【感想】生物はなぜ死ぬのか

小林武彦 / 講談社現代新書
(139件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
24
56
38
4
2
  • 始まりがあれば終わりがある。

    死は現在生きているものから見れば「終わり」だが、将来の世代にとっては新たな「始まり」だ。
    生命の誕生と多様性の獲得に、個体の死や種の絶滅といった「死」がいかに重要だったか。
    死も、進化が作った生物の仕組みで、選択されたものだ。

    面白いのは、"死ぬのは必然で壊さないと次が出ない"、"偶々にせよ生まれてきたのだから、次の世代のために死ななければならない"と言いながら、長寿のハダカデバネズミを真似ていかに長生きできるかも問うている所。
    "多様性のために死なねばならない"が結論じゃないんだな。

    我々はみな自分が死ぬことを知っているが、不可避の終わりを自覚している生物は人間以外にいない。
    ましてや死を恐れ、心配している生き物はいないこと、屠畜場に向かう牛や豚、運悪く車にはねられ虫の息の猫や狸でさえ、死について知りもしないのだということは、考えれば考えるほど無情を感じさせる。
    「ヒトは悲しみを共有する"感情の動物"であり、死にたくはないと思うもの」だが、体内での多発的なエントロピーとの局地戦に破れ、不可避的に倒れる運命にある。
    少しでも利他的になりたいが、未来ではなく現在を懸念し、公益より私益を気にかけてしまう。
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    投稿日:2022.01.31

  • 生物学者が書かれたモノで、少々私には難しかったのですが。。。

     生物はなぜ死ぬのか、その命題へのアプローチは、生物学者さんですから、かなり学術的でした。生物学については、高校の時少しかじったくらいですので、私には少々難解でありました。
     でも、ひょっとすると小林先生が言いたかったことは、この本の最後に出てくる、生物学を少し離れて考察したことだったのかもしれません。そしてAIについても言及されています。先生が問題にしたのは、AIが死なないということ。そんなアプローチは考えたこともなかったので、吃驚しました。確かにそうなのかもしれません。
     私には少々難しかったのですが、示唆に富んだ一冊でした。
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    投稿日:2022.10.02

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  • saihou 55

    saihou 55

    138億年前にビッグバンで宇宙が誕生し膨張を続けて48億年前に地球を含む太陽系の惑星ができる。太陽という恒星(自ら光を発する星)との程よい距離で水や生物の材料となる有機物があって程よい温度であることが条件で生物が発生する。遺伝物質RNAができてそれが自己複製して生物になる。最初細菌(バクテリア)やもっと小さいウイルスができ、それはDNAやRNAの遺伝物質とカプシド(殻)からなりリボソーム(遺伝情報の翻訳装置)を持っていないので無生物に分類され、宿主細胞のRNAを使ってタンパク質を合成する。生物と無生物の大きな違いは単独で存在でき、それ自身で増えることができるかどうかである。

    宇宙にはおよそ10の20乗個(1000億個の1000億倍)以上の太陽のように燃えている恒星がある。太陽系には8個の惑星があり、他に4400個程度の惑星がある。知的生命体の存在する惑星は銀河系の約1000億個の恒星のなかに10個程度とほんの僅かである。
    地球は生物にとって、新鮮さに満ちて全てが常に生まれ変わる(turn over/生まれ変わり)のが最大の魅力である。絶滅による進化が新しい生き物を作る。死に方にはアクシデントによるのと寿命によるのと二通りがある。ヒトはアクシデントもあるが、最終的には寿命という「老化」の過程で死ぬ、老化は細胞レベルで起こる不可逆的生理現象、細胞の機能が徐々に低下し分裂しなくなりやがて死に至る。大元の原因は免疫細胞の老化による免疫力の低下や組織の細胞の機能不全によるもの。
    死ぬ理由は食料や生活空間の不足と「多様性」のため。細胞分裂でもっとも重要なイベントはDNAの複製であり、有性生殖が多様性を生み出すのに有効だったのでこの仕組みを持つ生物が選択されて生き残ってきた。配偶子形成は単に卵や精子を作るための機構ではなく染色体の中身までをシャッフルして可能な限りの多様性を生み出すためのプロセス。子供のほうが親よりも多様性に満ちており生物界においてはより価値がある。生物はそのような多様性重視のコンセプトで生き抜いてきた。せっかく有性生殖で作った遺伝的な多様性をこそ損なわない教育も必要である。多様性イコール個性である。
    生き物が生まれるのは偶然だが死ぬのは必然、利己的に生まれ公共的に死ぬ、死は生命の連続性を維持する原動力、次の世代のためには死ななければならない。
    死ぬ人間に対して、死なないAIが究極まで発達すると「AIは自分で自分を殺す(破壊する)かもしれない、人の存在を守るために」ということも考えられる。

    人類という生物はDNAに組み込まれた進化の原理に沿ってその原単位である遺伝子の意思で生まれて・生きて・死んでいく。
    時空の極限(無限)まで思考する「物理学」はミクロの遺伝子「生物学」と連環している。かつて読んだ「分子生物学」の動的平衡論の話や「量子力学」のゼロポイント・フィールド仮説の超自我意識・宇宙意識の話にも繋がる。
    従来、学問は分野を細分化して専門特化することで深めたが、時空や全体を視野する拡がりを失ってきた。自然科学と人文科学も同様で、人間社会の歴史、個人の思いや感情も宇宙次元の全体系のなかの必然的な一場面なのであろう。
    森羅万象すべてが「曼荼羅」のように繋がっている。
    哲学的・宗教的自問自答の世界にはまり込む。
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    投稿日:2024.03.04

