guriさんのレビュー
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40
このユーザーのレビュー
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紙の月
角田光代 / ハルキ文庫
紙のように白く薄い月
13
平穏な日常生活を送る主婦が、偶然の出来事と、ある切っ掛けにより犯罪に手を染めて行く。しかし、彼女は、犯罪とは考えていない。知らずのうちに出来てしまった心の空虚を物欲で満たすように、搾取した金は後から補…填すればいいと簡単に考えていたから。金銭感覚のマヒは、余程、堅実でない限り、女性であれば誰もが陥りやすい。どれだけの労力と貴重な時間を提供して金銭を得ているかを、常に肝に銘じていればいいのだろうけど、自分自身を高める為に華美に装って、そして、もっと人に良く見られたいと思う気持ちになるのは共感できる。主人公である梨花や、その友人らが買い物をしている場面では、余りの潔さに羨望と爽快感すら覚えた。だが、読後は、いつもより金の価値をシビアに考える様になった。
兎に角、先の展開が気になって、一気に読んでしまいたくなる作品。
宮沢りえさん主演の映画も、観に行きたいと思った。 続きを読む投稿日:2014.11.11
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その女アレックス
ピエール・ルメートル, 橘明美 / 文春文庫
「このミス」の評判に、だまされたかな?
12
かなりハイスピードなサスペンス映画を観た様な印象。映像であれば、登場人物のキャラクターの濃さとショッキングな展開と次々に移り変わる画面の迫力で、内容は薄くても飽きる事なく、腑に落ちない部分があっても自…分勝手に想像して楽しむ事が出来るが、活字となるとやはりそうもいかない。ラストも、もしかしたら作者は、締め切りに追われ、中途半端に脱稿したのではないかと思うような終わり方。翻訳本であるから訳し方にも、問題があるのかもしれないが、期待が大きかっただけに却ってがっかりした。読んでつまらない作品ではないので、ヒマつぶしにはいいでしょう。だけど、グロテスクな場面も多く含んでいるので要注意。 続きを読む
投稿日:2014.12.30
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黄昏に眠る秋
ヨハン・テオリン, 三角和代 / ハヤカワ・ミステリ文庫
いつか夢で見たような風景
5
スウェーデンのエーランド島という、今まで見聞した事もないこの物語の舞台の風景が、読んでいるうちに自然と心に浮かんで来ます。それは、最初の「霧」の印象からか、幻想的であり、避暑客がいなくなった季節外れの…時期である為に、茫漠としています。絶え間なく打ち寄せる波音が、悲しみを運んでくるように、主人公は、常に、悲嘆にくれ、二十年以上も前に、いなくなった息子の姿を追い求めています。理性では「死」を覚悟していても、感情では万が一の可能性を捨て切れずにいるのでしょう。打ち捨てられた家の幽霊の話も出て来るのですが、肉体が朽ちた後に残る魂の存在が、出来事に深く繋留し、この物語に厚みを齎しているように思いました。
一読の価値あります。 続きを読む投稿日:2014.07.01
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ひそやかな花園
角田光代 / 講談社文庫
ひそやかな花園
3
命について、・・・について(・・・を書いてしまうと小説の核心に触れてしまう為伏せておきます)、いろいろと考えさせられる小説です。
真相が判明するまで秘密の匂いが漂っていて、早く知りたくて先へ先へと読み…進んでいってしまいました。
どことなく、カズオ・イシグロさんの有名なとある小説の雰囲気に似ているところもあったように思いました。
読んで損はないと思います。 続きを読む投稿日:2014.04.15
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太陽は動かない
吉田修一 / 幻冬舎文庫
スパイシーな香りと、エキゾチックな雰囲気満載のスパイ小説
3
普段、余りスパイものを手に取る事はないが、この作者の作品は、今まで大きく期待を外された事がなかったので、思い切って読んでみた。
舞台が、近隣のアジア各国やアメリカにまで及んでいる為、内容や設定が残虐で…閉鎖的であっても、スケールの大きさや、空間的な広がりを常に感じながら味わう事が出来た。
タフな登場人物も魅力的だし、ラストの展開も適度な焦燥と充足感があって、一読の価値はあるでしょう。
さすがに、芥川作家! ★は4評価を付けたが、本当は4半位。
続きを読む投稿日:2015.02.06
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六人目の少女
ドナート・カッリージ, 清水由貴子 / ハヤカワ・ミステリ
失くした腕の痛み
1
映画「羊たちの沈黙」の場面を彷彿とさせます。特に、主人公の女捜査官が、たった一人で、暗闇が蔓延る現場の建物の中に踏み込んで行くところなど…。この手のミステリーのご多分にもれず、登場人物たちは、それぞれ…トラウマを抱え、払拭できない懊悩と自省に駆られている様です。読後は、余りすっきりせず、もやもやしたものが残りますが、読み応えは十分にあります。ただ、切断された六人の少女の左腕という、余りにも阿鼻叫喚な事件の割には、解決までの行程が、期待外れだったように思います。 続きを読む
投稿日:2014.07.08