沖縄密約
西山太吉(著)
/岩波新書
この作品のレビュー
平均 3.8 (13件のレビュー)
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先日、ブログで書いた「運命の人」を読み終えてすぐに購入した本。小説の最後で主人公・弓成は言う。「沖縄を知れば知るほど、この国の歪みが見えてくる」。これは一体何を意味するのか。返還以降、対米関係において…日本が置かれている状況とは何なのか。弓成のモデルとなった元毎日新聞記者・西山太吉さんが書いた本書は、それらの疑問に多くの示唆を与えてくれた。
著者は、沖縄密約は返還全体を包み隠す虚構だといい、国家による「情報犯罪」と断じる。そして、返還交渉を検証することなく、これまで政府がとってきた道は(宣伝文句に使う)沖縄の負担軽減でも、(他国からの侵略に対する)抑止力の維持でもない。真相は「新たなる負担の追加」と「世界戦略への参画」という。
そもそもなぜ密約が必要だったのか。その理由を、日米交渉を支配する1つの法則「米側がまず交渉の主導権を握り、その上で自らの利益貫徹のため、各種の戦術を巧みに駆使しながら日本側の譲歩をかちとっていく構図」に見出す。そして「対米コミットと国内説明の絶対的な矛盾の中で、吉野(※吉野文六・元外務省アメリカ局長)が指摘したように最大限の『きれいごと』を求めようとすれば、落ち着く先は、やはりそのような犯罪になる」とする。国民には「“核抜き本土並み”の返還」を謳いあげ、アメリカには巨額支出と基地の自由使用を容認。相反する約束をしておきながら、“きれいごと”を求めた必然の結果として政府は、密約に行き着いたということだ。
交渉もずさんだった。政権の総決算を任期までに行いたい佐藤栄作首相。次期総裁を狙うために最大限の貢献を果たそうとする当時の大蔵相・福田赳夫の思惑などが交錯。日本側の交渉は首相の任期が切れる“72年”返還という目標ありきで進み、外相・大蔵相・密使の3者によって各自バラバラで行われたという。
一方のアメリカは、「72年返還」というカードを有効に使って系統だった計画的な方法をとり、財政面と軍事面双方で大きな果実を得た。そして果実をその後、有効に発展させてもいく。アメリカは始めから返還交渉を出発点と位置づけ、今後に大きな実をつける果実の「種まき作業」とみていたのだろう。
例えば財政面では、返還時の米資産買取り分として積算根拠(いわゆる“つかみ金”)の乏しい3億2000万㌦を日本に認めさせた。またそれ以外に密約枠として、日米地位協定上、原則米側負担だった基地の移転・改良費用を日本に負担させた。「6500万㌦(当時の234億円)の“基地施設改善費”(米密約文書)こそが、返還時点での一時金ではなく後年度負担として受け継がれ、それどころか、年々肥大していった現在の“思いやり予算”の原型となったもの」。同予算は右肩上がりに急上昇を続け、94年度には2756億円にもなっている。
軍事面でもアメリカが当初描いた戦略が実現する。①沖縄返還を起点として、②周辺事態法(新ガイドライン、99年5月成立)、③日米軍事再編(06年5月1日採択)。著者は、それぞれの過程でアメリカの要求に従う政府の態度を説明し、「日米安保は、基地使用の弾力化と基地関係支出の日本側への転嫁(①)、そして基地使用の対象領域拡大と自衛隊の後方支援(②)、さらに日米双方の軍事力一体化・共同化(③)という形で変質を遂げてきた」と分析する。
“買戻し”反対の世論に対抗した佐藤首相の「沖縄はタダで返ってくる。こんないいことはない」発言。沖縄返還は、国民に知らされていない形の実態があり、いまも多大な負担が積み重なっていた。1度ついた嘘は必ずほころびをみせ、また新たな嘘をつく。だからこそ早期に公開して検証を行い、“失政の芽”を断つ -。“国家の嘘”を掴んだ西山さんはそんな義務感にかられ、国家と闘い、敗れてもなお歯を食いしばって立ち上がったのだと思う。本書は全体的に論理的な説明がなされているが、文書の端々から西山さんの怒りが伝わってくる。
くしくもいま、鳩山首相は苦境に立たされている。普天間移設を「5月までに決着させる」「腹案がある」と答弁したが徳之島案は米側に拒否され、5月決着は実現不可能な情勢。当然その状況はアメリカにみられている。また付け込まれる余地は十分ある。注視していきたい。続きを読む投稿日:2010.06.02
権力とは恐ろしい。使い方を間違えれば現在のようなウクライナ戦争も起こるし、北朝鮮のように国民が飢えてでも核ミサイルを飛ばそうとするなど、世間一般には間違っていると断言して出来ることが世界中で頻繁に発生…する。
我が国の権力の頂点と言えば、民主主義国家だから原則的には国民にあるのだが、その代表たる国会そして内閣総理大臣が実務上の最高権限となる。政治家たるもの誰しも最終的に目指すのは総理の地位であろうし、それを手にするためであれば汚い手、禁じ手を使う。
本書前半は池田総理から佐藤栄作へと権力の移り変わりに際して「利用された」と言っても過言ではない沖縄変換問題、沖縄密約の発生経緯を辿っていく。当然、沖縄を返還してほしい日本と基地として失いたくないアメリカの間の外交問題だから機密事項も多いのはわかるが、後に日本がアメリカに支払った(実質的に沖縄を金で買ったと言われる)表向きな金額とは別に、アメリカに支払った金がある。筆者はその存在に気づき国家を相手にした結果、逮捕されるという悲劇に見舞われる(執行猶予付き)。ここでも国家という強大な権力には1人の人間が立ち向かえないのが現実にあった。
なお、機密費問題に関してはその後に外務省の当事者が当時を告白したこと、アメリカ側では譲歩公開がされたことから、周知の真実として白日のもとに晒されるわけだが、それでも歴代外相はそれを認めない態度を続ける。しかし本書が言いたいのはそこではなく、沖縄という土地やそこに住まう住民たちの意思とは関係なく、国会議員の権力闘争に巻き込まれる事実についてである。
現在の政治を見ていても、日本は外交が弱いと言われる一昔、二昔前から大きく進歩しているようには見えない。寧ろ外務大臣の海外訪問のニュースからは行った国と誰と会ったかだけに注目が集まり、中身よりも外見しか見ていないのは昔も今も変わらない。だから秘密も容易に作られてしまうし国民の監視も甘い。そして中身のわからない日本の外交は弱腰とも取られる。
この弱腰傾向は太平洋戦争に負けてアメリカ占領下にあったのだから仕方ないと言えばそうかもしれないが、戦後も続く日米関係を見てわかる通り、余りにもアメリカに対して逆らえない状況は続く。確かに極東の不安定さにはアメリカの軍事力はよく効いているし、日本もそれが無ければどうなるか判らない。残念ながらそれを解決出来るのも外交力しかない。だから根本的には対外的に強い(最低でも対等に渡り合える)外交力=国力が必要だ。
現状を見れば少子化と超高齢化が続き、人口もじきに1億人を割る。若者は働く意欲を失い定職に就かないばかりか結婚もしない。地方の過疎化は益々進み空き家だらけで廃墟だらけのゴーストタウンと化していく。我が国だけが課題山積にも見えるが、それを解決している北欧の国々もある。
まずは国民が目を覚まし、自分たちの国の現状をしっかり見つめ、今後10年、30年先を見て何をするべきか真剣に考える必要がある。
話は飛んだが、国家権力に立ち向かう筆者の姿には勇気を貰える。続きを読む投稿日:2023.05.26
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