【感想】グッドラック 戦闘妖精・雪風

神林長平 / ハヤカワ文庫JA
(98件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
37
41
12
2
0
  • 戦術から戦略へ

    前作の衝撃のラストで植物状態になった主人公の零が雪風との「共闘」によって覚醒する第一章は、読んでいてブッカー少佐以上に喜んだ。そこで目覚めた零が語るジャム地球侵攻の戦略変化。対ジャム戦が新たなステージに突入したことを知らしめるすばらしいオープニングだ。そしてその変化は零と雪風との関係性にも影を落とす。それまで自分の一部だと思っていた雪風が理解できない畏怖すべき存在になったと思い、うまくコミュニケートできないことに悩む零。(自分が変わったことに気付かないだけなのですが)そこに登場する女性軍医エディス。この子がいい味出してる。まるで零を挟んでの雪風との三角関係(笑)。かなりニヤけます。

    そしてここからが本作のキモなのですが復帰した零にブッカー少佐が出した命令がエディスとともに特殊戦の新たなる対ジャム戦術・戦略考察を行うこと。つまりジャムをプロファクティングしろという指令を受けるのだ。おいおいマジかよとまさかの展開。なので戦闘シーンはかなり少なめ。じゃあ面白くないかというとそんなことはない。むしろ想像力を広げに広げてこちらの知的好奇心をくすぐる話になるので、零たちがどうやって意思疎通が図れない異星体ジャムをプロファクティングするのか?そしてその結果、特殊戦はどのような対ジャム戦術・戦略考察を行うことになるのか?などなど先が気になって気になって仕方なく読むのをやめられません。

    さすが神林長平、単なる続編ではなくこんな話を書いてしまうなんて。。。前作が連作短編をつなげて隠し絵を完成させるような戦術的な小説だとすれば、本作はジャムとは何かを深化させ野太い一本の考察に落とし込むという戦略的な思弁SF小説になっている。

    いったいこのシリーズはどこまで進化するのだろう。
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    投稿日:2014.04.11

  • 前作と比べ機械の性能面以上に心理面に重点が置かれている感じがする。

    作者がおそらくADHDやアスペルガーといった発達障害の存在を知ったのだろう。零の孤立的な性格がより発展したような、発達障害をイメージしたと思われる人物が二人も話の中に出てくる。
    前作は空中戦が主流だったが、近作は心理戦が主流となっている。
    自分としてはこちらのほうが好みである。
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    投稿日:2013.11.14

  • 「自己」とは? 人が人たり得るのは?

    零と雪風が“覚醒”。
    人類のアイデンティティーを問うた前作からさらに進み,「自己」とは何かという禅問答が今回のテーマか。
    状況が大きく動く,異星体ジャムとの戦闘の場面は,雪風との駆け引きも相まって緊張感満点で,思わず息を止めて読み進めた。
    得体の知れない異星体ジャム・戦闘知性体(人工知能)の雪風・人間 深井零大尉というグラデーションを通して,
    「自己」とは何か,人が人たり得るのはなぜか,を考えさせる展開に呻る。

    あと,雪風かわいい(ミギーかわいい的に)。
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    投稿日:2015.03.04

  • 「戦闘妖精・雪風」の続編

    一作目のラストでてっきり死んだと思っていたブッカー少佐だが、パイロットは死亡して頸の怪我はしたものの生きていて、今回は哲学談義を繰り出す。カウンセラーのフォス大尉とのジェムの正体を巡る議論のあたりは読む人を選ぶかも。ジェムの正体を巡る話が増えれば、その分雪風の戦闘描写が減る。今巻はジェムの正体の謎解きが中心になっている。

    一方、植物状態になっていた深井大尉は復活後は雪風とのコンビで一種の複合生命体のような状態とフォス大尉に評される。
    さらに、フォス大尉は謎の異星知性体ジャムをプロファイリングする。
    一作目で登場した光学異性体のジャム人間は、FAFに潜入し幽霊部隊となって破壊工作を試みる。このあたりはゾンビ映画っぽい雰囲気。そしてそれを手引きしたのが情報部のロンバート大佐。

    第一作では相互理解不能な状態から、コピー人間によるコミュニケーション、今巻では直接対話?、ついには人類からの裏切り者が登場する。

    ここで引かれたのでは続きを読まねばなるまい。
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    投稿日:2015.09.05

  • 思想的な視点が目立つ作品

    近作は空中戦の機動だどうなっているのかといった楽しみもあるけど、人類の敵、ジャムとの心理戦、そして、フェアリイ空軍の中のそれぞれの思惑で展開がめまぐるしく変わる後半は読み応えがある。疑心暗鬼ってこういうときにおきるんだよな・・・と思ってしまう部分もあり、心理的な描写はSFというよりもミステリーに近いかも。

