【感想】収容所(ラーゲリ)から来た遺書

辺見じゅん / 文春文庫
(136件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
83
28
11
3
0
  • 人は死んでも生きている

    戦後シベリアで抑留され過酷な状況にありつつも、その中に生きがいや幸せを見出し、周囲の人たちの希望となった山本幡男とその遺書を記憶して伝えた男たちの話。泣けてなけて仕方なかった。人は死んでも生きている。亡くなっても人の心に存在し続けるように生きたい。続きを読む

    投稿日:2022.04.09

  • シベリア抑留は知っていましたが、こんな奇蹟的な話があったとは

     映画化されると聞き、大急ぎで読みました。シベリア抑留についての知識は、歴史上の事実として知ってはいましたが、このような奇蹟的な逸話があったとは、全く知りませんでした。
     実は、今は亡き、大正13年生まれの我が父は、工兵として満州へ行き、そこで終戦をむかえました。オヤジの話によれば、終戦後復員する前に、ずいぶん中国本土の復旧工事をさせられたと言っておりました。でも、ほんのちょっと運命が違えば、彼もシベリア送りになっていたかもしれません。もしそうなっていたら、お袋さんと結婚していないかもしれないし、昭和34年生まれの私はこの世にいなかったかもしれません。
     この本はノンフィクションながら、かなり小説風に書かれてはいます。時の流れや描かれる場面があちこちにいって、ちょっと戸惑うことがありました。作者の想像で書かれた箇所もあるかもしせませんが、兎に角、よくぞこの本を出版してくれたと思います。
     収容所生活の過酷さは、これまでも様々なところで紹介されてきました。過酷な状況に耐え抜くには、体力以上に、必ず故国へ帰るという強い意志が必要だったでしょう。でも極限状態となると、その人の本性のようなものが健全化してきます。また、日本人同士間のタレコミやソ連に迎合して、少しでも良い思いをしようとする人も出てきます。
     そんな希望のかけらも見えない状況の中、どうして山本幡男さんは、いつも前向きに考えることが出来たのでしょうか。ただひたすらに、故国へ帰るんだという強い希望を持ち続けたからでしょうか。しかも、その振る舞いは、次第に周りの人々に影響を与えていき、彼の存在そのものが、過酷な生活の中で他の皆の希望になっていったんだね。しかし、病気が進行し、とても故国へは帰れないと自覚したとき、流石の彼も希望をなくしてしまいます。ところが今度は、周りの仲間が彼の希望を奮い立たせるわけです。それが、彼の遺言や彼の詩、彼の歌等の著作物を、彼の帰りを待つ故国の家族に届けると言うことだったんだね。しかも、帰国の際に持ち出せないからと、仲間とともに少しずつ分散して、すべてを暗記することによって。。。
     昼間は過酷な労働を強いられ、疲労困憊の中、他人のコトバを一字一句間違えずに暗記するなんてことは、不可能に近い行為です。それに、帰国してからだって、大変な生活が待っていたはずです。最後の遺書が山本家に届けられたのは、昭和62年とのこと。こんなことが私たちの知らないバブル全盛期に起こっていたとは。
     これは、収容所で共に艱難辛苦を味わった友情のキズナなんていう生やさしいものではなく、とても我々のコトバでは言い表せないモノが彼らの間にあった証でしょう。
     ソ連の行ったことは、まぎれもなく戦争犯罪です。いやその前に、勝ち目のない戦争に突き進んだことが問題であることは、今となっては明らかです。でも、それ以上にこの本は、生きると言うこと、いや生き抜くと言うことは、どういうことかを読者に突きつける一冊でありました。
    続きを読む

    投稿日:2022.12.31

ブクログレビュー

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  • アノマロ

    アノマロ

    「遺書」の文面を読んだ時、涙が止まりませんでした。

    戦争という名の下にどれだけの犠牲があったのか…。

    強制労働、粗食、収容所内にスパイがいるかもしれない、気が休まる事はなかっただろう。

    アムール句会のみんなの俳句が、ときに切なかったです。続きを読む

    投稿日:2024.05.18

  • ロンロン

    ロンロン

    シベリア抑留の方々が大変な苦労をされたことは知っていたが、理不尽さは遥かに想像を超えていた。捕虜となるどこの国でもこうなるのか?
    そんな状況下でも希望を持ち続ける山本氏らを支えていたのは句会や勉強会。自分がもし同じ状況でも、こんなに知性と感性、知識欲を持ち続けることができるだろうか?続きを読む

    投稿日:2024.05.04

  • 葉月

    葉月

    貸していただいた本です。
    遺書と題名にあるのだから、そうなることは分かっているのに、帰れることを願ってしまいました。

    投稿日:2024.04.09

  • azure24

    azure24

    山本が遺書について何としても家族に届けてほしい、と懇願したのが、それまでの山本像とは異なるお願いだったので違和感があった。そういう私欲のために他人を使うということをしなさそうな人だったからだ。
    しかし最後まで読めば、その違和感は勘違いだと分かる。山本はもちろん家族に届けてほしいという意向はあったが、それ以上に残された俘虜たちに生き延びる強い希望を与えたかったのだろう。遺書を届けてほしいというお願いは、「あなたは生きて日本に帰れるのだ」という山本のかけた強いマインドコントロールでもあるのだ。
    残された俘虜たちは何としてもこの遺書を暗記し、生きて帰るのだ、という確かな信念を持つことができた。これが帰還までの生きる寄す処となったことだろう。死してなお希望を与え続けた山本の力に感嘆する。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.24

  • Limei

    Limei

    シベリア抑留の実話です。
    想像を越えた10年を超える抑留生活の苛酷な様子を知り、言葉にならない衝撃と悲しみと苦しさでいっぱいです。
    ソ連の強制収容所の厳しさは耐えられないほど辛いけれど、何よりも密告する同胞たちがいることに心が痛みました。

    そんな身も心も痛めつけられてしまう地獄のような収容所の中ででも、シベリアの青い空を美しいと感じる心を持ち続け、俳句をよみ、文章を綴り、仲間を励まし続けて日本に帰ることを決してあきらめなかった山本幡男さん。

    「ぼくはね、自殺なんて考えたことありませんよ。こんな楽しい世の中なのになんで自分から死ななきゃならんのですか。生きておれば、かならず楽しいことがたくさんあるよ」

    私もずっと読みながら、
    「苛酷な状況に置かれてもなお人間らしく生きるとはどういうことか」
    ということを考え続けていました。

    そして、山本幡男さんのご遺志を命をかけてでもご遺族に伝えようとした仲間の友情に心打たれます。

    山本さんや収容所の俳句仲間の俳句、詩、文章。
    本で読むと文字から想いが伝わってきます。

    日本の地を踏むことなく、家族との再会も叶わず、シベリアの収容所で亡くなった方々の無念を思うととても悲しいです。
    その方々のためにも、日々を大切にして良い生き方をしないといけないなと思いました。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.24

  • こにゃ

    こにゃ

    映画を見たので、原作本思ったけど、私が読み進めるにはかなり厳しかった。
    登場人物は多いし、歴史的説明も多い、俳句も入って来て、もはや歴史と国語の教科書的な感じで
    どうにもこうにも進まなかった‥

    普段ライトな小説ばかり読んでいるからか…
    諦めずに読み切ろうとだけ思って頑張った。
    山本さんの衰弱していく様子は辛かった。
    しかし、クロがホントに日本にも来ていたなんて!そこが心底ビックリ。
    あれこそフィクションだと思っていた…

    まぁ、なんとか読んだけど、やっと終わった…と思ってしまった。

    続きを読む

    投稿日:2024.03.22

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