生物多様性 「私」から考える進化・遺伝・生態系
本川達雄(著)
/中公新書
作品情報
地球上には、わかっているだけで一九〇万種、実際は数千万種もの生物がいると言われる。しかし、その大半は人間と直接の関わりを持たない。しかし私たちは多様なこの生物を守らなければならない。それはなぜなのか――。熾烈な「軍拡競争」が繰り広げられる熱帯雨林や、栄養のない海に繁栄するサンゴ礁。地球まるごとの生態系システムを平易に解説しながら、リンネ、ダーウィン、メンデルの足跡も辿り直す、異色の生命讃歌。
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商品情報
- 著者
- 本川達雄
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- 中央公論新社
- 掲載誌・レーベル
- 中公新書
- 書籍発売日
- 2015.02.25
- Reader Store発売日
- 2016.07.30
- ファイルサイズ
- 1.5MB
- ページ数
- 304ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (10件のレビュー)
-
「生物多様性は何故守られなければならないのか?」の問いに対して、巷では「人類にとって有益だから」と説明されることが多い。しかし、破壊するだけ破壊しておいて、やっぱり役立つし大事だと気付いたから守ります…、というのは虫が良すぎる上に、どちらにしろ人間のエゴでしかないやんとかねがね思っていたので、納得のいく理由を探しに本書を手に取った。
前半は、前提として生物多様性とはどういうものなのか、有益といわれる理由(生態系サービス)や、特に多様性に富んでいる熱帯雨林やサンゴ礁の状況、生物の進化の歴史などを交えて大変わかりやすく説明されている。
後半は、なぜ守らなければならいのか、いかにして守っていくのかという話だが、だんだん哲学的・宗教的、また経済的なところにまで論が展開されており、やはり一方向からだけで理由付けできる簡単なものではないのだなあと感じた。
「どんな生物にも長い歴史があり、それぞれにしか持ちえない価値がある。また、人間と同じように生物も生きる権利を持っているから、それを人間が勝手に奪うようなことをしてはならない。」と説明されるのが自分の中では一番納得できるかな。ヒトが築いてきた文明にはすでに価値が見出されていて、文化財等として保護されてきているのだから、今度は他の生物の生き様にも敬意を払い、守っていくべき時代に突入したのだろう。どんな生物にも礼儀を持って接したいものだ。続きを読む投稿日:2021.03.16
生物学、生態学など全くの素人の立場で書評を書きますが、初学者にもとてもわかりやすく面白く読みました。序盤で面白かったのは生物多様性の世界と物理学の対立についてです。前者は個別性の世界なのに対して、物理…学は普遍性の世界だから相性が悪い、というのは、ちょうど最近読んだ、ウォーラーステインの『入門世界システム分析』を思い出させました。ウォーラーステインによれば、近代になって学問が科学と人文学に別れてしまったこと(彼はこれを「2つの文化」と呼んでいます)、科学が普遍性を重視するのに対して、人文学は個別性を重視することで互いが対立をし、結果として近代社会は普遍性を重んじる科学が優勢になっているというようなことが書かれていました。
本書は前半に生物多様性の実態(熱帯雨林や珊瑚礁の事例)、さらにそれが人間も含めた全生物にもたらす意味などをわかりやすく解説されていますが、後半になってくると哲学的な議論展開が進みます。私はアカデミクスの人間ではないので、単純に「面白い展開になってきたぞ」と思いむしろポジティブに楽しみましたが、著者も書かれているように、アカデミクスの人が読むと、著者のような科学者が価値観や「あるべき論」まで語るとは何事だ、と感じるのかもしれませんね。私は著者の勇気と広い見識を高く評価します。
著者は「私」の定義が現代社会では非常に狭い(小さい)ことに警鐘を鳴らしています。そしてこれは科学の粒子主義から来ていて、もっと遡ればデカルトにまで行き着くわけです。そうではなく「私」と私ではないところの境界は空間的にも時間的にも非常に曖昧で(胃の中に入ったリンゴは私の一部なのか否か、あるいは自分の子供にも「私」が遺伝しているが、私の一部なのか否か)、我々生物はそういう曖昧な環境に生きているのが真実であること、さらにこのように「私」を拡大していけば自ずと生物多様性の世界が維持されていく、と論じています。著者は利己主義の己を拡大するという言い方をされています。これは仏教で言うところの小乗から大乗へ昇華せよ、というのとニュアンス的に近い気がします。また他人や他の生き物を手段として見るのではなくそれ自体目的があるものとして見ることの重要さも指摘していますが、これはカントの定言命法を思い起こさせます。カントは「汝及び他のあらゆる人格における人間性を、単に手段としてのみ扱うことなく、常に同時に目的としても扱うように、行為せよ」と述べていますが、これを拡張してあらゆる生物についても手段だけでなく目的としても見ることの大事さ、について語られているのかと感じました。
生物多様性だけでなく価値観、人間のあり方など非常に考えさせられる本でした。オススメです。続きを読む投稿日:2023.04.30
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