ABAKAHEMPさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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百年法 上
山田宗樹 / 角川文庫
大著だが、一気読み必至のエンタメ本
3
寿命を制限する法律をめぐって社会や人びとがどうなっていくかが描かれる。
奇抜な設定も最初のアイデア倒れに終わらず、その後の展開もしっかりと練り込まれていて、あぁなるほどと納得させられることもしばしば。…
小説の中で流れる時間も長丁場だが、折々の時代の細かな変化を説明調にならず、流れの中で自然と語っているのうまいと思った。
ただ、映像系に近しい文体で、「目を瞑る。サイレン。真下で鳴り止んだ。目をあける。背筋を伸ばす。夜空を見上げる」など読むと、およそ文学書を読んだ気にはなれない。 続きを読む投稿日:2013.12.11
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ファスト&スロー (上)
ダニエル・カーネマン, 村井章子 / ハヤカワ・ノンフィクション
自信を揺らがせ、深い自省の念を抱かせる好著
3
脳は、因果関係が大好きだが統計的な推論にはとんと弱く、偶然の罠にもたやすく陥る。後講釈も大好きで、一貫したストーリーを作りたがるが、予想外の出来事が起こるとたちどころに記憶を消去し修正する。
平均への…回帰なんて説明では満足できず、そのため直感は、不可避的にバイアスがかかる。だけどその修正は、ホームランを打つチャンスを減じてしまう。
「主観的な自信は感覚であって判断ではない」が印象的。
これからはある予測や行為に自信を感じたら、それは正しいことだからではなく、脳がつじつまが合ってると喜んでいるに過ぎないと思おう。
著者は、直感を信じるなと言ってるのではない。過信するなと言ってる。過去や歴史を十分に理解し教訓が得れるなんていうのは幻想だし、将来や未来を知り得るとというのも思い込みにすぎない。倫理的にも社会規範的にも支持される行為であっても、われわれが本来備えている見方と合致しなければ、その望ましい結果にまで目を瞑ることになる。
社会も、標準業務から逸脱したがらない役所の連中や慣例通りの治療に満足する医師のように、リスク回避に走る生き方が一般的になりつつある一方で、一発逆転の無謀な賭けに出るギャンブラーが時に無批判で賞賛されている。
ニスベットとボージダの「人助け実験」の結果は考えさせられる。統計的な数字に納得しても、いざ感じの良い被験者を見ると、そんなことはすっかり忘れてしまうのは、総論賛成各論反対のいまの政界や、財政再建のために増税が必要だと分かっていもいざ報道で低所得層にどれだけ負担が増すかを知ると先延ばしする心性に通じている。
本書の端々で「自分がこの分野の第一人者である」ことを読者に分からせる書き方。
最後に著者近影を見て、鼻の穴の大きなドナルドダッグみたいな顔だと思った。
読み通すのに時間がかかるのは仕方がない。頭では分かったつもりなのにそう見えてしまう有名な錯視の2本の線を終始見続けてるよう。自信は打ち砕かれ、何をよりどころとすれば良いのか(統計か?)途方に暮れるのだから。
本書を読んで、深い自省の念を抱くか、自覚的に利用してやろうというよこしまな気持ちが芽生えるかは読者次第。 続きを読む投稿日:2013.12.11
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百年法 下
山田宗樹 / 角川文庫
独裁国家と反体制派との間の闘争とその顛末に終始
0
下巻だけに限ってみれば、ある独裁国家と反体制派との間の闘争とその顛末が描かれ、上巻で精緻に練り上げられた、不老化技術と寿命制限法によって成立する近未来の社会構造や親子関係(120歳以上の母親が今生の別…れに息子と床をともにし、自分の友人を恋人にしなよとアドバイスするシュールな展開)のドラマをもっと読みたかったな。
昨今の決められない政治に対する我々共通の不満をくみとる下巻のストーリーはそれはそれで楽しめるのだが、せっかく希有壮大な空間に足を踏み入れたのに最後になじみのドアから出てきたみたいで、残念この上ない。 続きを読む投稿日:2013.12.11
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ブレイクアウト・ネーションズ 大停滞を打ち破る新興諸国
