【感想】吉田茂-尊皇の政治家

原彬久 / 岩波新書
(10件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
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  • 歴史の岐路に立った宰相

    一国の宰相に求められる決断は、他の何よりも重い責務があるものと思う。
    世界史上、類を見ない大戦争の終焉を迎えた、敗戦国の宰相となった男は何を考え行動していたのか興味があった。

    吉田茂その人は日本史上、欠かさざるべき逸材であったことは本書を読まなくとも解りきっていることだが、
    その思想背景を知れば知るほど、なるほど歴史により育てられた人物であったことが良く解った。
    帝国主義瓦解の時代から米ソ冷戦に至るまでの間に外交官・政治家として生き抜いた男が持つ考えは、
    一重に日本という国を守るという意志から生まれでたものばかりと感じる。ひとりの国民として感服する思いがあった。
    国家存亡の際にあって、このような(国際)政治的バランス感覚を持った人間がトップに立ったことは、日本にとって幸運だったと言える。

    ★四つにしたのは、最後がやや駆け足だったからだ。反吉田体制における吉田の記述が乏しく、希薄な印象を受けたからである。とはいえ、本当は4.5くらいの気持ちなのだが……

    余談だが、鳩山一郎の(主に九条に関する改憲を標榜した)憲法調査会の下りと、吉田自身、九条はあくまで敗戦国としてその武力放棄を一時的に定義したのみという解釈は面白かった。
    半世紀以上前の政治家たちの考えと、現政権の目指すべきところと合致しているところがまた興味深い。やはり歴史は繋がっているということだ。

    極東国際軍事裁判にも国際政治学的に興味がある為、今後はそれら関連書籍にも手を伸ばしていきたい。とまれ、本書は万人に良く読まれることを勧められる教材だと思った次第。
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    投稿日:2016.02.10

ブクログレビュー

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  • Marco

    Marco

    個人的なパーソナリティとして吉田茂は好きになれないのですが、日本のためにしたことは大変素晴らしいと思っています。ただ、その「日本」の中に日本人はほぼ入っておらず「日本=天皇」という枠組みは譲れなかったのかなとは思っています。続きを読む

    投稿日:2021.12.21

  • qingxiu

    qingxiu

    岩波新書であるが、とても読みやすい本であった。原さんという人はとても筆力のある人だ。もっとも、最後の方の政党の入れ替わりになるとわけがわからなくなったが。本書でわかるのは、吉田がねっからの軍隊嫌いで尊皇主義者であったということである。戦後では不敬罪までつくろうとしていたのだから。それにしても吉田は不遜の人で、それは外国人だけでなく、戦後のマッカーサーたちとも互角にわたりあったことからわかる。だから、政党政治のこまごまちまちました裏工作がいやだったのだろう。続きを読む

    投稿日:2020.08.05

  • コロちゃん

    コロちゃん

     「吉田茂」といえば、日本人なら誰一人知らぬものもいない「大政治家」であるが、戦後日本において「長期の政権の総理大臣」と「傲岸不遜」というイメージ以外にはあまり知らなかったが、本書ではじめてその詳細な経歴を知ることができた。
     「吉田茂」は、1878年(明治11年)から1967年(昭和42年)の90年というながい生涯を生きるが、最後まで本書は飽きることなく読了できた。
     本書によると、決して「吉田茂」は民主的な政治家だったわけではない。戦前・戦中派「帝国主義者・膨張主義者」であったが、ただ「軍部に逆らっていた」ことが、戦後「実績」となったという。
     しかし、あの時代に「軍部に逆らう」ことができた国民は数少なかっただろうから、やはり相当の「変人」であったのだろう。
     そして「敗戦国の宰相」としてのマッカーサーとの関係である。ポツダム宣言の受諾という敗戦後の戦後政治を、「負けっぷり」よく進めた戦後政治は、「占領軍の手先」となったと見るべきなのか、「占領軍を手玉にとった」と評価すべきなのか。今から見ると、よくしのいだことは間違いがない。
     本書は、「吉田茂」を単に評価するだけではない。「天皇に対する吉田の絶対的帰依」や「再軍備」なども冷静に取り上げているが、そのトーンは客観的である。
     現在の日本において安倍政権は第一次の時とは違い「戦後レジームの総決算」を表立って取り上げてはいないが、今年の参議院選挙で自民党が勝利をおさめれば当然踏み込んで来るだろうことは間違いがないと思われる。
     安倍晋三の政治的志向方向は、本書で明らかにされている「吉田茂」の戦後世界から「普通の国」への脱却なのだろう。
     日本はいまだに「吉田茂」の敷いた「対米強調」「軽軍備」の世界から一歩も出ていないのだろう。
     本書は、「吉田茂」の政治的経歴を知ることができるとともに、「戦後政治」というものをよく知ることができる良書であると思う。
     しかし、「天皇退位論」について「吉田茂」は猛反対を貫いたとのことだが、「無責任」の風潮が蔓延した戦後社会を思うと、もう少し別の選択はなかったものかとの感想をも持った。
    続きを読む

    投稿日:2013.03.04

  • unzarist

    unzarist

    戦前は外交官として、戦後は総理大臣として国政を担った
    吉田茂を記した一冊。
    読みやすくまとまっており、当時の政治史を外観できる。
    2・26事件やハルノート、天皇による謝罪詔勅に対する
    吉田茂の関わり方はとても興味深い。続きを読む

    投稿日:2012.09.17

  • bax

    bax

    このレビューはネタバレを含みます

    [ 内容 ]
    戦後日本の出発期に首相・外相を務め、政治・外交の軌道を敷いた吉田茂。
    その講和・安保条約締結は、軽武装・経済第一主義の確立によって後の繁栄を招いたと評価されがちだが、果たしてそういえるか。
    著者は、彼の遺した書簡、公開された外交文書、関係者からの聞き取りを通して、天皇体制の徹底した擁護者という新しい吉田像を描き出す。

    [ 目次 ]
    第一章 人生草創――維新の激流に生る
    第二章 帝国主義を抱いて――外交官の軌跡
    第三章 体制の淵から――反軍部の旗幟
    第四章 敗戦国の宰相――瓦礫の底から
    第五章 歴史の岐に立つ――保守主義の貫徹
    第六章 講和・安保両条約締結に向けて――外交文書は語る
    第七章 権力の黄昏――政党政治からの逆襲
    エピローグ――いまに生きる「吉田茂」
    あとがき
    参考文献・一次資料

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    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

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    投稿日:2011.04.24

  • 雅斎

    雅斎

    戦後日本の占領体制は間接統治であった。吉田茂は、占領期及び講和独立期という戦後日本の方針を決定する時期に、首相を務めた人物である。したがって、戦後日本の行方は、少なからず吉田の手に委ねられていたということもできるだろう。

    本書は、吉田茂が戦前は外相の地位に就任することがなかった人物であることを示しながら、吉田が戦後政治の表舞台に出てどのような働きをしたのかについて描いている。いわば、吉田という人間の根底を、彼が日の目を浴びることの無かった時代に求めているとみなすこともできよう。そして、戦後日本の方針を決めた吉田の生涯を戦前期から抱いていた思想と絡めて描くことにより、吉田の思想が日本の占領期にもたらした功罪を示している。
    続きを読む

    投稿日:2010.07.17

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