Takuanismさんのレビュー
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落日燃ゆ
城山三郎 / 新潮社
その生き様、どの言葉にも代えがたく。
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政治家というのは、全く、このような人ばかりであれば、多少は世界もマシになるものを。
さて、吉田茂の同期にして、極東国際軍事裁判において唯一文官での刑死者となった男である。
歴史の巨大な転換点で外相と…なり、その平和的・協調的信念を基に世情の形成に努めた彼は、5・15から2・26に至るまでの、時代そのものの圧力たる軍事政争に巻き込まれる。
中国・ロシア・英米と対立を避け、粘り強く交渉し勝ち得た諸外国からの信頼も、自らの仲間たる関東軍らに踏みつけられ忘れられていく。何と悲劇的な外相・宰相であろうか。
軍事裁判でも全く証言をせず、黙々と責任を受け入れるその姿勢は、読んでいて苛立ちを覚えるほどであったが、
それほどの意識を持って職責を果たせる人間が何人いるのだろうか? 物來順応とは、まさに境地の至りであったに違いない。
世間的にはもしかしたら、軍部に逆らえぬ外相・宰相という言葉があるかもしれないが、
むしろ5・15から2・26が平然と起きた時代を考えれば、十分すぎるほどに妥協と論争を繰り広げていたと私は思う。
暴力に対するその姿勢を非難することは、実際問題、誰でも出来ることなので、その「逆らえぬ」批判事態、無意味ではなかろうか。
近衛から声が掛からず、あのまま鵠沼の地で一生を終えられたのならばと考えるが、それでも彼は人から乞われるままに政界へと戻っていたに違いない。
勝海舟が書いた、西南戦争に担ぎ出され敗れた西郷隆盛に向けた歌を思い出す生き様に感じる。
「濡れぎぬを ほさんともせず子どもらの なすがまにまに果てし君かな」。覚悟をもって生きるとは、難しいものである。 続きを読む投稿日:2016.08.07
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火星の人
アンディ・ウィアー, 小野田和子 / ハヤカワ文庫SF
なんだこれ超面白い
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なぜ、秋になると宇宙モノを読みたくなるのか? 月を近くに感じるからか。
まぁそれは置いといて、今回は「火星」である。
まずタイトル。秀逸である。まさに、「火星の人」である。原題を直訳する「火星人」で…は異種生命体だが、助詞が一文字入るだけで急に「人間」らしさが出る。助詞って凄い。というか訳者凄い。
そして内容。これまた面白い。月並みに(火星なのに)言って、めちゃくちゃ面白い。主人公のマーク・ワトニーの不屈さ、ポジティブさ、賢さ、アホっぽさが凝縮された日記は、読んでいて本当に楽しい。
火星で孤軍奮闘するワトニーとは対象に、多くの宇宙航空関係者(NASAにかぎらず)が登場、彼らも個性豊かな口ぶりでワトニーを気遣い、懸命に救おうと、現実的な解を求めて喧々諤々である。
金に糸目をつけない対応、アメリカらしくてイイね。アメリカの実態とか知らんけど、たぶんあんな状況が本当に起きたら、実際やりそうなことばっかりである。
しかしやはり今作品の注目すべきポイントは、ワトニーに次から次へと降りかかる災難、それに自らの知識を総動員して対処していくその姿勢だろう。発想力の規模、応用力の幅、行動力の質、どれも素晴らしい。
ぶっちゃけ私はバリバリの文系なので、化学式とか出てきても「うわぁ懐かしい。なんだっけこの記号」とかになるわけだが、そこは大丈夫、ちゃんと我らがマーク・ワトニーが親切にも解説してくれる。
(きっとこの描写は、日記として書き留める時に、彼自身が”自分で確認するように、または後世に遺す為にわざわざ書いた”結果なのだ、と思っている。そこも面白い)
状況を傍から観れば絶望的でも、当の本人はやけにケロッとしているなど、シリアスすぎない読ませ方も素晴らしい。手に汗握って息つまるも、フフッと笑えるコメディチックな感想などがいきなり出てくるところがGood!
試行錯誤の連続で、向こう4年を生き延びれるか…! 一つもムダにしないしない精神、日本人のモッタイナイに繋がるからか、やけに心残る作品になりました。
あぁ映画化もされていたんですね。映画も観てみます。え、マット・デイモンなの? ベン・アフレックで想像していたんだけどなぁ。まぁそれはともかく、必読の一作だと思いますから超オススメです。 続きを読む投稿日:2016.09.10
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クローズド・ノート
雫井脩介 / 角川文庫
ブワッとなる。ブワッと。
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このストーリーのラストで、Walkmanから流れてきたシャッフルBGMが「愛をこめて花束を」。あまりにもマッチしすぎて泣きそうに…笑
雫井さんのキャラクタはいずれも良くユーモラスで愛らしい。魅力的だ…と思います。
タイトルからしてメインテーマは綴ること、綴られる記憶であり、万年筆もキーアイテムですね。これもまた味わい深い小道具として登場するのが心憎い!
それにしても、作品全体を包む優しい雰囲気にはホッコリしますなぁ。やっぱり起伏の関係上、ムムッとなる展開もありますが、それでも根底に流れるのは優しい何かだと感じました。
主人公も天然天然と言われていても、しっかり物事考えようと足掻いて頑張ってますし… 成長物語としても捉えられ、面白かった!
部分的にポエミーに過ぎる表現かなぁと思う場面もありましたが、気持ちも昂ればそうなるか、と納得して読みました。
ではほかの雫井作品にももっと手を伸ばしてみましょう。今は秋ですが、春先に近い3月くらいにこれを読むと良いかもしれませんね。 続きを読む投稿日:2016.10.18
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第3のギデオン(1)
乃木坂太郎 / ビッグスペリオール
めっちゃ面白い(どストレート)
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乃木坂太郎は医龍の頃からファンだが、その次の作品はちょい性に合わず、残念に思っていた。
そこに本作、『第3のギデオン』が。めっちゃ面白い。くどくなっていた絵柄が先祖返り(?)したかのように、良い意味で…洗練さが出てて良いね!
歴史作品も、善悪の概念を扱う作品も大好きなところに乃木坂太郎のコレですよ。ハマらないわけがない。
ってわけで全力で応援。騙されたと思って読んでみぃ。ちっちゃい子にはお勧めできんが、大人は必読だろこれは。 続きを読む投稿日:2016.11.16