ルチル・シャルマ, 鈴木立哉 / 単行本
次の10年でブレイクする国家を、候補国ごとに概説・分析
1
結論としては、チェコ、韓国、トルコ、ポーランド、タイ、インドネシア、フィリピン、スリランカ、ナイジェリアなどが、必要な成長率をクリアできそうな国として挙げられる。
著者が投資会社の責任者であるためか、…まるで投資セミナーに参加しているようで、脇道なしで次の有望な投資先はどこかと真剣に探る。
評価は、日本だけでなく、出身国のインドに対しても厳しく容赦なしだ。
閉鎖的で硬直的と思われがちな計画経済や同族企業経営があながち負の面ばかりではないとの指摘も面白かったし、輸出が堅調なアジアの新興国家が必ずしも順調に国民所得が伸びてくれないのは輸出依存度が高すぎるためで、日本のようにバランスの取れた発展が必要という指摘は意外だった。
自民党政権下の農村への手厚いばら撒きも有効だったということか。
アジアの金融危機で徹底的に経済が破綻してその後急成長を遂げた国と、バブル崩壊でエベレストから転落したにもかかわらず骨折もせず痛みも感じようとしなかった日本とを対比させて、ハードランディングの重要性を説く。
中国の成長率の鈍化とアメリカの低金利政策の見直しによって打撃を受けるのは、ブラジルやロシア、中東などの資源輸出国で、生き残るのは逆にコモディティ輸入国となる。
どこかの市場が暴落したり、成長が止まったからといってそれですべてが失われるわけではなく、新たな成長や市場というように質的に変化するだけという指摘も心に残った。 続きを読む投稿日:2013.12.11
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know
野崎まど / ハヤカワ文庫JA
ありきたりの人物設定や展開にゲンナリ
1
もしある事柄について、一切の外部機器に頼らず、電子葉というものを入れられた自分の脳内だけで、しかも瞬時にわかってしまうとしたら?
「最初から知っている」ことと「調べて知る」ことの差異はなくなってくる…。
その時、「知らない」という感情は起こらないか、一瞬すぎて痛みも感じないか?
逆に調べられない時に感じる「知らない」気持ちとはどんなものだろう?
面白そうだ。
が、謎の少女が登場したところで我慢しきれず、ねをあげました。
人物設定も展開もなんら新鮮味を感じない。
同じツボを刺激されて気持ちよくなれる人ならいいのかも。 続きを読む投稿日:2013.12.11
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病の皇帝「がん」に挑む(上)人類4000年の苦闘
シッダールタ ムカジー, 田中文 / 単行本
「がん」撲滅を信じ挑みつづける医師たちとその陰で犠牲となる患者たちの歴史
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がんの正体が少しずつ解明されていく歴史を楽しみにしていたら、やみくもに治療に邁進していく医師の姿が描かれていて驚いた。「より多く切り取れば、より多くの患者を治せる」とか、「化学療法を最大にすれば、生存…率も最大にできる」と。著者も「彼らの根本的な目的は、目の前の患者の命そのものを救うことではなく、別の患者の命を救う方法を見つけることだった」と書く。しかし、唯一の解決策は治療であり、がんを多様な疾患ではなく単一の病だとする揺るぎない信念がなければ、そもそもこの巨大な敵に立ち向かうことすら難しかったのだろう。
印象に残った文章をいくつか。
「がんを完治させるには患者を生死の境にまで追いやらなければならない」
「国立がん研究所はしだいに、毒工場に変わっていった」
「治療法の探求にばかり取り憑かれていた国立がん研究所の戦略の中に、予防が含まれていなかった」
「がんは過剰の病あり、拡張主義者の病である。がんに立ち向かうということは、われわれと類似の種に、ひょっとしたらわれわれ自身よりも適応能力の高い種に立ち向かうことなのだ」
「ほかのあらゆる殺し屋が殺されて初めて、がんはありふれた病になった。文明化はがんの原因ではなく、ヒトの寿命を延ばすことで、がんを覆っていたベールを取り去ったのだ」
残念なのは章前のエピグラムが過剰なことで、チョイスも平凡すぎること。半ばくらいからは、読み飛ばすことにした。 続きを読む投稿日:2013.12.11