【感想】安倍三代

青木 理 / 朝日新聞出版
(20件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
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  • 三代目の才覚

    戦時中の1942年の衆議院総選挙、尾崎行雄が日本の立憲政治も52年を経て孫の代(3代目)になると政府がその精神を踏みにじって翼賛選挙を推進していると皮肉って「売家と唐様で書く三代目」という川柳を引用した演説を行い、不敬罪に問われたことがある(尾崎不敬事件)。
    現在の安倍政権の憲法に対する態度にも、それから安倍寛・安倍晋太郎・安倍晋三の三代にも重ね合わせて思い起こされる。
    尤も、この書を読む限りでは安倍晋三に唐様のしゃれた筆を使うほどの才があるか疑問である。

    安倍晋三が口にする祖父の名は岸信介ばかりであり、私は晋三の父方の祖父、安倍寛に関して全く知らなかった。山口県の日置村村長として地元の人々に慕われてやがて衆議院総選挙にも当選し、前記「尾崎不敬事件」のときの選挙でも非翼賛会候補として執拗な妨害を受けながらも、富の偏在への批判と戦争反対、戦争終結を唱えて当選した。「この戦争は負けるだろう。だが、敗戦後の日本が心配だ。若い力がどうしても必要になる。無駄な死に方はするな」と一人息子の晋太郎に言ったともいう。

    寛が終戦の翌年に病没してしまったため、まだ学生だった晋太郎はそのまま父親の選挙地盤を受け継いだわけではなく、苦労して父の跡を継いでいる。平和憲法を擁護し、リベラルな姿勢を貫いた晋太郎は、その父・寛を終生誇りにしたという。タカ派の多い清和会で会長を務めていたというのに、私には意外なことであった。

    そして三代目。
    筆者が取材して聞き歩いた小学校から大学までの多くの同級生や就職していた会社の同僚、上司の誰もが晋三に関する記憶が希薄だという。成績は良くもなく悪くもなく、友人づきあいもあまり多くなく、強い主張をするわけでもなく、存在感が希薄で凡庸としか言いようがない。
    その晋三が、いつの間にか父や祖父とは全く異なる主張をするようになった。かつての姿を知る人たちには違和感しか残らないだろう。残念ながら、その思考の変遷までは、本書では追っていない。

    晋三が通った成蹊大学名誉教授・加藤節は、彼を「無知」と「無恥」の二つの意味で「ムチ」だと評しているという。これもまた三代目のネガティブな特徴なのだろうか。
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    投稿日:2017.04.01

ブクログレビュー

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  • hito-koto

    hito-koto

    このレビューはネタバレを含みます

     世襲議員の究極ともいえる存在、政界屈指のサラブレッド(だった)安倍晋三。安倍寛(かん)ー安倍晋太郎ー安倍晋三、安倍三代を青木理(おさむ)が追跡しました。「安倍三代」、2017.1発行。一気に読了です。①51歳で病没しましたが、反骨、反東条、一貫して反戦(平和主義)の安倍寛、魅力的です。三木武夫と同期当選を。②寛は四校から東大、晋太郎は六校から東大。1951年岸洋子と結婚。「俺は岸信介の女婿じゃない。安倍寛の息子なんだ。」が口癖。首相の座を目前に67歳で没。③晋三、16年間成蹊学園。ごく普通で素直、凡庸。

