近現代日本史と歴史学 書き替えられてきた過去
成田龍一(著)
/中公新書
作品情報
近代日本の始まりは、ペリー来航ではなく、かつては天保の改革とされていた。高度成長期の公害問題が起こるまで、田中正造は忘れられた存在だった―。歴史は、新史料発見・新解釈により常に書き替えられる。特に近現代史は、時々の政治・社会状況の影響を受けてきた。本書は、マルクス主義の影響下にあった社会経済史をはじめ、民衆史、社会史という三つの流れから、近現代の歴史がどのように描かれ、修正されてきたかを辿る。
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商品情報
- 著者
- 成田龍一
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2012.02.25
- Reader Store発売日
- 2018.06.08
- ファイルサイズ
- 2.5MB
- ページ数
- 320ページ
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この作品のレビュー
平均 3.4 (14件のレビュー)
-
戦後、今日まで、近現代日本史がどのように描かれ、修正されてきたかをたどっている。
本書のベースとなる考え方は、歴史(像)というのは、永遠不変のものではなく、その時々の歴史家の問題意識により書き換えられ…るものであるというものだ。その考え方の本質は、本書で引用されている、「歴史とは(……)現在と過去との尽きぬことを知らぬ対話」というE・H・カーの『歴史とは何か』の一節に端的に表されている。私もこのような歴史の見方には賛同する。このような歴史の考え方を示す歴史哲学の本は数多あるが、それを近現代日本史という長いスパンで実際の歴史学の成果をたどることで実際に示しているところに本書の特色がある。
本書では、戦後の近現代日本歴史学は、3つのパラダイムが変遷してきたと主張される。すなわち、マルクス主義の影響を受けた社会経済史をベースにした第Ⅰ期、民衆の観点を強調するようになる第Ⅱ期、社会史研究が取り入れられ、近代や国民国家の相対化が試みられた第Ⅲ期である。それにより、日本における近代の始期が、天保の改革からペリー来航に書き換えられたり、自由民権運動や大正デモクラシーの評価が変わってきたりしたと、近現代日本史の各テーマに沿って歴史学研究の実例が紹介される。
本書を読んで、戦後歴史学が、マルクス主義に強く規定されていたことを再認識した。まさに政治に奉仕する歴史学であり、個人的にはすごく違和感を覚えた。一方で、社会史が台頭する第3期の近代や国民国家を相対化する歴史像は妥当なものだと思う反面、マルクス主義という「大きな物語」の喪失により、歴史学の目指すところが見えにくくなってしまっているのも事実だと感じた。
本書の難点としては、研究がなされた当時の学生運動や国際情勢などが歴史家の問題意識に影響を与えたのだろうと特に根拠なく推測していることが少なくなかったことが1つ挙げられる。研究内容から見て、たぶん影響はあったのだろうが、それを裏付ける研究者本人の証言等が示されていれば、なお説得力があったと思う。
また、社会経済史や社会史に焦点を当て過ぎな気もした。第Ⅰ期から、マルクス主義の影響を受けないいわゆる「実証史学」の研究はあったと思うし、現在まで連綿と続いていると思うのだが、そういう研究が捨象されすぎているのではないかという気がした(例えば、伊藤之雄など)。続きを読む投稿日:2014.01.26
「歴史修正の歴史」という少々厄介なテーマを扱っている。概して、「歴史修正主義」は悪のイメージで語られるように思われるが、そもそも歴史は修正されるものである。それは新たな史料が発見されたり、新たな意味付…けによる解釈が世間に受け入れられたり。著者曰く、世間一般の歴史理解(歴史小説や歴史番組)のレベルは40~50年前のもの(これが教科書の記述水準)であるとの事なので、それを逸脱する解釈は「歴史修正主義だ!」と批判される側面はあるとは思う。が、さすがに60年代以降生まれの歴史学者(著者曰く第3期世代)が大御所的に台頭してきているので唯物史観も衰退しており、世間一般の歴史認識も変わりつつあるのかと。まあ、司馬遼太郎をいい加減に卒業しろよって事なのかもしれないが。続きを読む
投稿日:2019.07.30
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