okadataさんのレビュー
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脳には妙なクセがある
池谷裕二 / 扶桑社BOOKS
やる気を出すには身体を動かすこと、そして笑ってやれば報酬系が働き習慣化できるはず・・・さて。
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脳に言うことをきかせるには形からはいる。
面白くなくても笑顔の表情を作ると報酬系の神経が活性化しドーパミンが出るという研究がある。笑うと楽しくなるのだ。赤ちゃんに笑いかけるとまねをして笑いかえしてくれ…るのだが、そういうところで他人の感情を読み取ることを学習しているのかも知れない。それに限らず共感すると相手の表情をまねし、それに感情が引っ張れるのだとか。ダニエル・カーネマンのファスト&スローにも似た様な研究が紹介されていたがうさんくさい話を聞くときにはまず疑いの表情を作ること。自然と相手の話のあら探しをするらしい。圧迫面接もこの系統ですね。表情だけではなく姿勢も大事で背筋を伸ばすと確信が高まる。相手の印象だけでなく自分自身の印象も変わるというのが面白い。
著者の池谷さんは元気を出せ、気合いを見せろの日本語と英語の表現について、気合いを見せろといわれてもうまく説明できないと書いている。英語のCheer upやChin upは声を上げろ、あごを上げろという身体表現が元気を出せという意味になり体で表現するのに対し、日本語では身体性が薄く精神重視だと書いている。気合いって元々は声を出すことじゃなかったっけか?息を吸うと動けないので吐きながら動くのが声を上げることにつながったという理解でしたが。だからシャラポアの声は気合いだけど福原愛の「たーっ」は気合いではない・・・かも。
人間は自由に生きられるか。
ある研究によると不規則な生活をしている人でさえ、80%以上はお決まりの習慣に従っている。平均的には93%人の移動パターンは言い当てることができ、携帯電話の移動記録からはある人の行動パターンを知っていればおおざっぱに言えば居場所は2カ所に絞り込むことができるという。(たしかに移動を除けば家と会社にいる時間が圧倒的に長い・・・)自由な意志に基づいて自分の行動パターンに縛られているということだ。ダイエットをしようとか運動をしようという意思はあっても無意識な自分は怠ける方を決断していると。
体を動かせばやる気が出る。
元々脳の働きは運動や感覚と深い関係を持っている部分が古いものでその上に大脳新皮質という回路がのっかり進化の段階で大きくなりついに下克上を起こしたというのが池谷説だ。本来は旧脳をサポートする大脳新皮質の機能が優位になり、この新皮質は身体との関連性が薄いので身体を使わなくても脳内だけで高度な処理を行える様になっていった。例えば蝶ならば花の匂いがするとそこに身体を運ぶところが、人間は匂いから花を想像し俳句を詠んだりする。身体活動への出力をやめ、脳内で情報をループさせることが考えることのはじまりじゃないか、つまり脳回路から身体性を開放した結果が「我思う故に我あり」の始まりだというのだ。それでも脳と心理作用を調べると。苦みと嫌悪、痛覚と心痛、眼球運動と暗算など異なる脳機能系が系統発生的な根源を共有しているという示唆が見られる。それでも言語が生まれたのは進化的には最近のことだし脳の機能は出力=身体を動かすことだったことが元になっていることには変わりはない。だから眠たくなったから寝るというより、布団にはいって横になって眼をつむるから眠たくなるという反応が起こる。
やる気を出すには身体を動かすこと、そして笑ってやれば報酬系が働き習慣化できるはず・・・さて。
池ケ谷さんの言いたいことを書いた3章をまとめてみたがいろいろ小ネタ満載で楽しく読めます。
続きを読む投稿日:2014.12.29
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HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか
ベン・ホロウィッツ, 滑川海彦, 高橋信夫, 小澤隆生 / 日経BP
苦闘する人たちへ
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やたらと評判の良いこの本だがこれが本当に役に立つ人がどれだけいるのだろうと言う気がしなくもない。
本当に難しいことは、「社員を解雇すること」「既得権にあぐらをかいた優秀な人々の不当な要求に対処するこ…と」などなど自身の経験をもとに、答えを提供するのではなく苦闘している人に何かのインスピレーションとなるようにと書かれている。