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    投稿日:2023.07.15

  • advicekiyomidosu

    advicekiyomidosu

    作者青木氏は、サンデーモーニングのコメンティーター。

    あの暗殺事件の記憶も新しい安倍晋三と

    父、安倍晋太郎、そして晋太郎が敬愛してやまない祖父、安倍寛。
    この3代にわたる人物リポルタージュ。

    殺事件後一般人が口に出していう印象「感じがよかった、フランクだった」

    ニュースで出ていたが、私は何か腑に落ちなかった。



    その祖父「安倍寛」

    平和を希求し、国民の生活を問題視していた

    選挙活動時、家には官憲が何人もいて、いつもプレッシャーを感じていた

    そんな父を尊敬し、同じように平和を希求し、

    毎日新聞に務めた経験からグローバルな視点を持ち

    人種を超えて誰からも話が聞ける「安倍寛」の一人息子晋太郎。

    その逸話は、青木氏も興奮を覚えるほど魅力ある人物で

    人々が手弁当で応援したくなる人物だった。



    安倍晋三は多くの人々から聞き取りをしても

    子供時代から政界に入るまで、政治的指向もはっきりせず、

    なおさらそんな発言は皆無。

    成績も全て可もなく不可もなくで過ごす。

    人々の印象も影が薄く素直ないい子どまり。



    3期にわたり、国民を戦争の危険に向かわせている主張は後天的に、

    付き合う人々によって培われたものであったという。

    国会答弁に関してもど素人の私がみても、

    ただ時間を浪費し論点の軸を遠回りに無関係な文章をつらつらと述べるあの姿。

    信念や相手を敬う心もない空虚な言葉のつらなり。

    故郷山口に帰省する父親や母親との接点は少なく、

    周りの大人にはただ素直でいい子の印象。
    祖父岸信介には猫可愛がりされて育つ。
    そして、東大、早慶などの入学は、はなから諦め、

    成蹊で小学から大学まで過ごし、

    政治、憲法の第一人者を持つ成蹊大の教授陣は、ほぼ印象がない。

    それどころか「何を勉強したのか?私たちの言葉は届かなかった」と嘆いている。

    こんな、政治家が長期政権を持つ日本の政治の仕組みは

    きっと間違っているのだろう。
    国民は既に危険な道程のトロッコに乗せられているのだ。
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    投稿日:2022.08.10

  • tokosan

    tokosan

    安倍晋三氏が2022年7月8日、参議院選挙応援演説の最中に銃撃され67歳で亡くなったのが衝撃的でかねてより気になっていた本書を読んでみる。父方の祖父、安倍寛氏の人物像や選挙区での慕われかたなど、チームの取材は緻密で初めて知ることばかり。それにしても晋三氏は子どもの頃から今に至るまで「何か」を期待する大人に囲まれ、難儀な人生だったろうな…と同情もしてしまう。(立派な葬儀も終えたのに国葬にするとかしないとかで誰かに何かを期待されているようだし)
    政治家として好きではなかったし、数々の疑惑はきちんと解明すべきであると思うが野蛮な犯行によって命を奪われる結末は許されない。今はただ静かに冥福を祈りたい。
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    投稿日:2022.07.21

  • raga-movie

    raga-movie

    安倍晋三という人物は悪人ではなく物分かりの良過ぎるぼんぼんであろう。彼が率いた長期政権での社会の凋落は彼に付随する利権に群がっていく企業や投資家そして自己愛に終始する為政者に元凶がある。権力を監視する事を諦めずメディアそして私たちが声をあげ続けよう。ちなみに我が家にはアベノマスクがまだ届いていない。続きを読む

    投稿日:2020.12.29

  • オギノ通り

    オギノ通り

    ★主張あふれるノンフィクション★安倍晋三首相が退陣を表明する直前に偶然読み始めた。政治に疎いので、父型の祖父・寛のことはまったく知らなかったが、なぜ父・晋太郎ではなく、母型の祖父・岸信介の話ばかり取り上げるのだろうと不思議に思っていた。

    寛はもちろん地元の名家ながら、戦争に反対しながら政治的な支えがないまま国政に進出。早くに亡くなったため、晋太郎もバックボーンの乏しく、下関で在日朝鮮人と交流を深めながら泥臭く地盤を築いたという。もちろん岸の娘との結婚はあるが、「寛の息子」というプライドがあったという。

    この2人に対して様々なエピソードを挙げつつ、晋三については何もないと繰り返し書く。薄っぺらさを示したいのだろうが、薄さを示すエピソードは容易ではない。だからか、ここにきて急に著者の主張ばかりが目立つようになる。

    それに晋三にとってみれば、父方だろうが母方だろうが関係ないうえ、会ったことのあい寛には親しみも薄いのは当然だろう。何が晋三の強さだったのかは政治ジャーナリズムという別の仕事かもしれないが、やはり空虚さの力の不思議さが募った。
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    投稿日:2020.11.20

  • frefre

    frefre

    このレビューはネタバレを含みます

    自民党、つまり現在の日本政治について理解するためにKindleにて読了。地に足のつかない、戦争経験もない三代目が、空理空論で政治を動かしてしまう。それが日本の政治制度(精神)のある種の必然的な帰結である、ということを、多くのインタビュー取材を踏まえて描いており、非常に勉強になった。それは日本社会の他の場面でも通用する気がする。次は同じ著者の『日本会議の正体』を読んでいる最中。また安倍晋三のもう一人の祖父・岸信介についても、一冊読みたい。

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    投稿日:2020.01.06

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