【感想】羊と鋼の森

宮下奈都 / 文春文庫
(1094件のレビュー)

総合評価:

平均 4.0
329
416
224
38
10
  • ピアノ調律の奥深さ

    本屋大賞にもなり,映画化も予定されている作品。

    いなかの高校の体育館のピアノ。それが,その人に魔法をかけられたようにまったく違う音を奏でた瞬間,主人公のその後の人生を一変させてしまう。
    ピアノは鍵盤を押す楽器ではなく,その鋼の弦をフェルト(羊の毛)でできたハンマーで叩く楽器で,その調律によって,まったく違う音色が現れる。

    『よろこびの歌』,『終わらない歌』にもコメントしたように,この作家さんは音楽のそして音の表現力が秀逸。
    この作品でもそれがあってこそ成り立ちます。
    ピアノを持っていても,調律師の存在など気にしませんよね。音を正確に合わせる人,という認識しか私ももっていませんでした。でも,音を『正確』に合わせても和音で生じる音の濁りなど,音楽の授業の楽理でちょっとだけ聞いたようなことが,きらきらした音のイメージとともに浮かび上がってきます。
    本のタイトルからは何の話か分からないですが,とっても良い作品でした。
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    投稿日:2018.02.24

  • 言い得て妙なるタイトル

     このタイトルから調律師のお話と想像する人は、まずいないでしょう。私も、本屋大賞を取らなかったら手にしなかったかもしれません。勿論、読んでみれば、その意味するところがよくわかります。羊と鋼を駆使して構築する世界。一つの技術、一つの芸を追求しその深淵に迫るということは、時には出口のない森に迷い込んだようなものなのでしょうね。
     私自身は調律師と言う仕事は知っていましたし、幼き頃、エレクトーンを習っていたときに、楽器店でチラッと見たことはあります。ただ、最も意識したのは、ピアノではなく、チェンバロのコンサートに初めて行ったときであります。弦をひっかいて音を出すチェンバロは、ピアノ以上に音がずれていくようで、一曲終わる毎に、舞台袖から調律師の方が出てきて、調整をされていました。チェンパロのコンサートですから、大ホールというわけではありませんが、満員の観客の前で仕事をするのは、かなり緊張するだろうなぁ、と思ったことを覚えています。
     さてこの物語は、調律という音の世界に魅せられてしまった青年の成長物語であります。数々のエピソードが語られますが、さほど劇的なものはありません。しかし、全く知らなかった未知の世界のお話であり、趣味で音楽をやっている私にとっては、とても興味深いものでありました。そして、この数々のエピソードに彩りを与えるのが、個性的な調律師仲間であり、また双子の姉妹であります。それに加え、佐藤多佳子さんの解説で初めて気がついたのですが、主人公のファーストネームがどこにも書かれていません。僕という一人称で書かれているにも関わらず、どこか神秘的であり、普通の小説にはない雰囲気を醸し出しているのは、そのせいかもしれません。
     一方、「音の景色がはっきりと浮かぶ。」とか「透き通った、水しぶきみたいな音。」等という、とても魅惑的な表現が、そこかしこに出てきて、作者の感性の豊かさにも驚かされます。
     この小説が映画化され、近々公開されるとのこと。文字で表された魅惑的な世界を、どう映像と音で表現されているか、楽しみであります。
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    投稿日:2018.05.31

  • すがすがしい青春小説

    20代の青年の成長物語。
    途中で壁にぶち当たったり、挫折しそうになりながら、10代後半からの夢を純粋に追い続けていくということから、青春小説と言っていいと思う。主人公の周りの人たちの言動も、人生訓になっているし。
    すがすがしい読後感。
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    投稿日:2018.03.21

  • とても静かな物語だった。

    調律師という職業の深さ、調律にも才能とセンスが現れること、ピアノが羊と鋼でできていること、何もかも新鮮で興味深かった。主人公には果たして才能があったのかなかったのか、ただ、彼は、自分には何もないと、それでもひたすら調律に取りくめるブレない姿勢は、ある意味、とても強くてうらやましい。それはすでに才能だと思う。続きを読む