一般人が触れた最初のブラウザ「モザイク」を開発した22歳のマーク・アンドリーセンが立ち上げたネットスケープ社に押しかけたベン・ホロウィッツはウェブサーバーの開発を任された。ちょうどウインドウズ95にインターネット・エクスプローラーが無料でバンドルされたころだ。ネットスケープをAOLに売却した後マークとベンはトラフィックの増大によるトラブルを解決するサービス「クラウド」のアイデアを元にラウドクラウド社を立ち上げた。会社設立直後にITバブルの崩壊に見舞われ、IPOによる上場を目指すがこの時の運転資金は3週間分しかない。なんとか立ち上がったこの会社も顧客の倒産により資金繰りがつかなくなった。会社を分割し残った会社をなんとか生き残らせる。そうしながらベンが苦闘した出来事と、いくつかのヒントを語っている。
自分へのメモ「やってないことは何か?」を聞くのは良いアイデアだ。
「会社倒産の準備をするんだ」しかしベンはやらなかった。CEOは確率を考えてはいけない。会社の運営では、答えがあると信じなきゃいけない。答えが見つかる確率を考えてはいけない。とにかく見つけるしかない。可能性が1に9つであろうと1000にひとつであろうと、する仕事は変わらない。
幹部を解雇する第1ステップはなぜ、会社に不適切な人物を採用したかを解明することにある。
教育は、早い話が、マネージャーにできる最も効果的な作業の一つだ。
所々にこういうヒントが有るので起業する人には役に立つのだろう。
「大組織においては、どの職階においても社員の能力はその職階の最低の能力の社員の能力に収斂する」ベンが名付けた「ダメ社員」の法則によると、部下は直近の一番ダメな上司と比べ自分でもそれくらいはできると考え、同レベルの社員で占められると無能レベルに達する。だそうだ。
ツイッター創業物語ほどのドタバタ劇ではなく真面目に書かれた本なのだが役に立つかどうかは少し微妙。この本に共感する人は苦労しているのだろう。 続きを読む投稿日:2015.06.24
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チューリングの大聖堂 コンピュータの創造とデジタル世界の到来
ジョージ・ダイソン, 吉田三知世 / 単行本
はじめにコマンドラインが有った。必要だったのはC(A)だけであった。
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まあ大変な本だ。写真だけで50ページ弱、登場人物の紹介に10ページ(しかも役に立つ)、第1章が始まるのが63ページからで原注も50ページを超えている。数学的な記載はとてもついていけないが、登場人物ごと…のエピソード、IAS内の対立など当時の雰囲気はよく伝わる。しかし、話は時系列にそっていないので少し大変だ。コンピューターのデーターはランダムアクセスなのだからそれも仕方がないか。
舞台はプリンストンにある高等研究所(IAS)、1930年に設立され33年に数学部門、34年に人文学、35年に経済・政治部門が開設された。その後人文と経済・政治応用は統合され歴史学となり自然科学が数学から派生している。
主人公はフォン・ノイマンと言っていいだろう。数学者としてのノイマンはゲーム理論のミニ・マックス定理で知られるが、それよりもその天才ぶりを示すエピソードにはいとまがない。ノイマン以外にもハンガリー移民があまりにも優秀だったためハンガリー人=宇宙人説が流れたほどだ。IAS初代所長フレクスナーは学者のパラダイスを作ろうとし、教授の任命を始める。数学者オズワルド・ヴェブレン、アインシュタインについで当時29才のフォン・ノイマンら数名が選ばれた。ナチスドイツの迫害が始まりIASは研究者を救うため受け入れ、数学研究は純粋数学、応用数学とノイマングループができていった。
戦争が始まるとノイマンは軍に協力を始めた。例えば弾道計算や爆弾の衝撃波そして後に水爆を起爆する際の爆縮レンズなどの研究をしている。このころ既にコンピューターと言う言葉が有るが、これは人間コンピューターで10桁の機械式電卓を使って20名ほどががらがらと計算をしていた。パンチカードを通し出てきた答えは次の電卓にまわされていく。
コンピューターの原型は1967年に微積分を発見した数学者ライプニッツが構想している。一つの容器に開閉可能な穴を多数並べて空け、おはじきを落とす事で1と0を区別し、原始的なシフト・レジスタにより二進法の計算ができるようになっていた。
1936年9月29日アラン・チューリングがプリンストン大学にやってきた。その5日後「計算可能数、ならびにその決定問題への応用」と言う11ページの論文の更正刷りが出来上がった。そこに書かれているのが万能チューリングマシーン、紙テープを読み取りそのブロックごとの記号を読み設定に基づいて記号を書くか消すかし、テープを移動する。この概念によって数が物事を行うようになった。コンピューターに興味を持っていたフォン・ノイマンはこの論文の可能性をすぐに理解し電子式のコンピューターの開発を始めた。
