meatmanさんのレビュー
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罪と罰(上)
ドストエフスキー, 北垣信行 / グーテンベルク21
殺人犯の細かな心理描写
3
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(あらすじ)
ロシアのサンクトペテルブルグ住む貧乏青年ラスコーリニコフは、金貸しの老婆アリョーナの殺害を計画、実行する。法科大学の除籍にまで陥った金銭的困窮と精神の衰弱状態とが相まっての、言わばありきたりな動機と見える本犯行であったが、実はラスコーリニコフは“選ばれし者は殺人をも許される”という独自の理論を抱いており、自分にはその資格があるという固い信念をもっていた。
時同じくして、ラスコーリニコフの妹アヴドーチャが弁護士ルージンと婚約し、ペテルブルグに移り住むために母親のプリヘーリアと共に越してくるという旨の手紙が、ラスコーリニコフの元に届く。その手紙を受け取ったラスコーリニコフは、母と妹に施しされた振る舞いの様子から、ルージンという男が卑劣な人物である事を見抜く。
さらに、町を徘徊していたラスコーリニコフは、とある酒場で酔いどれの退職官史マルメラードフと出会う。マルメラードフは家族に病弱な妻カテリーナと、娼婦として家計を支える素直で実直な娘ソフィアと他3人の子供を抱えていた。
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殺人犯となったラスコーリニコフと、彼を取り巻く人々に起こる13日間の出来事を描く。
主人公ラスコーリニコフの殺人犯としての犯罪心理、予審判事ポルフィーリとの心理戦、卑劣漢ルージンと婚約してしまった妹の問題、妹を追ってやって来た淫蕩な地主スヴィドリガイロフの不可解な行動、これら一つ一つのストーリーが丁寧に描かれ、また各々のストーリーが主にラスコーリニコフの心理状況という軸を通し、互いに関連もする、非常に内容の濃い作品でした。
物語が進むにつれて登場人物や問題が増えて行き、どんどんと大風呂敷を広げられていくような感覚がありましたが、見事に纏め上げられており、むしろ最終的にそれら全ての場面が必要最低限の事象として有効活用されている点には脱帽です。
総合小説として筆者自身の持論が織り込まれた、より難解な作品かとも思っていたのですが、その要素に関しては思っていた程でもなかったです。
文章構成として特徴的だったのは、各登場人物の台詞が非常に長く、まるで長台詞を演説のように喋る古典舞台の一幕を見ているようでした。部分的に飽きてしまいそうな一遍もありますが、一度物語が動き出すとその展開の意外性には目を見張るものがあり、表面的なエンターテイメント性にも欠けていません。
上巻では、主に「犯行前後のラスコーリニコフの心理状態の描写」、「各々のストーリーの導入」、「活動的になったラスコーリニコフの奇行」、「母と妹との再会」が描かれていました。前半は、読み始めという事もあり少し疲れてしまうかもしれません。しかしながら、後半、レストランへ出かけたラスコーリニコフが警察署の書記官ザミョートフとの間に見せるやり取りまで読み進めた頃には、あなたは既にこの物語の虜になっている事でしょう。 続きを読む投稿日:2013.10.30
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カラマーゾフの兄弟 1
ドストエフスキー, 北垣信行 / グーテンベルク21
長い付き合いのできそうな本
3
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(あらすじ)
成金富豪、フョードル・カラマーゾフには3人の息子がいた。
父親同様、好色で遊び人の長男ドミートリー。
冷笑的で、学識豊かな無神論者の次男イワン。
気が優しく、誰からも好かれる修道僧の三男アレクセイ。
遺産、財産上の勘定における、父フョードルと長男ドミートリーとの不和を初め、この家族とその召使い、そして友を含めた人間関係は乱れきっていた。
ある夜、フョードルが何者かに殺され、とある者のために用意されていたという三千ルーブルも盗まれる。
ロシア全土に広まるこの悲劇的な事件を中心に、この家族に関係していた者達、そしてカラマーゾフの兄弟は何を思う。
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非常に内容が濃く、難しい本でした。
表向きは推理小説ですが、その物語自体が主体でありません。作者であるドフトエフスキー自信が、小説という形式をとって、様々な問題を提起し、自説を述べています。
その論題は、宗教、政治、経済、学問と広範囲に渡り、神の有無、性善説と性悪説、罪の救済、真なる制裁、民とその支配者、自由と幸福、世界的人類の統合、貧富の差、資本主義と社会主義、世界史等々、細かく挙げればきりがありません。さらに、これらに対する見解は、当然順序立てて体系的に書かれてはおらず、様々な場面で、各々の登場人物を通し、あらゆる観点から、部分的に、そして時に感情的に語られており、また各々の議題に対する見解がお互いに干渉しあうため、要約するのは非常に難しいです。しかしながら、読めば必ず何処かしらの部分で感銘を受けることでしょう。
おそらく、序盤の慣れないうちは直ぐに飽きます。また、一読では、ドフトエフスキーが述べようとした全てを理解するのは不可能です。あるいは何回読んでも不可能かもしれません。それでも、とりあえず一度、コンスタントに読み通す事をお勧めします。
そして、再び十年後に、もし読みたくなったら読むのが良いと思います。
人生における様々な思想が詰め込まれた本なので、再読のたびに、感銘を受けたり、理解し合点のいく点が変わり、自分の心の成長を知れるかもしれません。また逆に、若い頃には持っていたものの、歪められてしまった理想や信念が再び呼び覚まされ、今後の生活に新たな希望を見出すかもしれません。
