【感想】たまもの

小池昌代 / 講談社
(12件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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ブクログレビュー

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  • マッピー

    マッピー

    このレビューはネタバレを含みます

    40歳の時、幼なじみで昔の恋人だった男から赤ん坊を預かる主人公。
    彼の妻は出産時に亡くなり、男手一つで育てることができないため、と、800万円と赤ん坊を渡される。
    それからの10年間の話。

    「迎えに来る」といった男は連絡が取れなくなって久しい。
    不規則な編集の仕事では赤ん坊を育てられないので、せんべい工場で働くことにした。
    赤ん坊だった山尾が小学校に入る年になった時、初めて役場に相談するが、そのまま彼女のもとで山尾は育つ。

    特に山場も修羅場もないストーリーだけを追ってもこの本の面白さは伝わらないだろう。

    私は子ども好きなので、子育てのあれこれの部分に多く付箋をつけてしまったけれど、この作品は子育てのすばらしさを謳ったものではない。
    どちらかというと、成長していく子どもを通して、人の一生というか、老いることの当たり前に対する賛美なのかもしれない。

    ”「年をとるといつか、死ぬよね」
    「そうだよ。でも、わかってるだろうけど、順番は守れ」”
    ああこれ、私も伝えておかねばならないな。

    ”子はみんな、誰か特定の女の腹から生まれながら、そして一応は、どこか特定の家に繋がれた家畜のような顔をしながら、でも誰にも、どこにも所属しない、落ちてきたもの、捨てられたもの、誰のものでもない者、なんじゃないか。産んだ者の所有権、そんなものなんか、ないと、この偽の母は思う。”
    私も所有権とか一心同体とか、ないと実感しましたね、孕んだとき。

    ”幼い子供と生きる人生の時間は、一貫性のあるキャリアを追求する生き方に比べ、遠回りの獣道。行く先々で、具体的な実りがあるわけではない。生きているものを世話する仕事は、為すそばから消えていく、むくわれない行為からできあがっているのだ。だから逆に、子供のいる女は、あきらめを知ることになる。この世には、できないこととできることがあることを知るようになる。いや、できないことだらけであることを知るようになる。(中略)つまり順当に老いることを学ぶ。”
    子どもを育てる育てないにかかわらず、自分にはできないことが多いということを知っておいた方が結局はいい仕事ができるような気がします。
    賢いとか、いい学校を出ているとかではなく、自分と違う思考で生きている人に合わせることができる人が、結局は仕事ができている。
    子育ても、親の思いを押しつけるのではなく、子どもの気持を汲める方がよいのと同じ。

    ”ふわりと現れた山尾が、だから私のすべてだと言ってもいいが、そんなふうには言いたくない。どのように山尾と別れていくか。それが、これから先のわたしの課題。”
    まったくその通り。
    私と別れても問題なく生きて行けるように育てたつもりだから、あとはこっちの問題なんだよね。

    ”でも山尾は私でよかったのだろうか。黙っていると、須藤さんが言った。大事なのは――血じゃなくて、一人の子供に、誰か一人がずっとついててくれることですよね。(中略)血を、愛する理由にするのは変です。もし、血が家族であることの証をつくる唯一のものであるなら、家族を愛するといっても、結局自分を愛するのとなんら変わらないもん。”
    今は自分と違う人を警戒して排除する傾向が強いけど、そういう社会は弱い。
    家族であろうとなかろうと、血が繋がっていようといなかろうと、違うことを認め尊重し合うことができないのは、淋しいよね。

    ”よくできた子は、悪くにしかならない。悪い子なら、よくなることができる。よくできた子は、あるとき、ふっと消えてしまいそうでこわい。”
    これもよく思っていた。
    「最短コースで生きなくていいよ」と「いい子になってほしいのは親の本音だけど、大人にとって都合のいい子にはならなくていいからね」は実際に子どもに言ってきかせた。

    ストーリーが単調なのに、ぐさぐさ刺さる言葉がてんこ盛りでまいった。
    ふつうこれほどに読点が頻繁に打たれると却って読みにくくなるものだけど、するすると入ってきた言葉が読点をくさびにして腑に刻まれた感じ。
    作家の言葉って怖い。