電気式コンピューターを作ろうとしていたのはノイマングループだけではなくある要素技術は他のチームの方がすすんでいるものもあったのだが、1945年にフォン・ノイマンが書いた「EDVACに関する報告の第一草稿」には階層メモリ、制御機構、中央算術演算ユニット、そして入出力チャンネルと言った構造やコード化された指令の定式化と解釈といった他のグループの発明を全て無効化するものだった。ENIACの開発者エッカートからはノイマンが手柄を独り占めしたように見えた様だが、ノイマンは公知化するのが目的だったと述べている。
IASのコンピューターMANIACが当初利用されたのは気象予報やモンテカルロ法、水爆にデジタル生命体などだった。モンテカルロ法はソリティアを完成させる確率をスタン・ウラムが何時間も計算するよりも実際に100回繰り返して数える方が実際的だと考えた所から始まった。これを核分裂の中性子の生成に当てはめでたらめな乱数を元に計算した結果を統計的に扱うと結果は集束していく。モンテカルロ法はコンピューター将棋をプロレベルの実力にし一方ではサーチエンジンを生み出した。デジタル生命体は別の進化を遂げ、コンピューターウイルスとアプリを生み出した。
作者のジョージ・ダイソンはIAS教授フリーマン・ダイソンの息子であり子供の頃プリンストンで暮らしていた。ダイソンが見つけたMANIACの技術者ジュリアン・ビゲローが残したメモにはこうある。
要求:1語(40bd)について二つの命令を含ませる、各命令=C(A)=コマンド(1-10,21-30)・アドレス(11-20,31-40)
はじめにコマンドラインが有った。必要だったのはC(A)だけであった。 続きを読む投稿日:2014.01.01
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イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言
デービッド・アトキンソン / 講談社+α新書
シンプルアンサーに頼らず数字に基づいた分析と改善を積み重ねるしかない
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いやあこれは爽快、バブル崩壊後に日本にメガバンクは四つあれば良いと書いた元アナリストで、現在は寺社仏閣などの文化財修理会社小西美術工藝社社長のデービット・アトキンソンさんの日本社会への提言。日本はまだ…まだ遅れた部分がある、だからそこを伸ばせば成長できるとこういうストーリーだが日本社会へのだめ出しっぷりが気持ちいい。
例えば非科学的なことを大真面目に語るミステリアスジャパニーズ現象の数々
メガバンクの頭取がプライベートバンキング部門を新設するとコミット、どれだけ人員を割きますかという問いへの答えは「5人!」、しかし日本人アナリストは「買い」推奨(笑)なぜかというと「頭取の目つきがいつもと違っていた!」だ。日興銀の頭取は合併を主張し、その根拠として「利益も少ないし、含み益はあるけど人も店舗も少ない、しかし実態を無視して株価は高い」と説明するアトキンソンさんに「この興銀の廊下から壁から。これまで日本経済を支えてきた産業界、経済界の人々のパワーが出ている。それが利益に反映されていないだけだということが、株が高い理由です」だと。元々銀行幹部はアナリストは「俺が言ってることを黙って書けばいいんだ」という態度だったらしいがそれは外国企業には通じないわなあ。
そんなアトキンソンさんの日本の現状の基本認識はこうだ。日本の一人当たり購買力平価GDPは世界25位、上位は主に人口が少なくはっきりした収入源のある国が並ぶ。人口が1千万を越えてくると資源国の順位が高い。そして先進国ではアメリカ53143$で10位、ドイツ43332$で17位フランス、日本、イギリスが36千$台で24〜26位だ。世界一の技術大国だというならアメリカやドイツに並んでいないとおかしい。世界一の技術を誇る業界はあっても平均するとそこそこだということだ。そしてこれから少子高齢化は進むのでGDPは下がっていく。
ウーマノミクスはどうか。女性就業率が62.5%から男性並の80.6%に増加すると710万人の雇用と12.5%のGDP押上効果が見込めると言うのだが数千万人の人口規模の国で女性就業率が70%を越えている国はひとつもない。他の先進国のGDP押し上げ効果は日本と変わらないと言うことは現実的には日本の女性就業率はそれほど劣っていない。就業率ではなく「重要ポストへの登用」による新しい価値観の導入の方が意味があるのではという見立てだ。
GDPに占める輸出入の割合が小さいのは成長のための大きなポイントになる。輸出ですら世界シェア3.9%でドイツの半分以下だ。しかも明らかに自動車に偏っている。そしてここからが本題で観光業には大きな可能性があるが日本は観光客が望むものを理解しているとは思えない。「お・も・て・な・し」を勘違いするとせっかくの資源が無駄に終わるよと言う話。少し早くついてもチェックインさせない客の都合より自分たちの都合を優先する高級旅館があったりする。また銀行の話に戻ると「クレームに対応するのではなく、行員は説得する役割です。」クレームを入れる人は「誤解している」らしい。アトキンソンさんは裏千家で茶道をやっておりお茶の基本は「もてなすための臨機応変」だという。普通の町の人の小さな親切の方がおもてなしとしては本筋なのだ。