きっとこれは、自分の送ってきた人生で培った心の変化、そして今後の運命を180度転換させるかもしれない思想の再構築を、何度も読むことで、一生涯に渡り楽しめる本なのだと思います。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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アクロイド殺し
アガサ・クリスティー, 羽田詩津子 / クリスティー文庫
完璧に整えられた意外性
3
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(あらすじ)
イギリスの小さな村に住む富豪、ロジャー・アクロイドの晩餐に招待さていれた友人のシェパード医師。彼が自宅に戻ると、一本の電話が入った。それはつい先程まで訪問していたアクロイド邸の使用人パーカーからで、主人、すなわちロジャー・アクロイドが殺されたと言う報告であった。
そして翌日、かつて様々な難事件を解決してきた名探偵エルキュール・ポアロは、突然の依頼を受けて、この事件へと首を突っ込む事となる。引退後の暮らしに退屈していた彼は、再び“小さな灰色の脳細胞”を活性化させる。
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動機、証拠、アリバイ全てが網羅された完璧な推理小説です。しかしながら、一般的な古典推理小説とは一線を画し、現在においても類い稀なる真相には、多くの読者が驚かされる事でしょう。
更に凄いのは、そのような仕掛けを全く感付かせる事無く、至って普遍的な推理小説と同様なヒントを与えながらも、それら全てが、前途したようにいかなる矛盾や不十分無く、驚きの真相の裏付けとなっている点でした。
全ての人が何かしらの嘘をついています。ポアロに同伴するシェパード医師になったつもりで読んでみましょう。シェパード自身にも考えつかない様な仮定を考えてみましょう。この本に於いては、とりわけこういった読み方をお勧めします。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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罪と罰(中)
ドストエフスキー, 北垣信行 / グーテンベルク21
ラスコーリニコフの“論文”に注目、そして、物語展開は意外な方向へとさらに広がっていく…
2
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(あらすじ)
ロシアのサンクトペテルブルグ住む貧乏青年ラスコーリニコフは、金貸しの老婆アリョーナの殺害を計画、実行する。法科大学の除籍にまで陥った金銭的困窮と精神の衰弱状態とが相まっての、言わばありきたりな動機と見える本犯行であったが、実はラスコーリニコフは“選ばれし者は殺人をも許される”という独自の理論を抱いており、自分にはその資格があるという固い信念をもっていた。
時同じくして、ラスコーリニコフの妹アヴドーチャが弁護士ルージンと婚約し、ペテルブルグに移り住むために母親のプリヘーリアと共に越してくるという旨の手紙が、ラスコーリニコフの元に届く。その手紙を受け取ったラスコーリニコフは、母と妹に施しされた振る舞いの様子から、ルージンという男が卑劣な人物である事を見抜く。
さらに、町を徘徊していたラスコーリニコフは、とある酒場で酔いどれの退職官史マルメラードフと出会う。マルメラードフは家族に病弱な妻カテリーナと、娼婦として家計を支える素直で実直な娘ソフィアと他3人の子供を抱えていた。
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殺人犯となったラスコーリニコフと、彼を取り巻く人々に起こる13日間の出来事を描く。
主人公ラスコーリニコフの殺人犯としての犯罪心理、予審判事ポルフィーリとの心理戦、卑劣漢ルージンと婚約してしまった妹の問題、妹を追ってやって来た淫蕩な地主スヴィドリガイロフの不可解な行動、これら一つ一つのストーリーが丁寧に描かれ、また各々のストーリーが主にラスコーリニコフの心理状況という軸を通し、互いに関連もする、非常に内容の濃い作品でした。
物語が進むにつれて登場人物や問題が増えて行き、どんどんと大風呂敷を広げられていくような感覚がありましたが、見事に纏め上げられており、むしろ最終的にそれら全ての場面が必要最低限の事象として有効活用されている点には脱帽です。
総合小説として筆者自身の持論が織り込まれた、より難解な作品かとも思っていたのですが、その要素に関しては思っていた程でもなかったです。
文章構成として特徴的だったのは、各登場人物の台詞が非常に長く、まるで長台詞を演説のように喋る古典舞台の一幕を見ているようでした。部分的に飽きてしまいそうな一遍もありますが、一度物語が動き出すとその展開の意外性には目を見張るものがあり、表面的なエンターテイメント性にも欠けていません。
中巻では、「予審判事ポルフィーリ邸での心理戦」「母、妹、ルージンらとの会食」「ソフィアとの会話」「ポルフィーリとの警察署での心理戦」がメインプロットとなります。ポルフィーリ邸での心理戦では、この物語の中核をなすラスコーリニコフの犯罪に対する考え方が、彼の書いた論文という形で述べられる点に注目です。その理論自体も、現代における戦争の正当性などと絡めると、あながち逸脱したもので無い様に感じられ、考えさせられました。中盤では、ようやく初めてスヴィドリガイロフが登場したり、さらに別の新たな大きな問題が浮上したりと、これ以上風呂敷を広げて良いものかと思われる部分もありますが、最終的に全て必要な展開であった事が分かり、面倒な展開になりそうだと投げ出さずに我慢した甲斐がありました。 続きを読む投稿日:2013.10.30
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チーズはどこへ消えた?
