯父の会社は成長を遂げる。
そしてある日、伯父の会社の元へ、愛太郎の従妹と名乗る美女、伊奈子がやってくる...。
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人間の本質に迫った、現実的な作品といった印象を受けました。
冒頭の入りから察するに、子世代から親世代への復讐劇かと思わせながら、全くそういった話にはならず、淡々と物語が語られていきます。
愛太郎視点で、愛太郎自身、伯父、伊奈子の3人にスポットライトが当てられ、本当の悪魔は誰なのかを考えさせられます。しかしながら、悪魔の正体を知ったところでクライマックスを決定づける要因にはならず、特に動機が明記されないまま、愛太郎がとある行動を決断したところで物語は締めくくられます。
あるテーマの正体や本性を知ってしまったが故に、悩み、葛藤し、苦悩するという、“考える人間”を表現した面白い小説はたくさんあります。しかしながら、この物語に関しては、そういった深い考えというものは最終的には払拭され、より浅く、単純で、淡々とした感情のみが最後の決断の決定要因となっているように感じました。そしてそこに、生々しく現実的な動物としての人間の本質が描かれていると感じられました。
現実性を感じたもう一つの点として、物語の構成そのものが挙げられます。主人公の能力を生かして完全勝利するという、非常にエンターテイメント性が高く、かっこいい結末で終わらせようとしておきながら、最後の一節でそれらが全部覆えされてしまいます。「事実は小説より奇なり」という諺がありますが、これはあくまで小説が“奇”を狙って描かれている為に存在意義のある言葉であって、本作に関しては前途した諺が成立しないほど呆気ない“凡”で締めくくられています。
我々人間は、あらゆる行動や目標、人生、結果に対し、『使命感』『憎悪』『運命』等といった装飾を付け、決断に対する意味を求めて生きています。しかしながら、実際にそういった決断の場面が訪れた際には、何でもない“凡”な感情に流され、“凡”な結果に落ち着いているだけに他ならないのかもしれません。それを理解、意識する事が、良いの事なのか悪い事なのか、嬉しい事なのか悲しい事なのかは、時と場合によると思います。
つまらない現実を叩きつけられた、面白い作品でした。 続きを読む投稿日:2013.09.27
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蟹工船・党生活者
小林多喜二 / 新潮文庫
『共産主義社会』というより、『自由』への欲求を訴えた作品
0
【蟹工船】
非常に有名なプロレタリア作品。
極寒の北の海、蟹工船にて法外なほど過酷な労働を強いられていた労働者達が一致団結し、船の上では絶対的な権力をもつ悪の資本家側として描かれる現場監督を中心とし…た上層部に対しストライキを起こす。
前半における監督の悪どさと、労働者達の過酷さの描写は凄まじく、それをどうする事も出来ない労働者達の絶望感が非常に強く伝わってきます。しかし、最後にはその絶望感が払拭され、むしろ戦う強い意志と僅かな希望に変わり、そして勝利を納めるという過程は、実に気持ちの良いものでした。
共産主義を色濃く賛美している文章なのかと思っていましたが、あまりそうは感じませんでした。「働く人達が団結すれば資本家達に虐げられることはないので、労働組合等を介して、しっかり交渉や行動を行いましょう。」と言った程度の印象です。そういった制度は資本主義経済国家に於いても一応法的には整ってますし、政治的に取り立てて啓発される様な事はありませんでした。
労働者達による資本家への決起というコンセプトは、働き者のアリ達が、働かずに彼らを虐げ搾取するキリギリス達と戦う、ディズニーピクサーのバグズライフとそっくりです。似通ったプロットの物語が、方やプロレタリア文学の代表者と評価され、方や資本主義国家アメリカの子供映画として公開されており、資本主義とか共産主義とかの境目もよくわからないものですね。
【党生活者】
今月末に600人の臨時工の不当な解雇を企む軍需工場に勤める3人の共産党員、私、須山、伊藤を中心に、彼らによるストライキ計画の日々を描く。
当時非合法だった共産党員が、会社の監視や警察から逃れながら、工場でのビラ撒きや新たな同志の勧誘、そして行く行くは大衆全体を見方につけようと、密かに共産社会実現に奮闘する日々が事細かに描かれています。それはまるで世捨て人のような生活で、とりわけ先に工場を辞めた“私”の生活は、昼夜逆転し、親とも縁を切り、生活費に困窮するなど、非常に荒廃しています。それでも彼は、ただ資本家の売り上げの為に人ならざる生活をするよりは、社会の革命の為に同様な生活をする方が遥かに良いと、自己犠牲の有意性を自らに言い聞かせ、この様な生活を続けます。共産社会の実現という最終目標はさておき、社会貢献のための自己犠牲の覚悟という点に関しては、自分には出来ない、なかなか良い心掛けだと思いました。
ところで、文中では工場で働く共産主義支持者達を “細胞”と呼んでおり、これぞ当に社会統一的な思考だと感じましたが、これではまるで資本家が労働者を歯車と考えているのと似通った表現であり、共産社会を賛美する人々であるならば、“細胞”というのはあまり上手い表現だとは思いませんでした。
