【感想】コンクリート崩壊

溝渕利明 / PHP新書
(9件のレビュー)

総合評価:

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  • 中国は3年でアメリカの100年分のコンクリートを使ったという

    鉄筋コンクリートなしではインフラは成り立たないが高度成長期に作られた構造物が築50年を超え始めている。圧縮に強いコンクリートと引っ張りに強い鉄筋、しかもコンクリートそのものが鉄をさびから防ぐという素晴らしい組み合わせだが、それでも老朽化は進む。最新のものでは鉄筋に錆び止めのコーティングを施し耐久性を大きく増しているそうだが既にある構造物は老朽化診断をされていないものが多い。

    日本の橋梁は約15万あり内4万1千は1970年代までに作られた。東海道新幹線は東京ー大阪間515kmのうちコンクリート橋が148km、鉄橋が22km、トンネルが70kmありこれらを会わせると延長のほぼ半分に当たる。JRは予防保全工事の前倒しを発表しており工事規模は10年間7300億円になったと言う。首都高は主に鋼構造だが延長が300kmを超え全線の1/4が大規模修繕、更新の検討対象に上がっている。費用資産は7900~9100億円だ。さらに今後10年で新たに110km修繕対象が増え3200億かかる。高速道路(東日本、中日本、西日本)の長期保全計画は大規模修繕2兆円、大規模修繕に3.4兆円でこの修繕が更新に変わるとさらに5.2兆円追加になる。いずれも代替路線を手当てしないと修繕も進まない。さらに深刻なのが下水道で総延長44万km、50年超が1万kmになっている。硫化水素が発生するため検査自体ほぼ行われていない。ダムについてはそのものの崩壊は無いとしても堆砂のために機能が落ちているものは増えて来ている。

    「コンクリートから人へ」の民主党政権を批判しているのだがこうなったつけは無計画に増やし過ぎたのも一因だろう。いずれにせよ公共投資の中心は新設から維持保全や更新に変わらざるを得ない。それでも修繕費が積上り人手不足で金も手も回らないと言う所が問題の様だ。
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    投稿日:2015.03.01

  • コンクリートの性状について知るには良い書だが

    コンクリートとは、いかなる材料であるかということをわかりやすく説明してある。コンクリートを専門にしている人間には当たり前であるが、素人には知られていないこと、たとえば圧縮に強く引張に弱いという性質や、鉄筋と熱膨張係数がほぼ等しいといった物理的性質を記述することにより、理解を助けている。中性化や塩害、アルカリシリカ反応など、基本的なコンクリートの劣化システムについても記載があるなど、本書はコンクリートの維持管理上の問題点を網羅したように見える。コンクリート単体では長寿命たりえるが、鉄筋との出会いによって短命になってしまったというのも専門家以外にもわかりやすい、良い表現だと思う。

    しかし、本書は冗長に思える箇所も多い。たとえば現在のコンクリートと古代コンクリートは組成が異なるのだから、紙数を多く費やす意味はほとんどない。
    落橋の例として挙げている韓国の聖水大橋は鋼トラス橋、インドネシアのクタイ・カルタヌガラ橋も鋼吊り橋、ミシシッピ橋も鋼トラス橋、新潟の朱鷺メッセ連絡橋も鋼橋である。しかも、いずれも設計や施工のミスが指摘されている橋だ。コンクリートの劣化や維持管理とは少々趣の異なる話である。
    民主党政権により土木事業の予算が削られ、維持管理費もおろそかにされたという指摘も、土木建設業に携わってる業界の人間としては怨嗟の声を上げたくなることだ。ただし、小泉政権の時から公共事業費が大幅に削減されているということは一言も触れられていない。大学の「土木工学科」が不人気学科になって「環境」とか「都市工学科」に名前を変えていったのはこの頃からである。

    また、必要なことを書いていない。現場経験を重ねるにつれてわかることだが、コンクリートの劣化損傷原因の第一は施工にある。最も多いのが、鉄筋のかぶり不足。設計上は30mmあるはずのコンクリートのかぶりが数mmしかないという床版はざらにある。打ち継ぎ目の施工が悪いコンクリートには隙間が生じて水が漏れ、PC鋼材を防護するはずのグラウトがシースに充てんされていない。中空床版橋では円筒型枠が浮き上がって床版厚が薄くなっていたり、円筒型枠の下に空洞が生じていたり。
    ポンプによる圧送のための加水については少し触れてあるが、こうした施工段階における問題点はほとんど指摘がない。

    土木に従事している者にとって、自らの痛みを伴うことであるが、こうしたことも明らかにすべきである。
    もっともらしく「コンクリートの寿命は50年」などと触れ回っている人がいるが、適切に施工されたコンクリートは本来もっと寿命が長い。コンクリートの専門書には「50年」と書いてあるものなど全くない。

    2007年に国土交通省は「長寿命化修繕計画策定事業費補助制度要綱」を発表し、都道府県は5年、市町村は7年の間に点検調査を行い、長寿命化計画を策定すれば補助金を得ることができることとなっている。逆にこの計画を行っていない橋には補修の補助金が下りてこないので、各自治体は大急ぎで点検調査を行っている。5年毎の点検も義務付けられた。
    こうした基本的な情報も記載がない。

    コンクリートの調査・点検・補修設計のできる人間が極めて少ないのは事実であり、育成が必要であることには賛成だが、「コンクリートドクター」に関する論も粗雑なところが残念。重箱の隅をつつくようだが、コンクリート診断士の更新は本書では3年毎と書いてあるが、4年毎である。
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    投稿日:2015.06.10