  • Cazoo

    Cazoo

    このレビューはネタバレを含みます

    漠然と死ぬって怖いなとか、まだ死ぬには早いな、もったいないなって考えたことがあり、題名にも惹かれたので読んでみた。

    この本によると、生き物が死ななければいけない理由は2つあり、①食料や生活空間の不足、②多様性のため。前者は結果論であり、死ななければならない根本的な理由ではない。
    生き物の激しく変化する環境の中で生き残る仕組みは「変化と選択」であり、多様性を確保するためにプログラムされている。
    実際に、生物的な歴史の中で他の生き物が環境に適応し、進化してきたように、死に対してショックを受けるという人の感情も変化と選択の進化の過程で獲得してきたものである。人の進化の過程で、自分だけが生き残ればいいという「利己的な能力」より、「集団や全体を考える能力」の方が重要であり、選択されてきた。

    自分1人だけではもちろん生きていけない。学校でもスーパーでも、どこに行っても誰かがいることで世の中が成り立っている。そう考えると、もちろん自分の人生は重要にするけど、同時に他の人の人生も豊かにできるのであれば自分の人生はもっと素晴らしくなるんじゃないかなと思った。それが集団や全体を構成する1人の役目なのかと。

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    投稿日:2024.02.17

  • けよし

    けよし

     語りかけるように説明されています。まずはビッグバンから、えぇ!?そこからですか?、もしかして、小林先生、お子様や学生さんに説教するとき、ビッグバンから入るタイプですか?

     といういうわけで、ビッグバンから生命(生物)誕生、生物の進化について説明されます。そこでのキーワドの一つが「ターンオーバー」作っては分解して造り変えるリサイクル、もうひとつが「選択と変化」と「多様性」です。特に強調されていたのが、進化を加速するものとしての「絶滅」です。恐竜の時代から哺乳類の時代へ移れたのも絶滅のおかげ、という訳です。
     そしていよいよい「生物はどのように死ぬのか」「ヒトはどのように死ぬのか」とすすみ、最終章で「生物はなぜ死ぬのか」と、まとめていらっしゃいました。

     私が面白かったのは、「どのように」のところですね。いろいろと知らないことを教えていただき、勉強になりました。
     私が特に面白かったのが、テロメア短縮で老化スイッチON!なんだけど高齢者テロメアは極端に短い訳じゃなくて個体レベルではまだよく分らん、そうなんですね勘違いしてました。
     そして「アポトーシス」に関わるお話も興味深かったです。細胞死しない老化残留細胞は、炎症性サイトカインまき散らして、大暴れするそうです。細胞死を邪魔しているのが、FOXO4というタンパク質。そんでもって、そいつを邪魔すると、マウスの毛がフサフサとか。

      テロメア合成酵素も大切、酸化・DNA損傷を避けることも大切、そしてアポトーシスも大切なんでね「老化」には。
     私の場合、自分が死ぬという意識が希薄なのか、「死」よりは「老化」視点で読んじゃったみたいです。
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    投稿日:2024.02.16

  • sor

    sor

    COURRIER JAPON
    著名人の本棚
    橋爪大三郎さんの推薦図書より

    「生き物は利己的に偶然生まれ、公共的に死んでいくのです。」

    生物学の観点で語ると、次の世代の変化の為に死ぬ(死ななければならない)となれば、死は否定的なものではなく、祝祭のようなものかもしれない。
    新たな「始まり」との言葉は納得である。

    消費と競争ばかりの資本主義社会を生きる今、ハダカデバネズミのスローライフな生態と、腹八分目が寿命を延ばす話はなかなかに示唆的だった。
    (医学が進歩して寿命は延びたかのように見えるが、実は寿命を縮めるような強ストレス社会になってはいないだろうか。)

    人間は社会的な生き物であるので、子供を産んでいようが産んでいなかろうが、社会で子育てをしていこうという話に繋がるのもよかった。

    最後の最後に、情緒面での死についての考察で、人間の持つ「共感力」こそが社会をまとめる骨格になる、という指摘も腑に落ちた。

    なぜ、死は恐れられ否定的なものと捉えられているのか。なぜ、死は悲しいのか。
    個体としての絶命以上に、社会的な死=絆の喪失がある。
    これは人間が人間である由縁なのだろう。
    死の二面性が興味深い。
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    投稿日:2024.02.05

  • まっちんぐ町子

    まっちんぐ町子

    自然の中で老いがある生物がほんの一部しかないことに驚いた。細胞の老いと個体しての老いは違うが、せめて細胞だけは長く分裂してもらうためにも努力したい。読むのが難しかった!

    投稿日:2024.01.16

  • MiuraKatsu

    MiuraKatsu

    「生き物は利己的に偶然生まれて、公共的に死んでいく」という言葉が印象的。

    生物学的な専門の話は少し難解だけど、そこを読み飛ばしても充分読み応えある。

    も一回読み直したい。

    投稿日:2024.01.14

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