【感想】地下の鳩

西加奈子 / 文春文庫
(81件のレビュー)

総合評価:

平均 3.3
4
24
35
9
0

ブクログレビュー

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  • 海外おやじ

    海外おやじ

    このレビューはネタバレを含みます

    これまで西さんの作品というと、関西弁コテコテ+純文学、という印象でした。今回も舞台は大阪ですが、より純文学へシフトした印象を強く感じました。

    ・・・
    本作は中編ともいえる「地下の鳩」「タイムカプセル」の二編からなります。

    表題作「地下の鳩」は、昔はそこそこイケてた40男の吉田が、スナックでチーママを勤めるみさをと出逢い、破滅的に共依存していく話。

    続く「タイムカプセル」は、奄美大島出身のオカマのミミィ(おかまバーのオーナー)が、彼(女)の半生を振り返りつつ、自己のジェンダーについて自身は正直であったかを振り返るような作品。

    ・・・
    で、先にも書いたのですが、実に「文学だなあ」と感じたのです。ま、何を文学であるかと定義もしないでお話するのも申し訳ないのですが。

    勝手な感覚でいうと、「読者に判断が任される」ような作品については、私はより一層「芸術」性、芸も術も感じます。換言すると、解釈の余地が適切に確保された作品。

    、んなことを言うと、エンタメ的作品をバカにしとるんか、と怒られそうなのですが、飽くまで私の個人的な好み、であります。

    ・・・
    「地下の鳩」は40にもなって未だに女性に対してはイキがった態度をとる吉田、彼を恋人未満なヒモとして住まわせるみさを。この二人が出会い、もつれてゆく情景が淡々と描かれます。今回は珍しく、オチもユーモアも殆ど見かけませんでした。

    「タイムカプセル」も、オカマのリリィの回顧を経て、最後は小学卒業時のタイムカプセルを掘り起こし、自分が偽って書いた文章を確認してゆく話が淡々と描かれます。

    どちらも結末・オチが用意されず、本当に、ふと、終わります。

    とすると、読者はやはり「何なんだこれ?」って思うんじゃないでしょうかね。でも、こうやってオチの部分だけさっぱり切り落とし、そこまで上手にしっとり読ませるということでは秀逸であったと思います。

    ・・・
    ちなみに、これまで西さんの作品は関西弁の多用の他、擬態語や擬音語の使い方に可憐さを感じていましたが、本作ではそうした擬態語・擬音語も見られませんでした。何かありました?西さん?

    ・・・
    ということで久しぶりに西さんの作品でした(数えてみたら五カ月ぶり!)。

    関西弁のアクの強さやユーモラスさが影を潜めているのですが、文学作品としては私がこれまで読んだ作品のなかでは一番完成度が高く感じました。

    ストーリーの展開ではなく、文章の美しさを鑑賞することが好きな方にはお勧めできる作品です。

    はたして皆さんは本作品、どのように読みましたでしょうか? 他人の感想・評論が気になる読後でありました。

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    投稿日:2024.02.18

  • tobuxu

    tobuxu

    生きていれば楽しいことだけじゃなく嫌な思い出やつらい過去、過ちが必ずある。
    それでも自分に正直に生きることは素敵だし難しい。

    投稿日:2024.02.07

  • ケンシロウ

    ケンシロウ

    正月読書。初めての西加奈子だけどすごく緻密な感情を書く方だな。とくに表題作「地下の鳩」、主人公のしみったれた感じと哀しさ、恋が所帯染みていく様子、それに抗うけどだんだん飲み込まれていく過程、とても良かった。また忘れた頃に読み直したいな

    ⚫︎あらすじ
    大阪ミナミの夜に生きる人々の光と陰
    暗い目をしたキャバレーの客引きと、夜の街に流れついた素人臭いチーママ。情けなくも愛おしい二人の姿を描いた平成版「夫婦善哉」
    (文春HPより引用)
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    投稿日:2024.01.03

  • ぽう

    ぽう

    このレビューはネタバレを含みます

    「小さいときに傷ついた人って、一生傷つかなあかんのでしょうか。」
    この言葉で、出てくる登場人物たちの事を次々に思い出した。

    ミミィの洞察力は自分を守る事からついたものだが
    人見知りの私にもそれに似たようなものがある
    目の前にいる人のことを、全く分からない状態で関わるのは勇気がいる
    ミミィが菱野の事を聴いたあとの「簡単な男だと思っていた菱野の、自分は何を知っていたのだろう。」という言葉
    その人を知っている。その人と上手く関わることが出来る。と安心する事に目的がいってしまい
    "その人"の内側を見ることを忘れてしまう
    そんな事も学生の頃にあった
    関わる人が多い時は特にそう。でもそういう関わり方をする時は自分に嘘をついているようにも思えるし、自分がどういう人間なのか分からなくなった

    自分を守るために生きる術を身につけ、自分が生きれる所で生きる

    人それぞれ、見えないところで過去や何かと闘いながら生きている

    私が生きる世界とは少し離れた世界の話だが
    (というか、怖くて自分から離れてるだけ)
    多分見えないだけで、近くにも同じ世界を生きているような心を持った人が居るんだろうな、
    と思った。

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    投稿日:2023.02.01

  • Shino

    Shino

    この本を買ったのは数年前になるのだけど、他の西加奈子作品とは文体とか雰囲気が異なるせいか、最初の数ページで挫折するのを繰り返していた作品です。ようやく読み切ることができ、これで西加奈子作品すべて読了!

    「地下の鳩」はキャバレーの呼び込みをしている吉田と、左右の目の大きさが異なるのが特徴のチーママ・みさをの少し変わった関係がテーマの物語。なんか全体的に不健康な内容なので、読んでてしんどかったです。
    後半の「タイムカプセル」の方が好きです。オカマバーのママ・ミミィがよく描かれていて、リアリティと人間味を感じた。ミミィや菱野が過去に経験したいじめや、ことりが周囲からの目に悩まされたエピソードなど、いじめられた人が何年も何年も苦しめられている様子をここまで丁寧に鮮明に描けるのはさすが西さんだなと思った。私も忘れられない嫌な過去を今でも思い出してしまうから、ミミィを応援しながら読み進めた。
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    投稿日:2022.12.30

  • Glenn

    Glenn

    このレビューはネタバレを含みます

    西さんらしさと、らしくなさが混在した一冊。

    関西弁の登場人物や“自意識"についての描写が多いのは通常運転だったけど、文体が普段よりなんとなく暗く、最初は(アレ、これ西さんの作品だよな?)と表紙を見返すということを2回ほど繰り返した。

    他の人のレビューを読むと評価は様々だったけど、私はすごく好きで、星5とかなり迷うくらいだった。

    ちょっとイタい男、吉田と両目の大きさが極端に違い、不思議な魅力を持つみさをは、お互いが2人の関係を一過性のものと考えているのが、切なくもなんとなくわかるし、つい応援したくなった。
    不恰好でイビツだけど、真っ直ぐな2人の関係は美しかった。
    みさをの目に関しては、人によって持つ印象が違うのも面白かった。

    収録作品の「タイムカプセル」は、「地下の鳩」に登場する"オカマ"(差別的な意味ではなく、キャラクター本人が1番しっくり来ている呼び名)のミミィの過去について描かれた作品。

    イジメは、人を雁字搦めにする。
    本当にそう。
     

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    投稿日:2022.07.23

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