hisashi9さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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嫌われる勇気
岸見一郎, 古賀史健 / ダイヤモンド社
いろいろ疑問と多少の不満
5
みなさん好意的なレビューですが、私は多少批判的に書いてみます。そのために最初に断っておこうと思います。何人かの方と同じく、私も「売れてるから読んでみた」という1人です。アドラーという人をまったく知らな…かった自分にとって、その入門書として、アドラーの考えを理解するのにはとても良い本だと思いました。以下、感じた疑問をいくつか。
一つ目の疑問:哲人が言う「アドラーはこう言います」「アドラーはこう考えます」という部分は納得できるし、実際にそのように振る舞えたら、すごく幸せだろうし、みんながアドラー的世界観の住人であれば、世の中はもっと違った所になるんだろうな、と思いました。
でも、アドラーやその伝道者が「他者の課題」に対して介入する事に積極的でないので(課題の分離)、「共同体的感覚」はあくまでも個人の主観による幻想でしかないように感じます。実際の共同体(構成員全体)が「共同体的感覚」を持ち得て、「住みよい世の中になったな」と感じたり、「他者信頼」や「他者貢献」を実行に移したりするかどうか、は重視されません。あくまでも、個人の問題のみに議論が終始して、「個人が変われば、みんなが変わる」というような結論に少しがっかりしました。
二つ目:「他者信頼」と「他者貢献」に加えて、同じく重要視される「自己受容」について。そのような心的態度を醸成したり、自然と習得したりできるような環境ってあるのでしょうか。実際の家庭や学校、職場では現在のところ「競争」や「縦の関係」の思想がある程度定着してますよね(もちろん時代とともに共同体のありようは変わっているわけで、将来において「他者信頼」や「横の関係」が根付く可能性は否定しませんが)。現時点では「自己受容」が「ライフスタイル(アドラーの言う性格)」として自然に身についたりはせず、まさにアドラーの伝道者のように、それを教える人が必要となると思うのですが、そこについては「馬を水辺に連れて行く」ほどのことしか説明されません。実際、例えば現在の日本の学校現場なんかを見ていて、説明不十分な気がします。
三つ目の疑問:そこで本書のようなアドラー解説書の必要性が出てくると思うのですが、読み終わってみると「嫌われる勇気」というタイトルには、強い違和感を覚えました。目を引くタイトルですが、そして実際に売れているようですが、本書の言い表したいことを端的に示しているとは思えませんでした。
四つ目の疑問:対話形式について。ソクラテスの対話篇に似せて作られた事があとがきでも述べられています。私はソクラテスの対話篇を目にしたこともないのでそれについてはよく分かりませんが、青年と哲人による本書の対話は、リアリティに欠けるように感じました。特に青年は生身の人間ではなく、哲人が思うように議論を進めるための道具(または哲人の分身)のように感じます。結局、哲人の思うとおりに議論は進んでいくのです。そして青年は自分の疑問を忘れたかのように、哲人の望む段取りで、次から次に話題を提供していくのです。他の方のレビューではこの対話形式が読みやすいとされていますが、私自身はダメでした。
私自身は哲学や心理学についてまったくの素人です。そして最初に述べたように、アドラーの考え自体は興味をもって読むことができました。本書で私がハイライトした箇所は100近くになりました。
ですが。だとしても、アドラーを知るために、この本でなくてもいいと思いました。 続きを読む投稿日:2014.11.10
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特定の人としかうまく付き合えないのは、結局、あなたの心が冷めているからだ
五百田達成, 堀田秀吾 / クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
心を温めたい人への一冊
4
ラクな文体で学術的なことが簡潔に書かれていて、読みやすかったです。
各方面の研究や実験なども紹介しつつ、それらを実際の日常にある習慣や、(職場・家庭・男女などの)共同体の中に潜む人間関係の問題に結びつ…け、学説やタームを使って分かりやすく解説してくれます。マンガのキャラや若者のジャーゴンもふんだんに出てくるので、ハハハッて笑いながら読めました。そして読み終わってなんとなく、冷めてた心温まりました。
人付き合いって、人それぞれ違ったスタイルを持っているんですよね。着る服を選ぶ時のように、付き合う人や付き合い方もみんなそれぞれ自分のお気に入りや定型を持っているみたいに。
人間関係をより円滑にしたい、と誰もが思うものでしょうが、いつも同じところに来て失敗するとか、同じパターンに陥るとかって、自分が持っているクセから来てるんだろうな、とこの本を読んで思いました。まあ、多くの人は感覚で分かっていることですよね。そこらへんの感覚的なものを分かりやすく解説してもらって、ついでにコミュニケーションへの勇気みたいな、応援みたいなものまでもらえた気がするので、オススメします。 続きを読む投稿日:2015.02.17
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仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか
山本ケイイチ / 幻冬舎新書
タイトルが与えるセンセーションよりも…
4
新書にありがちな胡散臭いタイトルですが、そしてその胡散臭さに惹かれてこの本を読んだのですが、中身はもっと本質的で、 「フィジカルを鍛えるためのメンタリティの重要性」が、一貫して書かれています。フィジカ…ル面を恒常的に鍛えられる人はメンタル面の鍛えられた人で、それは「仕事ができる」(とタイトルにはありますが)以前の、人間性の問題だ、と著者は述べています。
「健康のため・若さを保つため」と思い筋トレを始め、「やればやるほど自信がつくなぁ」と思いながら続けていた今の私にとって、筋トレはメンタルを鍛えるためのフィジカルトレーニングだったのですが、この本を読んで、やはりフィジカルとメンタルは鍛えれば相乗効果で両方とも高まるものだと思いました。表紙以上のことは書いてあります。 続きを読む投稿日:2014.08.11
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ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」
高瀬毅 / 文春文庫
驚愕のルポルタージュ
4
これは絶対に読むべき一冊です。
浦上天主堂という物を私はまったく知りませんでした。
戦争の悲惨を物語る遺物や遺構は年とともに風化し、人々の記憶もやがて薄れていくものですが、あれだけの、人類の歴史上あ…れほどの大量殺戮を、私たちは忘れてはならないし、もう二度と繰り返してはいけないと思います。それはもう、地球に生きる一人の人間として思います。戦争に勝った負けたなどというくだらない話ではなく、戦争を二度と起こしてはならない。
そういう決意にもとづけば、記憶や、記憶を呼び覚ます遺物は、あらゆる努力で風化に抗う責任があり、多くの資料館や式典などがそれを可能にしてくれています。しかし、私たちは記憶を呼び覚ますための最も貴重な遺物のうちの一つを失った。人の手で、意図して、消し去ったのです。この地上から永久に。戦災で傷ついた街並みが復興するように、復興の励みとして。被災した浦上天主堂です。
今、その遺物を思えば、その失った事実自体がまず辛すぎるのですが、この本は、それ以上の辛い可能性を伝えています。天主堂が作為によって撤去されたかもしれない、と言うのです。取り壊しの経緯に潜む愚かな策謀があったかもしれない事を指摘しているのです。長年の調査による、驚くべき根拠を示しながら。著者のその努力にただただ感謝しながら、読みました。
本書を3カ月前に読んだのですが、そのときはこのwebページがレビューを書けるようになっていなかったので、本当に残念で、わざわざソニーに電話までして問い合わせたのですが、著者の意向かそういう本もあるとのことでレビューを書くのを諦めていました。69回目の原爆忌に報道で浦上天主堂が取り上げられたこともあり、再度このページをみたら、現在はレビューが書けるようになっていたので、書きました。
皆さん、本当に、ぜひ読んでください。 続きを読む投稿日:2014.08.11
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ラグビーを最高に面白く見る方法 疑問が解ける! ツボがわかる!
博学こだわり倶楽部 / KAWADE夢文庫
ラグビーを面白く見られると実感
4
ラグビーという競技をまったく知りませんでしたが、それでもとても面白く読めました。
まず、著者の熱意が何より感じられて、ラグビーをとても愛する人だろうな、と思い、それだけにこちらも真剣に読んでみようと思…いました。
初心者から中級者向けの本です。内容も分かりやすくて、歴史的な事から技術的な事、ルールの解説や2015年のワールドカップの盛り上がりまで色々楽しむ事ができて、良い本だと思いました。
分かりにくいと言われるラグビー。私自身もまったくの素人ですが、とても興味深いスポーツだと思いました。このスポーツの競技人口が日本でもっともっと増えたらいいのにと、この本を読んで思いました。 続きを読む投稿日:2017.01.02
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半藤一利と宮崎駿の 腰ぬけ愛国談義
半藤一利, 宮崎駿 / 文春ジブリ文庫
骨太の愛国談義
3
映画「風立ちぬ」を見て、この本を読もうと思いました。
はっきり言って面白かった。2人の生々しい人間性が、対談という形を通して浮き上がって見えてくる感覚に、思わずのめり込み、引き込まれました。
2人とも…にずいぶん年齢を重ねて来られたのに、若い頃、小さい頃の事をよく覚えておられて、私の知らない昭和史を分かりやすく、時に面白く語りかけてもらっているような感覚になりました。
この人たちはどうしてこんなにはっきりと当時の事を覚えていらっしゃるんだろう、と不思議に思いつつ読み進めていきました。人が記憶している事は人に伝えたい事でもあるのですよね。昭和のある一時期、日本は間違った方向に進んでしまった。二度とあんな過ちを繰り返してはいけない。そういう思いで、何があの時代にあったのか、私たち次の世代に伝えたくて、その事を記憶してこられたのでしょう。私たちの世代には、その記憶をできるだけ正確に理解し、また次の世代に伝えていく責務があります。
太平洋戦争を経験した人の話を聞くということを、その大切さを改めて痛感した本でもありました。 続きを読む投稿日:2014.07.05