地下の鳩
西加奈子(著)
/文春文庫
作品情報
暗い目をしたキャバレーの客引きと、夜の街に流れついた素人臭いチーママ。情けなくも愛おしい二人の姿を描いた平成版「夫婦善哉」。
大阪最大の繁華街、ミナミのキャバレーで働く「吉田」は、素人臭さの残るスナックのチーママ「みさを」に出会い、惹かれていく(「地下の鳩」)。
オカマバーを営む「ミミィ」はミナミの人々に慕われている。そのミミィがある夜、客に殴り掛かる(「タイムカプセル」)。
賑やかな大阪を描いて人気の著者が、街の「夜の顔」に挑んだ異色作。
※この電子書籍は2014年6月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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商品情報
- シリーズ
- 地下の鳩
- 著者
- 西加奈子
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2014.06.10
- Reader Store発売日
- 2022.02.08
- ファイルサイズ
- 0.4MB
- ページ数
- 256ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (81件のレビュー)
-
夜の街で働く人々の物語。
ホステス、客引きの男、おかまバーのママ。
猥雑で欲に満ちた世界の中で、どうにか強く生きようとする人間の弱さと美しさ。
自分自身、ホステスやママではないけれど一応夜に営業す…るお店をやっているから、そういう職業は人の嫌な面を見てしまう機会が多いことも実感していて、そうなるとどんどん警戒心や猜疑心は増す。
人を見る目ばかり長けてしまうのはあまりいいことだとは言えない。
道化る瞬間も普通よりは多いかもしれない。
悩み苦しみながら向き合い、食べていくために自分を納得させようともがく。
そういう空気がこの小説じゅうに流れていた。
この本に出てくるおかまのミミィのこと、ずっと考えてる。彼女の洞察力にドキッとさせられること多々だった。
女であることに甘えてる瞬間、私もけっこうあるのかもしれない。
傷があるから強くなれるのか、傷のせいで弱いままになってしまうのか。
その深さや残る痛みにもよるけれど、みんな何かを抱えながら、それでも人からは楽しげに見えるように生きている。
夜の世界はもしかしたら、そういうのが顕著なのかもしれない。
鋭い小説だった。続きを読む投稿日:2015.03.04
このレビューはネタバレを含みます
これまで西さんの作品というと、関西弁コテコテ+純文学、という印象でした。今回も舞台は大阪ですが、より純文学へシフトした印象を強く感じました。
レビューの続きを読む
・・・
本作は中編ともいえる「地下の鳩」「タイムカプセル…」の二編からなります。
表題作「地下の鳩」は、昔はそこそこイケてた40男の吉田が、スナックでチーママを勤めるみさをと出逢い、破滅的に共依存していく話。
続く「タイムカプセル」は、奄美大島出身のオカマのミミィ(おかまバーのオーナー)が、彼(女)の半生を振り返りつつ、自己のジェンダーについて自身は正直であったかを振り返るような作品。
・・・
で、先にも書いたのですが、実に「文学だなあ」と感じたのです。ま、何を文学であるかと定義もしないでお話するのも申し訳ないのですが。
勝手な感覚でいうと、「読者に判断が任される」ような作品については、私はより一層「芸術」性、芸も術も感じます。換言すると、解釈の余地が適切に確保された作品。
、んなことを言うと、エンタメ的作品をバカにしとるんか、と怒られそうなのですが、飽くまで私の個人的な好み、であります。
・・・
「地下の鳩」は40にもなって未だに女性に対してはイキがった態度をとる吉田、彼を恋人未満なヒモとして住まわせるみさを。この二人が出会い、もつれてゆく情景が淡々と描かれます。今回は珍しく、オチもユーモアも殆ど見かけませんでした。
「タイムカプセル」も、オカマのリリィの回顧を経て、最後は小学卒業時のタイムカプセルを掘り起こし、自分が偽って書いた文章を確認してゆく話が淡々と描かれます。
どちらも結末・オチが用意されず、本当に、ふと、終わります。
とすると、読者はやはり「何なんだこれ?」って思うんじゃないでしょうかね。でも、こうやってオチの部分だけさっぱり切り落とし、そこまで上手にしっとり読ませるということでは秀逸であったと思います。
・・・
ちなみに、これまで西さんの作品は関西弁の多用の他、擬態語や擬音語の使い方に可憐さを感じていましたが、本作ではそうした擬態語・擬音語も見られませんでした。何かありました?西さん?
・・・
ということで久しぶりに西さんの作品でした(数えてみたら五カ月ぶり!)。
関西弁のアクの強さやユーモラスさが影を潜めているのですが、文学作品としては私がこれまで読んだ作品のなかでは一番完成度が高く感じました。
ストーリーの展開ではなく、文章の美しさを鑑賞することが好きな方にはお勧めできる作品です。
はたして皆さんは本作品、どのように読みましたでしょうか? 他人の感想・評論が気になる読後でありました。続きを読む投稿日:2024.02.18
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