    いずれにしてもページ数の多い作品なので読み続けるのに人によっては根気が必要になりますね。頭も使うし、読み終わるとホッとする作品。
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    投稿日:2014.01.13

  • 珠玉の一冊。

     戦闘妖精・雪風改の続編です。
     戦闘機“雪風”に依存していた主人公の深井零が、自分の未熟さと向き合い、雪風との理想の関係を模索していく物語です。
     前半で新キャラの精神科医エディス・フォスが登場し、彼女によって読み手の関心は深井零をはじめとする特殊戦隊員、異星体”ジャム”、雪風の三者の心と、三者のコミュニケーション手段についてフォーカスされていきます。

     そしてハイライトは後半の第七章『戦意再考』にあります。
     雪風と零(と桂木少尉)はジャムと遭遇し、生きるか死ぬかの極限状態で戦闘が始まります。この戦闘では、零は物理的にはジャムと戦いますが、心理的には零は雪風と“戦い”ます。そのため、同じシーンで二重の戦いが繰り広げられており、緊張感がすさまじいです。
     ジャムに負けないためには、雪風と零の協力が必須ですが、雪風も零も「お前を信用しているから任せる」だとか「俺に考えがあるから任せろ」だとか、そういう野暮ったいことは一言も言いませんし、言う時間もありません。
     しかし、彼らは長い言葉を交わす代わりに、それぞれの信念に従って行動を選択することでコミュニケーションを継続していきます。コクピット内の限られた動作と、ディスプレイ上の短いテキストの表示だけで、これほどまでに深く強く信頼関係を描き出せることができるのかと、ただただ感涙でした。
     桂木少尉はもちろんジャムさえも、零と雪風の信頼を描くために用意された舞台装置にすぎないのではないかと思ってしまうくらい演出が見事でした。
     零と雪風にこれほどまでに感情移入してしまうのは、そこに、エディスが言うように人間の普遍的な感情を見るからだと思います。
     
     前作から大きく成長した零と、周囲の人たちの思いやりにあふれたラストに勇気をもらいました。
     この作品以上に、『伝わる』とは何かについて考えさせられる作品はないと思います。
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    投稿日:2014.04.04

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ブクログレビュー

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  • 橘

    2作目のグッドラックから読んでしまったけど面白かったです。しかし1作目も読まねばバーガディシュ少尉の件があまりわからないなぁ。
    異星人との戦闘機戦SFだろうけど、人間とは何かみたいな哲学的な思索が始終展開されていて読み応えがあります。
    アニメは完走していたけれど、深井大尉はジメジメしてないし、ブッカー少佐は零への執着度が高くないし、クーリィ准将は冷徹な司令官です。桂城少尉、アニメには居なかった気がする…こんなに重要なのに。
    「人間ワカンネ」と言い出すジャムに、「人間は必要ない」というコンピュータ群、「お互いだけでよい」みたいな雪風と零。
    道具を身体の一部のように使える…を超えている深井大尉と雪風の関係だけれど、戦闘知性体も深井大尉も人間には理解できない感覚で思考で。周りが大変。

    それにしても、コンピュータたちが信頼出来なくてすごい。各部門や部隊のコンピュータがすべて異なる意識持っているし、戦闘知性体である雪風は独自に判断し始めるので…末恐ろしかった。
    深井大尉も少しずつ自分で考えるようになりました…まだかなり、どうでも良さそうだけれど。続きも楽しみです。
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    投稿日:2023.09.18

  • isutabi

    isutabi

    ★I have control / I wish you luck ...(p.231)
    凄い小説です。これまで読んだ中でも有数かと/こう言っては愛読者の皆さんや、もちろん著者にも怒られてしまうかもしれないけど、この作品はSFのかたちをした純文学とも言えそうな気もします/人間とは/自己とは/知性とは/感情とは/生命とは/生と死とは/自と他とは/関係とは/言葉とは/異種=まったく異なる意思とのコミュニケーションとは/戦いとは/現実とは/深く深く螺旋を描きながら潜っていきすぎぼくには混沌となる/思考とディスカッションと戦闘/これで物語に破綻が発生しないのだから/好きな小説とかゆたかな小説とか楽しい小説とか言うのとはべつに凄い小説ジャンルで凄い/この小説と較べるとほとんどの小説は単純と言える/「である」を使わない文章は好みです。

    【一行目】いま現在、地球がジャムという異星体に侵略されつつあるということを肌身で感じている人間は、いったいどのくらい存在するだろう?