ブクログレビュー

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  • 三十路くん

    三十路くん

    コンクリートの教科書?って思うぐらい詳細に詳しく書かれているので、詳細部分は当然のごとく流し読み。民主党政権時代のコンクリートから人への政策がいかにだめだったかを土木関係の人から見た視点で詳しく書かれていたりする。

    だけど、この本を読み終わって危機感を抱けか?ってなると・・・どうせ誰かが対処してくれるだろうという楽観的な感想を抱く。
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    投稿日:2022.01.01

  • bachbygg

    bachbygg

    コンクリート工学の専門家による入門書。
    現代において様々な構造物にコンクリートが使われているが、どのような材料なのか知らない事が多い。この本では、コンクリートの歴史、性質、工法などを簡潔に紹介し、現状の問題点と今後の対応について提言を行う。
    コンクリートは、日本中のどこにでもある当たり前の材料で、普段はあまり気にしたことが無い。しかし、最近メンテナンス不備による事故(トンネルや橋の崩落等)や、海外での建物の倒壊の話をよく聞くようになった。鉄筋コンクリートの構造物は堅牢なイメージがあるが、実は中性化やアリカリシリカ反応、塩害などの病気がある。人間と同じく時間の経過と共に劣化していき、ある時点で壊れていくものらしい。アメリカでは古いインフラが30~40年経って崩壊してきており、日本でも今後、同様の事象が起こる可能性があると指摘する。特に日本は山国であり橋やトンネル等の構造物も多く、メンテナンスが行き届かない場所も多いと思う。事故が起きてからでは遅いので、メンテナンスの専門家を配備し、チェックを行うべきという著者の提言には説得力があると思う。
    ちなみに先日、東京から鹿児島中央まで新幹線に乗ってみたが、山陽新幹線区間は揺れや騒音が酷かった。単にトンネルや高架が多いためかと思ったが、実はコンクリートの塩害による劣化によるものらしい。開業から40年以上経って、そろそろ危ない時期に来ているのかもしれない。そういえば、新幹線が青函トンネルを通ることになるが、開通してもうすぐ40年。少し心配になってきた。
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    投稿日:2016.02.21

  • アカセン

    アカセン

    扇情的なタイトルであるが、展開はしごく真っ当。まずコンクリートの歴史、性質、材質を素人にもわかりやすく解説し、そこから生じる欠点、劣化、寿命について述べ、最後にあるべき姿を示す。

    こういう警鐘本は自分が訴えたい問題を語るのに一生懸命になりがちで、初学者を置いていく傾向があるが、本書は全く無関係の人間が議題に参加できるようになれるまでの道を敷いているところ、さすが土木業といったところか。

    後半の施策の提案においてはやや個人的な事情・情感が表に出過ぎてる感もあるが、総じて読みやすい、コンクリート入門書。
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    投稿日:2015.12.24

  • sazuka

    sazuka

    コンクリートは永遠のものではなく、放っておいたら壊れるのだ。



    笹子トンネルの天井崩落事故以降、高速道路のトンネル点検の場面にたびたび遭遇した。そう、コンクリートには点検が必要なのである。



    建物・構造物が完成するまでの工事保険はあっても、人間の生命保険に相当するような保険がない。けれどコンクリートも病気になる。「塩のとりすぎ」も体に悪い。健診を怠れば、病魔は深刻なところまで進む。けれど、保険がない(資金の手当がない)から、なおせない。これが現在のコンクリート建造物の実情である。笹子トンネルの件は、大きく報じられて国が動いたが、橋やらビルやら下水管やら、コンクリートで出来た古いものは沢山ある。



    そして、戦前の、現場施工のコンクリートに比べると、生コンを工場でつくって持っていく、という現在のスタイルのコンクリートのほうが強度に劣るという。



    欠点を克服した新型コンクリートの紹介もあるが、全体の主旨としては、とにかく健診をして保険に入れるようにしろ、と。



    コンクリートから人へ、という浅はかなフレーズでコンクリート界隈が貶められたりして、学生も減ったり、ということで将来が危ぶまれるところもあるようだ。式年遷宮のように、ダムをずらして複製していくやり方なども提言されている。



    鉄筋と出会ったことがコンクリートの飛躍でもあり不幸でもあった。コンクリートのメカニズムと、必ず起こるといってよい危機への備え。とかく、住宅レベルでは一度打ったらもうそれっきり、というコンクリートだが、病気もするし死んでしまうこともあるのだ。



    コンクリートには問題もあるが正しく扱って安全な未来を、という方向ではあるが、怖さがどうしても目立ってしまう。特に近年の日本では、いろいろなものがメンテナンスフリーのように思い込まれている。

    モノは、もっと適度に壊れないとイカンのだ。あるとき急に、ではなく、適度に。
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    投稿日:2014.11.10

  • kiyop92

    kiyop92

    コンクリートから人へ、のキャッチフレーズを唱えた方々の弊害が根深く残っている中、土木工学を学ぼうとする学生が増える要素は残念ながら無い。本書でいうコンクリート医師の社会的評価向上を待つしかない。土木工学に携わるものとして、広く分かり易く説明し続ける決意を改めてした次第である。続きを読む

    投稿日:2014.04.05

  • polyhedron

    polyhedron

    重要性を増すインフラの更新・延命化。コンクリートの基本からこれからの土木技術のありかたまでを紹介。コンクリートの劣化を人間の病気に喩える説明は,分かりやすくはあるけど,誤解を招きそうでもある。専門的に過ぎる記述もあり,ちょっとバランスが悪いかも。続きを読む

    投稿日:2013.10.02

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