【感想】幻夏

太田愛 / 角川文庫
(356件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
154
142
43
6
0
  • あの夏の日がなかったら。。。。

     ドラマや映画において、見ている我々が犯罪者の方に肩入れをしたくなるストーリーは多々ありますが、このミステリーも私にとっては、まさにそのような小説でありました。
     冤罪については、これまでも何度も問題にされています。松本サリン事件や、いまだ再審中の事件も多々あります。しかし、この小説の中で書かれているように、冤罪に導いた人達に対する行為が罰せられるケースはあまりないように思います。厚生労働省の村木厚子さんのように、関与したか否かのような場合は別として、殺人事件ような場合は、真犯人を取り逃がすという大罪を、警察も検察も犯しているわけで、もっときびしく断罪されるべきでしょう。それにしても、いつ自分自身がそのような状況に追い込まれるか判らないと思うと、おちおち街を歩けなくなりますよね。
     さて、この小説そのものはミステリーでありますから、その内容についての感想を詳しく書くと、これから読む人に申し訳ないので書けませんが、久々に長編ミステリーを読んだ私は、完全にのめり込みました。
     謎が謎を呼び、一体何がどうなっているか、先が気になって仕方ありませんでした。おそらく実際にはこんな形で冤罪が成立してしまうのだなと言う戦慄、そして、まるでスタンドバイミーのような幼き頃の夏の思い出。結局、ウラに隠れている大きな闇は世間に公表されることはなかったという結果に終わりましたが、今なら文春が暴露するところでしょう。これに頼らざるを得ないのも情けない話です。
     社会的闇を追及しつつ、夏の日の記憶をたどるストーリー展開は、とても読みごたえがありました。私はこの小説を最初に読んでしまいましたが、主要人物が出会う話がこの前にあるようで、そちらも是非手に取りたいと思っています。
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    投稿日:2021.05.02

  • ある種の理想型

    シリーズ前作「犯罪者」ですっかり虜になってしまった。
    前作では息もつかせぬスピード感、誰が生き残り誰が死ぬのかとハラハラし通しだったが、今作品は謎解きの牽引力はそのままに、だか一味違う切なさがある。
    base~あの夏を忘れない、や、井上陽水の少年時代を聴くと沸き上がる郷愁、二度と戻れない子供時代の儚さ…
    推理小説の中に切なさを封じ込めた、私にとってある意味理想的な小説だった。
    もちろん、冤罪の構造的な問題など硬派な社会的テーマも抜きがたく主題となっている。
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    投稿日:2021.02.10

  • 久しぶりの、読み始めたら止まらない!本でした。

    そして、泣ける!パズルのピースがはまっていくほどにやるせない。
    現実の世界では、刑法に携わる人の中にも、警察関係の人の中にも、もう少し心ある人がいてくれたらと、願うばかりだ。

    投稿日:2020.10.09

  • ハラハラドキドキ秀作です。

    面白いストーリー展開で、特に後半は、ハラハラドキドキの展開で、秀作だと思います。

    投稿日:2020.04.30

  • 水沢尚の幻夏は再生されるのだろうか?

    脚本家だけあってストーリーが三重にも四重にもなっていて読んでいて全く飽きなかった。前作の『犯罪者』も含めて脱帽するしかない。それにしても冤罪に端を発した悲しく、切なすぎる物語だった。警察・検察・裁判官の無謬性を信じて疑わないみずあず態度が冤罪を生み出す温床になることに腹も立つ一方で、池袋暴走のじじいやゴーンなどは一方的に叩きのめしてほしいという心情もある。水沢尚が終章でカーテン越しに見た”本当にあった夏”は、幻夏として終わって欲しくない;水沢尚の後半生に幸あれと願わざるを得ない。次作『天上の葦』は積読状態だが、楽しみとしてしばらく置いておこう。続きを読む

    投稿日:2020.04.27

  • 面白すぎて謎解きは二の次という感じになった

    23年前の夏休み、小学生の尚・拓・亮介の3人、楽しかった思い出、なにか大きな災いが起こるような不安と切なさ、そして近所で起きた転落事故と尚の失踪。
    臨場感というのか既視感というのか誰もが持っている大人になる前の微妙な時期の微妙な思い出。前半はミステリ要素無しでもハマってしまう。
    でもこのままの雰囲気で終わるのもちょっと・・・と思い始めた中盤あたりから司法制度の問題点が次々と明らかになり別の意味でハマった。
    人の心は硝子のように壊れたりはしない。時間をかけてゆっくりと壊れていく姿を推理しながら過去と現在の事件を繋げていく。
    司法の場にまで侵略する経済効率や冤罪など考えさせられることも多かった。司法に関わる人間の善悪の基準や罪に問われない悪の問題などの重いテーマも盛り込んである・・・あるのだが、しかし事件を追う相馬・鑓水・修司の個性的な3人のキャラが面白すぎて謎解きは二の次という感じになったのも事実。
    何となく予測しながら読んだ結末は半分当たって半分外れた感じ。
    警察官の相馬はなぜ左遷されたのか気になりながら読了。前作「犯罪者」も最新作の「天上の葦」も読まなければという気持ちになった。構成の上手さということなのだろう。
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    投稿日:2017.09.27

ブクログレビュー

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  • ultraman719

    ultraman719

    // = |

    謎の印…
    分かると悲しい(T . T)

