この作品のレビュー
平均 3.9 (12件のレビュー)
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この本に書かれていること全てが私の心に突き刺さっていたたまれない気持ちでいっぱいになった。
母になること、子を育てること、いろんなことを諦めること、親が老いること、ままならない人生。
今の私の心境にあ…まりにもすっぽりと収まってぞわりとする。
例えばこんな文章。
ー惚けても万歳、と思う。汚れも万歳。何もできなくても万歳。年老いておめでとう。父と母に、大きな、具のない、白い塩むすびみたいな肯定を送りたい、と思う。
いい文章だな。
私の気持ちを代弁してくれてありがとう。
さて、本題は別のところにある。
主人公の「わたし」は幼馴染から突然預けられた赤ん坊「山尾」を10年間育てている。
寝ている子はすべてかみさまの捨て子だと思いながら。
血のつながりがあってもなくても関係ない。産んでも産まなくても関係ない。
そう、子供は「たまもの」なのだ。
もちろんリアリティには欠ける。現実じゃこうはいかない。
でもね、正直母性なんて私自身が信じてないから。
生まれた途端、いやお腹にいる時から可愛いって思う母親ばかりじゃない。
子を育てながら自分も母親になるんだよ。
だからね「わたし」と私はそんなに変わらない。
だからこそ、山尾がもう子供じゃなくなることが怖いんだね。
でもきっと大丈夫。
二人の関係は何があったって壊れないんだから。
いい作品。言葉の美しさも情景描写もみんな好き。
でもきっと読む人を選ぶ。
あ、でも男の子の母は共感してくれるかな。
山尾があまりにも可愛いから。続きを読む投稿日:2014.09.20
このレビューはネタバレを含みます
40歳の時、幼なじみで昔の恋人だった男から赤ん坊を預かる主人公。
レビューの続きを読む
彼の妻は出産時に亡くなり、男手一つで育てることができないため、と、800万円と赤ん坊を渡される。
それからの10年間の話。
「迎えに…来る」といった男は連絡が取れなくなって久しい。
不規則な編集の仕事では赤ん坊を育てられないので、せんべい工場で働くことにした。
赤ん坊だった山尾が小学校に入る年になった時、初めて役場に相談するが、そのまま彼女のもとで山尾は育つ。
特に山場も修羅場もないストーリーだけを追ってもこの本の面白さは伝わらないだろう。
私は子ども好きなので、子育てのあれこれの部分に多く付箋をつけてしまったけれど、この作品は子育てのすばらしさを謳ったものではない。
どちらかというと、成長していく子どもを通して、人の一生というか、老いることの当たり前に対する賛美なのかもしれない。
”「年をとるといつか、死ぬよね」
「そうだよ。でも、わかってるだろうけど、順番は守れ」”
ああこれ、私も伝えておかねばならないな。
”子はみんな、誰か特定の女の腹から生まれながら、そして一応は、どこか特定の家に繋がれた家畜のような顔をしながら、でも誰にも、どこにも所属しない、落ちてきたもの、捨てられたもの、誰のものでもない者、なんじゃないか。産んだ者の所有権、そんなものなんか、ないと、この偽の母は思う。”
私も所有権とか一心同体とか、ないと実感しましたね、孕んだとき。
”幼い子供と生きる人生の時間は、一貫性のあるキャリアを追求する生き方に比べ、遠回りの獣道。行く先々で、具体的な実りがあるわけではない。生きているものを世話する仕事は、為すそばから消えていく、むくわれない行為からできあがっているのだ。だから逆に、子供のいる女は、あきらめを知ることになる。この世には、できないこととできることがあることを知るようになる。いや、できないことだらけであることを知るようになる。(中略)つまり順当に老いることを学ぶ。”
子どもを育てる育てないにかかわらず、自分にはできないことが多いということを知っておいた方が結局はいい仕事ができるような気がします。
賢いとか、いい学校を出ているとかではなく、自分と違う思考で生きている人に合わせることができる人が、結局は仕事ができている。
子育ても、親の思いを押しつけるのではなく、子どもの気持を汲める方がよいのと同じ。
”ふわりと現れた山尾が、だから私のすべてだと言ってもいいが、そんなふうには言いたくない。どのように山尾と別れていくか。それが、これから先のわたしの課題。”
まったくその通り。
私と別れても問題なく生きて行けるように育てたつもりだから、あとはこっちの問題なんだよね。
”でも山尾は私でよかったのだろうか。黙っていると、須藤さんが言った。大事なのは――血じゃなくて、一人の子供に、誰か一人がずっとついててくれることですよね。(中略)血を、愛する理由にするのは変です。もし、血が家族であることの証をつくる唯一のものであるなら、家族を愛するといっても、結局自分を愛するのとなんら変わらないもん。”
今は自分と違う人を警戒して排除する傾向が強いけど、そういう社会は弱い。
家族であろうとなかろうと、血が繋がっていようといなかろうと、違うことを認め尊重し合うことができないのは、淋しいよね。
”よくできた子は、悪くにしかならない。悪い子なら、よくなることができる。よくできた子は、あるとき、ふっと消えてしまいそうでこわい。”
これもよく思っていた。
「最短コースで生きなくていいよ」と「いい子になってほしいのは親の本音だけど、大人にとって都合のいい子にはならなくていいからね」は実際に子どもに言ってきかせた。
ストーリーが単調なのに、ぐさぐさ刺さる言葉がてんこ盛りでまいった。
ふつうこれほどに読点が頻繁に打たれると却って読みにくくなるものだけど、するすると入ってきた言葉が読点をくさびにして腑に刻まれた感じ。
作家の言葉って怖い。続きを読む投稿日:2022.06.23
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