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    投稿日:2022.06.23

  • コハマ

    コハマ

    このレビューはネタバレを含みます

    こども。成長。『小泉今日子書評集』にて。ある日突然やってきたかつての恋人が置いていった八百万円と赤ん坊。

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    投稿日:2016.11.26

  • hayasick0103

    hayasick0103

    40歳になる主人公の未婚の女性は、幼馴染で高校生の時に付き合ったことのある男性から、8ヶ月の男の子、山尾を預かった。程なくその父親は失踪。両親の協力を得ながら、1人で山尾を育て上げた10年間が書かれている。甘やかすでもなく、血の繋がらないことに引け目を感じさせるわけでもなく、随所に惜しみなく注がれる愛情をひしひしと感じられた。両親や付き合いのある男性に老いを感じる寂しさ。「順番は守れ」と山尾に言った一言が印象に残った。続きを読む

    投稿日:2016.08.28

  • けろ姫

    けろ姫

    昔の男から突然、男の赤ちゃんを預かった40歳の「わたし」。
    以来10余年「山尾」という名の血の繋がらない子を
    「わたし」は育ててきた。
    そんなシングルマザーの話。

    著者の小池昌代さんは母であるが
    狭い血のつながりで
     親子のことを書きたくなかったから」
    この作品を書いたのだと言う。

    脚本家の岡田惠和さんも
    他人の集まりである「家族」をよく描くが
    血縁ではないだけに
    より深い理解や愛情で結ばれることがある。

    「家族の絆」こそがすべて、と群れたがる人も多いが
    私はそのベタついた感じが苦手で
    小池さんが言うように
    血のつながりなんぞちっちゃいものだ、と思う。

    親と子であればもっと深く大きなもので
    つながっているのだ、ということを
    小池さんは書きたかったのだろう。

    私は子供を産んだことも預かったことも
    育てたこともないが
    一度、子供を懐に受け入れたら
    きっと離したくなくなるのではないかと思う。

    女にはどうしようもなく母性というものがあって
    だから血が繋がらない子でも
    自分の手で育てることができる。
    血とは関係なく、その子は自分の子供になる。

    そんな「わたし」には男が二人いる。
    「男たち」には家庭がある。
    だから「遠くの山なみ」だと思っている。
    「最後の最後、関わり合いになることもない」が
    会えば、想いをつのらせることもある。
    「つかのま一つになる」ことをやめることもない。

    これもまた母性なのだろうと思う。
    子供であろうと男であろうと
    人はいつか必ず離れ離れになる。
    それでも女は
    いや だから女は
    それらを自らの体で受け止めるのだ。

    それが 人をひねり出す性である女の
    特殊能力である以上
    決して逃げてはいけないのである。

    そんな生々しい作品ではあるが、
    小池昌代さんは詩人なので、
    キラリと光を放つ言葉や表現が随所に見つかる。
    夜空に星を探すような楽しみがある。

    また
    すぐれた歌詠みである美智子皇后のエピソードを
    紹介したりもしていて
    エッセイのように読むこともできる。

    淡々とした作品ながら
    じわじわと心の奥にしみこむ一冊である。
    続きを読む

    投稿日:2016.07.11

  • a85246la

    a85246la

    10歳の男の子を育てている女性の話。文学的な表現が多い。私も10年後、この話の女性みたいに感じたり思ったりしてそうな気がする。

    投稿日:2015.12.21

  • hifumi1232001jp

    hifumi1232001jp

    幼なじみ男性の生まれたばかりの子ども山尾くんを生活費とともに未婚の女性がひとりで預かるがいっこうに引き取りにこないまま山尾は小学生になる。なかなか想像しがたい物語のスタートではありましたが、山尾くんは読書が好きな男の子で手がかからない様子であり、預かった方も、不規則な生活に落ち入りがちな校正の仕事からせんべい工場勤務に転職し、山尾くんと一緒にいる時間を確保するようなごく普通の配慮をした母親役でした。淡々とお話は進み、どちらもこの生活に不満がなく
    むしろ満たされた空気に包まれており、むしろこの先山尾くんが自立するときが来たら、ふたりの心のバランスが崩れてしまいそうに感じました。
    続きを読む

    投稿日:2015.03.29

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