44αさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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孔子(新潮文庫)
井上靖 / 新潮文庫
井上靖、最晩年の作
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著者が80歳の時に書かれた最晩年の長編小説。
「孔子」とタイトルがついているが、孔子自身はいっさい登場せず、孔子の小間使い(?)を務めていた男が、晩年にいたって孔子との思い出を語る…というストーリー…になっている。
彼の話を聞きながら聴衆たちが喧々諤々と孔子の教えや人となりについて議論しているさまからは、井上靖がひとつの歴史、ひとりの人物を様々な角度から見ていたことが読み取れる。
小説というよりは、井上靖なりの孔子観とでも言った方が適切かもしれない。
個人的には、「孔子は子貢より子路を愛していたのか?」という疑問について、答えは出ないながらも納得のできる結末が用意されていたのがよかった。
中国小説を多く執筆してきた井上靖の最後にふさわしい作品だった。 続きを読む投稿日:2015.03.30
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鳥葬 -まだ人間じゃない-(イラスト簡略版)
江波光則, くまおり純 / ガガガ文庫
今後に期待
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子供時代にひょんなことから人を殺してしまった主人公。
その「事故」現場に居合わせた仲間の一人が殺されたところから、このストーリーは始まる。
読み始めてすぐに、中村文則の「悪意の手記」を連想した。
た…だし「悪意の手記」が故意の殺人を一人で抱えていたのに対し、本作の主人公が人を殺したのは他愛もないいたずらの延長であり、また彼には共犯ともいえる仲間が居る。
内容な一応ミステリになるのだろうが、謎解きというよりも、「人を殺した」というレッテルに各個人がどのように立ち向かい、その結果がどうなったか、ということに主眼が置かれていたように思う。
他人へ罪をなすりつける、殺人の過去を看板に不良としてのしあがる、恋人との世界に閉じこもる、他人との関わりを断つ…
それぞれがとったどの道にも正解はなく、ただ「殺した」という過去だけが厳然と存在し続けている。
小説としては退屈な部類に属するかもしれないが、作者が描こうとしている「人間関係」そして「人間としての業」のようなものに、言い知れぬ魅力がある作品だった。
著者の他作品も読んでみたい。 続きを読む投稿日:2014.05.24
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ビン~孫子異伝~ 1
星野浩字 / スーパージャンプ
中途半端
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歴史ものというよりは、少年漫画的ステロタイプな主人公を、申し訳ていどに中国史風味にアレンジしたといったところか。衣装などの再現は漫画だから目をつむるにしても、キャラクターもストーリーも普通すぎて、漫画…として単純につまらない。
孫子に興味があるなら、海音寺潮五郎の「孫子」を読んだほうがずっと面白く、ためにもなる。 続きを読む投稿日:2014.02.27
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銀漢の賦
葉室麟 / 文春文庫
スリルはないがあたたかい
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月ヶ瀬藩の郡方の日下部源五と老中の松浦将監は、同じ剣術道場で修行をした幼馴染みだ。
しかし、20年前に確執が生じて二人は絶交。
そんな中、源五は将監の暗殺を依頼される──
全体を通して、男どうしの友…情が細やかに描かれている。
将監と源五の仲違いに至るまでの過程が回想によって徐々に明らかになっていくさまが面白い。
また、回想と並行して現在の視点で進行する将監暗殺計画に源五はどんな決断を下すのか…と先が気になって仕方がなかった。
ただ、登場人物の性格や、幼い日の恋心、老人が若い娘に惚れられる…といった演出は、時代小説を読み慣れている身には目新しさは感じられなかった。
戦闘シーンが淡白で、将監や源五がすでに老境の悟りを開いているような状態のため、読んでいてハラハラドキドキはしない。
老人が友情を温めなおす過程をゆっくり味わうための小説だろう。 続きを読む投稿日:2015.04.11
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蒼き狼(新潮文庫)
井上靖 / 新潮文庫
怒濤の結末
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モンゴル帝国の始祖・チンギスハンの一生を描いた作品。
序盤から中盤にかけてはただ淡々と事実が綴られているだけだが、その様相はチンギスハンが「自分の息子は本当に血の繋がった子なのか?」と苦悶しはじめる…ことで一転。
感情が怒濤となって溢れ出す。
チンギスハン自身も父親から「実の子ではないのかもしれない」という扱いを受けており、その立場に置かれた子がどれほどの悲しみと苦しみに苛まれるかをよく分かっていた。
分かっていたはずであるのに、自分がいざ疑惑を抱く側に立たされると、父と同じ轍を踏んでしまう。
そこから脱却しようとあがくチンギスハンの姿が胸に迫る。
「父と子」というテーマが全体を強く貫いている作品だ。 続きを読む投稿日:2015.03.30
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殺人鬼 ――覚醒篇
綾辻行人 / 角川文庫
高速道路に似ている
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殺人鬼に不意打ちや追跡をされるスプラッタの鉄板ネタ。鉄板ゆえに、読んでいる途中で飽きがきてしまった。
中だるみをしているのでは決してないのだが、殺人鬼の動機や過去がほとんど描写されずひたすら殺戮シーン…が続くため、高速道路を運転しているのに似た、スピードはあるけれど単調で眠たいような感覚に襲われた。
ミステリとしてのオチはいつもの綾辻行人なので目新しさはなかった。 続きを読む投稿日:2016.02.02