    冤罪をテーマにしてる。
    悲し過ぎるやん!
    何もしてへんのに、精神的に追い込んで、自白させる。
    で、自分達の思い描いてる筋書きに合わせる。
    ハイ!犯罪者!一丁あがり!
    みたいな。
    有罪率99%、犯人だと判断して起訴されたら、ほぼ全員、裁判で有罪…
    日本だけみたい…こんな凄い数値。
    ないな!
    こんな高い数値!
    そのせいか、最近、冤罪とかよく聞くようになったな。

    そういう冤罪のせいで…
    お父ちゃんが、罪を着せられ、世間から白い目で見られる母子。
    しかし、冤罪だと分かり、お父ちゃんが…
    尚が謎の失踪。

    この子が、相馬の子供の頃の友だち…
    20年以上経っての再会も悲しさ満点やな。
    ちゃんと!
    ちゃんと!
    ちゃんと、捜査さえしてたら、こんな事起こらんし!
    尚と拓、香苗親子の人生返して〜
    何か、何のために、生きてるんか分からんやん…

    でも、冤罪に大きく関わった奴ら、何の後悔もせんと、そのままなんが、悔しい〜( *`ω´)
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    投稿日:2024.04.27

  • はるはる

    はるはる

    このレビューはネタバレを含みます

    小説だとしてもそれは無理があるんじゃ⋯やそうなるかな⋯というところはあったが冤罪を深く考えさせられるストーリーで全体を通して面白かった。過去のたらればは全部起こらなかったこと(だから考えても意味が無い)というようなことを尚が言っていたが、やはりあの時あの瞬間何かひとつでも違っていたらと思わずにはいられない。
    犯罪が起こった時に警察やメディアから出る犯人逮捕の報道を見て安心感や怒りは覚えるもののそもそもこの人は本当に犯人なのかなどと今まで考えたことがなかったのでこれからニュースを見る度にこの本を思い出しそう。

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    投稿日:2024.04.24

  • まべ

    まべ

    このレビューはネタバレを含みます

    素晴らしかった!!

    真相が明らかになるところがクライマックスではない。

    とにかく終盤の疾走感がすごい。
    どうかどうかと祈らずにはいられない。
    雨の屋上で相馬の指笛が尚に届いた瞬間、胸が詰まる思いがした。
    とても美しかった。

    ラストも美しかった。
    いいシーンでしたね。
    泣きました。


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    投稿日:2024.04.23

  • けよし

    けよし

     読み応えある社会派ミステリーでした。前作『犯罪者』と同じく面白く読みました。
     本作では、前作登場の相馬さんの輝いていた少年時代と、彼が関わった家族の悲劇が描かれており、少年時代の郷愁とともに悲しい気持ちに。

     物語のはじめの方で数々の謎が示され、それを興信所を営む鑓水さんと修司さん、そして刑事の相馬さんの三人が追って行きます。23年前の出来事の証言・回想をどう解釈し、つなぎ合わせるのかがポイントで、そういう意味では、パズル要素もあるストーリーになっていました。それでいて、後半は疾走感があり、スゴイです。

     物語中盤に、イソヒヨドリの鳴き声が聞こえるなか、相馬さんが会いに行ったエピソード、泣いてしましました。通勤電車の中でしたけど。
     このエピソードを読む2週間前に行った、花見で混雑した公園近くの電柱上からの、澄み渡るイソヒヨドリの鳴き声が思い出され、余計に悲しくなりました。
     最後の終章では、新たな物語の始まりが感じられ、前途を祈らずにはいられませんでした。

     本作の冤罪に関わった警察・検察・司法の人たちは、結局自分に誤りがあるとは思っておらず、正しいことをしたとしか思っていないのでしょう。個人の問題というより、システムの問題ですね。詰まるところ、前作『犯罪者』同様、国民が悪いということなんですかね。

     きっと、日々改善に取り組んでいらっしゃる方々が、どこかで努力されていると思います。私に出来ることは、『十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ』を胸に刻み、投票するくらいでしょうか。
     でも、ほんの百数十年前には江戸時代だったのがこれほど変化したのであれば、今後、百年二百年後にはきっと良い方に改善されると信じたいです。
     そこまで待たずとも、冤罪被害者の苦しみを知る彼ならきっと社会を動かしてくれるだろうという、希望の終章でしたが。
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    投稿日:2024.04.22

  • uri

    uri

    『犯罪者』が面白かったのでこちらも読む事に。
    主要人物が変わらないので序盤からすっと物語に入り込めた。

    冤罪がテーマで、前作同様メッセージ性の強い作品であった。ひとつの冤罪事件によって、少年とその家族の人生が狂い始める。冤罪が生む悲劇の連鎖。犯罪の真相は切なく悲しいものだった。

    『犯罪者』もそうであったが、権力には逆らえない・強者の過ちは正されないという理不尽さに怒りを覚えた。本書は日本の司法の問題に正面から問題提起する傑作ミステリー小説である。
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    投稿日:2024.04.16

  • 村井

    村井

    このレビューはネタバレを含みます

    めちゃくちゃおもろい。冤罪がテーマだった。前作を読んでなかったけど楽しめた。犯罪者になっちゃったけど尚は頭も良くてやさしいんだな。択が死んでた展開が怖すぎて一旦本閉じた。
    尚も択も香苗もみんな優しい。復習物語だけど、加害者が優しすぎて切ない。

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    投稿日:2024.04.14

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