スペンサー・ジョンソン, 門田美鈴 / 扶桑社BOOKS
チーズは消えるものだ
2
「迷路」=「人生」の中で、「チーズ」=「成功に値する目標」を探すお話。
メインとなる寓話の前後には、この物語を聞く架空の人物たちによるディスカッションも描かれており、それを通して我々に問題提起や解決案…の一例も提示している点に、やはりビジネス書としての機能を感じた。
チーズを失ったとき、我々は往々にして必要以上で無意味な"反省会"、”原因追究”、"責任問題"の議論に偏りがちだ。
PDCAサイクルを回すにあたり、PlanやCheckは重要であるが、具体的行動に落とし込めないことは多々ある。早急なDoとActionに移る事の大切さを身に染みて感じた。
その一方、本書では闇雲に次のチーズを探しに出たネズミ達が成功の道を辿るのであるが、そこを重要視してしまうのも曲解であるように感じた。無計画な行動は、それはそれで無駄も多いし、危険だと感じる。
重要なのは、ネズミ達はチーズが恒久的に存在するものでないという感覚を常に有していた事と、小人の一人「ホー」が勝ち得た”変化に対する恐怖心”を克服した事、そして、新たなチーズもいつかなくなると心得て、それに対するリスクヘッジを取るようになった事。
人生という迷路を生きる以上、安定なんてどこにもない。
私のチーズにもだいぶカビが生えてきている。早速、近くの路地を曲がってみようか。 続きを読む投稿日:2014.06.11
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双頭の悪魔
有栖川有栖 / 創元推理文庫
論理的な本格ミステリー
2
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(あらすじ)
推理小説研究会に所属する大学生 有馬麻里亜は、一人旅の途中に知った芸術家達が共同生活を送りながら、俗世と離れ自由な創作活動に専念する木更村の生活に惚れ込み、数か月の滞在を決意する。
同じく推理小説研究会の有栖川有栖らメンバーも、心配した麻里亜の父親に娘を連れ戻す事を依頼され、木更村に向かう。しかしながら、木更村への侵入に苦戦しているうちに、有栖らの滞在する夏森村と木更村とをつなぐ唯一の橋が台風によって落ちてしまう。
そして、陸の孤島と化した木更村と、川を隔てた夏森村の両方で事件は起こる。
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少人数のクローズドサークルを舞台とした古典派ミステリーと、警察などの介入も可能な社会派ミステリーの両方が味わえる作品。とは言え、携帯電話などは普及していない90年代初頭の設定なので、後者の舞台も若干古典派よりです。
奇を衒った仕掛けなどは一切なく、論理性が追求された正統派推理小説です。その論理性への自信は、3回の“読者への挑戦”からも垣間見えます。
マーカーや書き込み、付箋つけたりなど、まるで文献調査をするかの如く本腰を入れた読み方をしても、最後に開示される解答には納得感が得られるかと思います。小説の読み方としては、あまりにも疲れてしまうのでおすすめはできませんが(笑)
もちろん、普通の小説のように物語として読んでも面白いですし、当然私もそのように読みました。物語進行が少し遅い印象を受けますが、ラスト50ページあたりからの展開には目を見張るものがあります。
各々の事件の事象にのみ固執せず、物語全体を俯瞰して考える事がカギです。その事に最初から目を見張れるのは、読者である私達のみです。
それが見えたとき、この本のタイトルの真意が分かります。 続きを読む投稿日:2014.10.19