イギリスでは観光客の多くが文化財を見に来るのに日本の文化財保護予算は余りにも少ない。しかもアトキンソンさんの修復には国産漆を使いましょうと言う訴えはなかなか受け入れられなかった。ただコストを下げろといのではだめで、観光客はその世界を取り巻くストーリーを体験しにくるのが「文化」なのだと。そして観光業が雇用も経済成長も呼ぶのだ。日本の予算はイギリスの1/10しかなく入札が無防備で工事終了後の検査制度がなく、つまりちゃんとした仕事もやっつけ仕事も入札金額でしか評価されていない。
アトキンソンさんの重要な指摘は「シンプルアンサー」を求める人が多いことだろう。アベノミクスで景気が良くなるとかもそのわかりやすい例だ。逆にすぐに効果がないと切って捨てるのも同様なのだが。サッチャーもレーガンも効果が出るまで5〜7年はかかっていた。5年度の税収は予算を上回り54.5兆だとか。新規国債の発行は4兆円減らして37兆円。そして文化財保護費用は81億ほどで、観光業収入は149億ドルとマカオの1/3以下。だからといってカジノやIRに飛びつくのが「シンプルアンサー」だ。観光地でお金を落とす国民で日本に来ているのはアメリカと中国くらい。オーストラリアやヨーロッパのリピーターが来る様な施策が必要だ。外国人観光客が日本で食べたい料理はステーキ、しゃぶしゃぶ、すき焼き、お寿司と言う順。イメージとの違いはやはり数字に基づいた分析と細かい改善を積み重ねていくしかない。 続きを読む投稿日:2015.01.07
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チャイナ・ナイン
遠藤誉 / 朝日新聞出版
チャイナ・セブンになってしまったが
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日経ビジネスオンラインで中国ネタはいろいろ有るが抜群に分析が鋭い遠藤氏の現在進行形の解説書。中身は先のサイトに書かれたものも有るがまとめて読む方が理解しやすい。
中国を動かしているのは9人の中央政治局…常務委員で、25人の政治局委員から選ばれる。重大な決定は9人の多数決で行なわれるので、誰が選ばれるか熾烈な派閥争いが続く。失脚した薄熙来はパフォーマンスでアピールしたが、毛沢東時代に戻る気がない胡温に見放された。
今年の秋メンバーが入れ替わり習近平と李克強以外の7人が新たに常務委員となる。25名の内67歳以下が時期候補で9人いる。この中で誰が入るのかがこの夏の一つのポイントで、もう一つは習近平の次は誰か。先の9人のうち2017年に引退しないのは習、李以外に 李源潮、汪洋で習は上海閥だが、後は胡錦濤派の中共青年団派。江沢民の影響力は習近平を次期国家首席にするところまでだったと分析している。
2022年を睨むと習の次は現在52歳以下つまり1960年以降に生まれたものが候補であり、もしこの秋いきなり常務委員入りすれば胡錦濤、習、李と同じ路線であり胡春華、周強、孫政才の名が上がっている。
胡温体制は行き過ぎた経済発展からバランスの取れた社会への変換を目指しているが一方で現体制の安定が第一である。結果としては温家宝が民主的な発言をし一方で胡錦濤が締め付けるという役割分担をしていると言う。
これからの中国ではネットの力が無視できなくなる。広東省の烏坎村事件は村民の勝利がネットで瞬く間に拡がり民衆が勝利した画期的な事件だという。いつ迄も武力鎮圧一辺倒とは言えなくなってきている。また、胡温体制は何度か親日的なメッセージを出したがその度ネットの批判に晒された。尖閣についても08年5月7日の日中共同声明でガス田の共同開発を発表して売国奴とまで批判されたらしい。
こういったネット世論を作るのは主に30代迄で高卒以下の5億人。平均月収2000元未満が半数で5000元未満が9割を占める。一方で日本のアニメや漫画にはまっていたり、北京でSMAPを歓迎しているのも彼らだ。 続きを読む投稿日:2014.01.01
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官僚の責任
古賀茂明 / PHP新書
官僚を変える政治は選ばれるのか
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前半は政治家と官僚のダメさ加減を攻撃、ちょっとしつこいが鬱憤が溜まってたんでしょう。 最終章で、ではどうすればという提言でここは大筋意見が会う。 既得権益の構造を破壊しろと言うのが根底に流れ、官僚が自…力ではやれないので政治が介入しろと言う。 しかし、それも既存政党にはできんだろうということなので政界再編と選挙制度から変えないとできそうにないと思います。 続きを読む
投稿日:2014.01.01