    【FAF特殊戦から来た手紙】ブッカーは言う。ジャムに敵は人間だと認識させねばならない。・・・でもそうすると人間が危険になるような気もするけど?/雪風にフラれた零は未だ昏睡中。

    【ショック・ウエーブ】零は目覚めない/ブッカーは試行錯誤する/新任のヤガシラ少尉/攻撃部隊のシルフの不調/無人の雪風はあり得ない行動を取る。

    【戦士の休暇】いったん退役して地球に戻る零/ブッカーはナビゲーターをリン・ジャクスンに依頼する。《精神がクラッシュしないことを祈っている》p.130/地球ではジャムはファンタシィだとリンは言う/リンは言う、あなたは「フェアリイ星人」だと/リンだけは「地球人」だった。

    【戦闘復帰】《これは戦争ではない、生存競争だ。》p.159。相手はジャム? 地球? それとも雪風?/《初めておまえと雪風は対等な関係になった》p.166/零のメンタルケアを担当するフォス大尉はジャムの存在に懐疑的でFAFの共同幻想かもしれないと考えている/フォス大尉は雪風の後部座席に乗る。

    【戦闘意識】零は「食事会」への出席を命令される/雪風も勝手にパーティーへ参加する/《しいてたとえるなら、雪風は野生動物だ。》p.233。その恐ろしさ。

    【戦略偵察・第一段階】雪風後部座席の電子戦闘要員として情報軍のロンバートが送り込んでくるカツラギ少尉/ブッカーはジャムとすら情報交換してもいいと考えている/ジャムをプロファクティングする/零は変わりつつある/フォス大尉いわく《そんな希薄な自己では、雪風にも通用しない。》p.302/レイトフォス大尉は反発しあいながらすこしずつ互いの理解を深めていく/雪風もプロファクティングに興味を抱く。

    【戦略偵察・第二段階】《雪風はジャムでも人間でもない――》p.348/雪風、零、ブッカー、特殊戦、FAF、ジャム、何が脅威で何が味方か/カツラギ少尉とともに出撃/遭遇したジャムは雪風に、零にコミュニケーションを求める。

    【戦意再考】雪風とジャムの駆け引き/零は雪風にすべてを任せる《thanks》/そして零は消滅の刹那ジャムと交信する/《二つの、異なる世界認識用の情報処理システムを持っていて、互いにそれをサブシステムとして使うことができる、新種の複合生命体。》p.479/眼下の敵。

    【グッドラック】再教育部隊に集う死者たち/クーリィ准将は思う《ジャムはどこに存在するのか、なにがジャムなのか、どこからどこまでがジャムなのか》p.538/ジャムは神か/ジャムは量子論的存在か/ロンバートとジャムは本格的な攻勢をかける/特殊戦、ジャム、FAF三つ巴の戦い/零と雪風はフォスに見送られながら出撃する。

    ================================

    ■簡単なメモ(★は重要語)

    【愛】《あなたと雪風、特殊戦の戦闘機械知性体とその人間たち、それを結びつけているのは、愛する、という能力なのよ》グッドラックp.629
    【アドミラル56】日本の航空母艦。
    【天田守少尉】FAFの除雪隊員。マース勲章を叙勲し困惑する。
    【アレヴィ博士】空軍戦闘心理研究所。

    【エーコ中尉】特殊戦戦隊機整備担当責任者。
    【エディス・フォス大尉】→フォス大尉
    【エメリー中尉】エイヴァ・エメリー。オドンネル大尉の実質的な個人秘書で恋人でもあるようだ。

    【恐れ】《自分が恐れているのはジャムではなく自分なのではないか。》p.117
    【オドンネル大尉】ヒュー・オドンネル。ファーンⅡのテストパイロット。陽気で気さくなタイプ。個人秘書のエイヴァ・エメリーは恋人でフライト前の会話で死亡フラグを立ててしまう。

    【ガーゴイル中尉】TAB-15所属。メイル中尉の後任の部隊長。
    【カール・グノー大佐】システム軍団・技術開発センター所属。遠隔操縦機を開発した。《ジャムとの戦いに人間など必要ない。機械のほうが優秀だ》〈改〉p.76。
    【カツラギ少尉】桂城彰(カツラギ・アキラ)。バーガディシュの後釜として情報軍のロンバート大佐が雪風の電子戦闘要員候補として送り込んできた、いわば公然のスパイ。フォス大尉は簡単なプロファクティングを行いカツラギ少尉は過去の零とそっくりなタイプだと言う。《桂城少尉は、私物としての鏡は持っていないだろう。》グッドラックp.332
    【カルマン少佐】再教育部隊の指揮官。
    【関係】消滅の危機に瀕した零はジャムと交信する。《おれは雪風に殺されるのだ、おまえにではない。もはやおまえのことなど、どうでもいい。おれと雪風の間に割り込むんじゃない、さっさと消えろ。これは、おれと雪風との関係だ。邪魔されてたまるか。おれはいま、雪風との関係を完成させるために忙しい。邪魔をするな。おれの生死は、おれのものだ。だれにも渡さん。》グッドラックp.451。《「戦闘機とパイロットではなく、友人でも仲間でもない。同僚や戦友でもなく、敵や味方でもないとすると、なんだ」/「簡単なこと。自分自身よ」》グッドラックp.479