本作における攻防は、「原始的な抑圧を与える現場監督と、そこで自然発生的に組織化しだした労働者」という形であった蟹工船とは打って変わり、会社側はより賢く、オブラートに包んだ抑圧をして来ており、また労働者側も既に共産党員としての知識を身につけた人々でした。中でも、会社側のずる賢いやり方は、現代でも問題となっている所謂“派遣切り”とも似通った面がありました。この問題を解決するため、共産党員である主人公らは立ち上がっているわけですが、彼らが当面の目標としているものは、決して現代にイメージを抱かれているコテコテな共産主義思想からなるものではなく、単に財閥や独占が罷り通っていた、当時の『封権社会的資本主義』からの脱却であり、共産社会というよりも、むしろその根底では、自由主義社会の実現を目指しているように感じました。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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罪と罰(下)
ドストエフスキー, 北垣信行 / グーテンベルク21
ニヒルな青年は、ひとつ大人になりました
0
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(あらすじ)
ロシアのサンクトペテルブルグ住む貧乏青年ラスコーリニコフは、金貸しの老婆アリョーナの殺害を計画、実行する。法科大学の除籍にまで陥った金銭的困窮と精神の衰弱状態とが相まっての、言わばありきたりな動機と見える本犯行であったが、実はラスコーリニコフは“選ばれし者は殺人をも許される”という独自の理論を抱いており、自分にはその資格があるという固い信念をもっていた。
時同じくして、ラスコーリニコフの妹アヴドーチャが弁護士ルージンと婚約し、ペテルブルグに移り住むために母親のプリヘーリアと共に越してくるという旨の手紙が、ラスコーリニコフの元に届く。その手紙を受け取ったラスコーリニコフは、母と妹に施しされた振る舞いの様子から、ルージンという男が卑劣な人物である事を見抜く。
さらに、町を徘徊していたラスコーリニコフは、とある酒場で酔いどれの退職官史マルメラードフと出会う。マルメラードフは家族に病弱な妻カテリーナと、娼婦として家計を支える素直で実直な娘ソフィアと他3人の子供を抱えていた。
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殺人犯となったラスコーリニコフと、彼を取り巻く人々に起こる13日間の出来事を描く。
主人公ラスコーリニコフの殺人犯としての犯罪心理、予審判事ポルフィーリとの心理戦、卑劣漢ルージンと婚約してしまった妹の問題、妹を追ってやって来た淫蕩な地主スヴィドリガイロフの不可解な行動、これら一つ一つのストーリーが丁寧に描かれ、また各々のストーリーが主にラスコーリニコフの心理状況という軸を通し、互いに関連もする、非常に内容の濃い作品でした。
物語が進むにつれて登場人物や問題が増えて行き、どんどんと大風呂敷を広げられていくような感覚がありましたが、見事に纏め上げられており、むしろ最終的にそれら全ての場面が必要最低限の事象として有効活用されている点には脱帽です。
総合小説として筆者自身の持論が織り込まれた、より難解な作品かとも思っていたのですが、その要素に関しては思っていた程でもなかったです。
文章構成として特徴的だったのは、各登場人物の台詞が非常に長く、まるで長台詞を演説のように喋る古典舞台の一幕を見ているようでした。部分的に飽きてしまいそうな一遍もありますが、一度物語が動き出すとその展開の意外性には目を見張るものがあり、表面的なエンターテイメント性にも欠けていません。
下巻は「マルメラードフの葬式」「ソフィアへの自白」「ポルフィーリの訪問」「スヴィドリガイロフの足取り」「ラスコーリニコフ最後の行動」「エピローグ:ソフィアへの愛の自覚と、未来への希望の芽生え」が主なプロットとなっています。各々のストーリーがクライマックスの様相を見せてきます。メインストリーでは、ラスコーリニコフが犯した罪に対する意識がどのように変わっていくのか、そして彼自身はどのような行動で終止符を打つのかに注目です。特に、心境の変化においては彼らしい結論を付けたと思いました。
エピローグでは、今まで全体を通してどことなく暗く寒い雰囲気を醸し出していた物語には似合わず、明るく暖かな終わり方となっていた事は予想外であり、また読んでいて救われた気分にもなりました。
ニヒルな青年は、ひとつ大人になりました。 続きを読む投稿日:2013.10.30
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Another (上)
綾辻行人 / 角川文庫
いないものが.....いる...
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ホラーファンタジーもの。
上巻は、ただひたすらに異質な雰囲気に飲み込まれていく。
一体何が起こっているのか?なぜ皆こんな行動をとっているのか?これは一体どういった話なのか?
色々な謎の展開によって、…我々読者を引き込む力が凄まじいです。
いくつかの考察は容易に可能だが、その答えは最後になるまで明らかにされない。
最後まで読んで、はじめて何が行われているのかがわかり、ようやく舞台設定は本質へと迫る準備が整う。
このモヤモヤ感こそ、正に主人公の榊原が感じていたものなのかもしれない。 続きを読む投稿日:2014.06.05