Takuanismさんのレビュー
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星を継ぐもの
ジェイムズ・P・ホーガン, 池央耿 / 東京創元社
SFという歴史の読み方教本
8
昔、ゼミの教授が言っていた。「100年前、200年前を読むのに、今の時代の価値観を持ち込むな」。
そりゃそうだ、当時と今とでは考えなど全く違う。例えば、人権という言葉がここ百年程度で出てきたというよう…に、昔と今とではモノの捉え方が全く違う。
歴史を捉える上で重要なのは、まっさらな思考と、事実の確認と、事実の統合により導き出される仮説の横並べだ(と個人的に思っている)。
でなければ、人類の歴史を明後日の方向に解釈してしまい、とんでもない言説などに行き着いたりすることが往々にしてあるものだ(と個人的に思っている)。
さて本作は、そんな歴史の正しい読み解き方をハードSFという形で提示してくれる、非常に興味深い一冊だ。
中心に巨大な謎が提示され、その中心の外枠を、一つ一つのパズルピースを当て込むようにして仮説の波が立っていく様が堪らなく面白い。
まさに試行錯誤、思考錯誤でも良いが、その繰り返しによる有力な仮説の導き出し方は、読んでいて手に汗握るものだ。
今まで頼っていた理論をちぎっては投げ、ちぎっては投げ…… 最後にたどり着く結論は?
電子書籍リーダの明かりは抑えめに、夜空を見つつ読むのも素敵……かもしれませんよ。 続きを読む投稿日:2015.05.11
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シャッター・マウンテン
北林一光 / 角川文庫
正直な話
1
一作目の『ファントム・ピークス』は身も凍るような、人間と自然との戦いが良く描かれていたと思う。それに比べてしまうと、今作は3枚~4枚ほど劣ってしまう感が否めない。
二作目の『サイレント・ブラッド』を読…んだ時点で「おや?」と思っていたが、今作は残念ながら、二作目の作風であったようだ。
ただ全作通して感じるのは、作者は自然を愛し、畏れていたのだなぁというのはヒシヒシと感じる。それほど、自然に関する描写は圧倒的に精緻だ。
一夜の夏に涼気を得たいのならお勧めする。特に、山が近いところにお住まいの方には、ぜひ。 続きを読む投稿日:2015.05.11
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夏への扉
ロバート・A・ハインライン, 福島正実 / ハヤカワ文庫SF
薫る記憶
1
なんと清々しいタイトルか。文章からその世界の香りが届くような、素晴らしい作品である。
あの夏を、そして生命の中の輝かしい季節を求めてネコが鳴くとは、なんとも詩的に美しく、愛らしい表現に脱帽する。
最後…の一文を読んだとき、まるで爽やかな風をこの身に受けたような安らぎさえ感じる、素晴らしいものだった。
未読であるならば、ほら早く、夏が迫る今の時期にこそ読み始めては如何だろう。 続きを読む投稿日:2016.06.14
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七王国の玉座〔改訂新版〕(上)
ジョージ・R・R・マーティン, 岡部宏之 / 早川書房
大傑作(断言)
1
氷と炎の歌シリーズの伝説的第一巻。登場人物はモブ込みでシリーズ総勢200人超くらい? 圧巻に次ぐ圧巻のストーリー、玉座を巡る人々が交錯するシナリオは読み始めたら止められないッ!!
中世をモチーフにした…演出なので、残酷な描写が出たりするが、だからこそ手に汗握るリアリティがあるというもの。全ての登場人物に容赦なく試練が降りかかる様から著者の意気込みが伝わってくるよう。
権謀術数、暗躍に次ぐ暗躍、裏切りと結託…… そんな世界だけどもちろん、希望も散りばめられている。ある意味、この社会そのものかもしれない人間の恐ろしさも感じられる大傑作。
しかしまぁドラマの脚本書いてないで早く原作を書き進めておくれよ著者…… 次のレビューは最終巻で書きたいものだ。マジでこの本読むのがライフワークになりそう。
シリーズ未読なら、本当に読んで欲しい。心の底からそう思う小説だ。 続きを読む投稿日:2016.05.05
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週末台北のち台湾一周、ときどき小籠包
吉田友和 / 幻冬舎文庫
飯、飯、鉄道、飯、時々ヤーマン。
1
ヤーマンをご存じない? そんなアナタはまず、同著者の著作『ヨーロッパ鉄道旅(略)』から読まれることをお勧めする。
台湾である。私の両親は著者同様の台湾フリークで、毎年必ず行っては大量の烏龍茶の茶葉を…買って帰ってくるという、
まぁ個人的にはそんな理由があったりして台湾には馴染み深い。悲しいかな、我が身にとっては未だ未踏の地であるが。
この方の文章を読むのは二作目になるわけだが、うん、やはり食いしん坊であられる。平均3ページに1つ以上の料理名が出てくる感じ(主観)。
それがまた美味しそうに書かれている訳だ。移動途中で読む機会が多い私にとっては、昼飯時に読むと必ず中華を探すほどの興味深さ。
手に汗握るのではなく、口内にヨダレたぎる、である。汚い表現だがいたし方ありますまい、どの料理も美味そうなんですもの。
そしてそんな料理と同じくらい魅力的なのが、台湾の風土だ。国民性しかり、自然しかり、なんとも人を和ませ、魅了するものばかり。
特に良く言及されるのは、台湾人の方々の清々しいまでの優しさ(人懐っこさとも言える)だ。う~ん、日本人としては、見習わなければとも思うレベルのかいがいしさ。
どの文を読んでも、何か頬が緩んでくるような、なんか爽やかな気分が詰め込まれている一冊なのです。よく分からない? どうぞお読みください。
是非とも今年は、この本と旅行案内を持って彼の地に参りたいものだ。出不精を乗り切り、いざパスポート申請だっ!! 続きを読む投稿日:2016.03.13
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外天楼
石黒正数 / 文芸第三
サスペンス、ミステリ、SF、ホラー? いや、シュールギャグ?
1
面白い。奇想天外な発想に舌を巻く。ショートショートかと思いきや… アホな展開かと思いきや…
裏切ってくれる。
この方の作品、実は初めて読ませて頂いたが、ほかの作品(ネムルバカ・響子の父など)と比べ…、全然雰囲気が違うところが凄い。
というか、タイトルのように、いくつものテイストを調和させてるのが凄い。凄いしか言ってない凄い。引き出しが凄い。
ということで、ちょっと不思議な漫画にご興味あれば、ぜひ。 続きを読む投稿日:2016.11.04