    投稿日:2018.04.24

  • 『羊と鋼の森』そこには大きな世界が。

    たまに行くコンサート、音楽会、ライブでただの一度も景色や気配、匂いなんて感じたことはない。これは手ごわい、根本から何かが違うな。
    なので外村青年の感じているイメージを通しての、景色や感覚を想像してみる。
    例えば、いくつもの美しいものを発見した時の、静謐であり温かく強さもある表現がいくつも現れて、それはもう。
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    投稿日:2018.05.02

  • とても爽やかな読後感

    狭い我が家にもピアノがあったんですが、そんな知識はなくとも、ただひたむきで誠実な主人公に共感と感情移入がしやすくすらすら読めました。

    投稿日:2018.06.10

ブクログレビュー

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  • misato

    misato

    音楽という世界に魅せられた人にとって人生は短すぎると思わずにはいられない物語。美しくて、登場人物たちが羨ましくて、私も音楽がとても好きだけれど、この人たちの耳と感性を1時間でいいから借りて世界中の音楽を聴いてみたい。続きを読む

    投稿日:2024.05.20

  • Sgepk

    Sgepk

    調律師さんのお話で平坦かと思っていたが、中盤~物語が動いたところで面白くなりました。私も調律師に憧れていました。主人公の青年の成長が双子の関係性と絡めることによって上手くお話が進んでいると思いました。面白かったです。続きを読む

    投稿日:2024.05.18

  • Take

    Take

    ピアノの調律の奥深さや、先輩職人の職業観、ピアノと向き合う依頼人の姿など、様々な観点から描かれた物語。

    投稿日:2024.05.06

  • ななみん

    ななみん

    外村くん、感性が豊かすぎて素晴らしい。できるできない、合う合わない関係なく彼にとって調律師は天職だと思った。不器用で地味?かもしれないけど、外村くんのように先輩から応援してもらえる人間になりたい。欲深くなく、仕事に対して一生懸命努力できるのは凄いことだと思った。また、解説を読むとより理解が深まった。1人の青年の成長を先輩と一緒になって応援できた気分。
    初めは地味で中々進まないお話だなと思ってしまった。
    続きを読む

    投稿日:2024.05.03

  • riyumom

    riyumom

    調律師の話だけにピアノの構造や材質への記述がおおい。読むに付け、ピアノは不思議な成り立ちの楽器だと思う。昔、ピアノに触れた機会があるからそれを知らなかったわけではないのに、前板などに隠されて見えない中の働きを、なぜかすっぽりと忘れていた。小学生の時にグランドピアノの中をぼんやりと眺めて知っていたはず。
    裏方としてサポートする技術者という意味では、わたしも似たような仕事をしている。完璧な仕事を目指すのは難しい。正解がわからない。ただ、こつこつと努力するしかないのだ。わたし自身今の仕事を20年ほどしている。根気よく、こつこつと。
    まだ、成長できるだろうか?
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    投稿日:2024.05.03

  • shi- ◡̈

    shi- ◡̈

    このレビューはネタバレを含みます

    「安心してよかったのだ。
    僕には何もなくても、美しいものも、音楽も、
    もともと世界に溶けている。」
    何て素敵な表現なのか。何度も繰り返した。
    世界には美しいものがたくさんあって。
    美しいと思えるものが人それぞれ
    "そこ"に存在していて。
    それがあるから生きていけるもの。
    それがないと生きていけないもの。
    そんな存在を杖にしてどんな時も立ち上がれたら、いいな。

    ピアノ調律師の夢を叶えた主人公が成長していく姿を描いた作品。
    美しく繊細な言葉がたくさん並んでいました。
    何かに真っ直ぐ突き進むことのできる人は、それだけで美しい。

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    投稿日:2024.05.01

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