    【機械】結局のところ人間もどんな生物もメカではあるわけで、その境界は判別しにくいしできないのかもしれません。
    【基地】六つある。シルヴァン。ブラウニイ。トロル。サイレーン。ヴァルキア。フェアリイ。全軍の総合参謀本部はフェアリイ基地にあり規模も最も大きい。
    【儀礼兵】戦死者の顔をしたアンドロイドで編成された儀式用の人形たち。

    【クーリィ准将★】リディア・クーリィ。特殊戦の副司令。鬼のような婆さんだとか。軍に入る前は金融畑の人間で一流のディーラーをめざしていた。《あの准将こそが特殊戦をこのような部隊にしたのだ、彼女の性格意識を反映した戦隊なのだ、彼女にとって特殊戦という存在は、上から与えられた管理すべき組織などではなく、自分のもの、自分の存在の一部、自分そのものなのだろう。それを使って、殴られたら殴り返す。それだけのこと。殴りかかってくる相手がジャムだろうとだれであろうと、そんなのは関係ない。それが正義というものだと准将は信じている。》グッドラックp.416。《相手に理解できるような行動をとってはならない。》グッドラックp.550。《年をとって、若い時分の自分のばかな真似を笑ったり後悔したりしながら振り返るのも、いいものよ。あなたにもそうしてほしい。生命を賭けるなどという真似はしないほうがいい。》グッドラックp.559

    【凍った眼】空間受動レーダー。ジャムの戦闘機がさまざまな手段で透明化するのに対応した。
    【権藤大尉】天田守少尉の上官。

    【再教育部隊】ジャムに撃墜されたパイロットたちを集めもうそうならないよう再教育を施すための部隊。実際はジャムに取り込まれた可能性の高い人間を一か所に集めようという意図がある。ロンバートが主導する。なぜかバーガディシュやランコムが登録されている。
    【サミア大尉】特殊戦十三番機パイロット。ブッカーを後部座席に載せFRX00機操縦中転送された雪風の機動に耐えられず即死。

    【死】《生か死か、ではなく、雪風かジャムか、そのどちらをとるか、が自分にとって重要なことだったからだ。》グッドラックp.462
    【ジェイムズ・ブッカー少佐】→ブッカー少佐
    【シェーナー大将】戦術空軍のトップで総司令官。
    【死に様】ブッカー《なぜ生き方ではなく、死に様にこだわるんだ? 死に様はそう思いどおりにはいかんぞ、零。人知を超えた要素が入り込む。しかも、死んでしまってからでは、納得するもないだろう》グッドラックp.163
    【ジャミーズ】ロンバートがそう名付けた。共通用語になるかどうかは不明。機械戦闘体に付属する有機物のパーツにようやく関心を抱いたジャムにより作られた人間。基本的には元の人間がおりその光学異性体コピー。すでにFAFや地球に送られていると零やベッカーは考えている。
    【ジャム★】異星体。三十年前「通路」を通り先制攻撃を仕掛けてきた。どういう存在なのかとか侵攻の目的とか何もわかっていない。本気を出してはいないようにも思われる。というより、あえて一進一退を演じているようにも見える。なんとなく、地球側をフェアリイに誘い込み地球の兵器=戦闘用コンピュータを進化させようとしているようにも見える。あるいは人類の非人間化が目的のようにも見える。あるいは人間など見ていないように見える。一にして全、全にして一というような存在に見える。《ジャムは人間の本質を消し飛ばしてしまうと。》〈改〉p.303。《ジャムにとっては機械知性体のほうが人間よりもリアルな存在に違いない。》グッドラックp.209。《あれは影で、実体はおれ自身かもしれない。》グッドラックp.364。《ジャムというのは、集団的な存在ではないんだ。》グッドラックp.482
    【情報化】《真偽取り混ぜた膨大な情報は物事をあいまいにし、あいまいさは、不信を生じさせる。そう、現代人は信頼ではなく不信を物事の判断基準にしている。情報量が増大するにしたがってその伝達内容の信頼性は低下するという物理法則のまはまに、人間同士の信頼関係も揺らいでいるのだ。》グッドラックp.11。《『少佐、あなたはまるで、ジャムとは神のような存在だ、それが実在するかどうかを考えなくてはいけない、そう言っているようですか?』/『まさに、そういうことになるだろうな』》グッドラックp.543
    【シルフィード】FAFの戦闘機。双発。高価で数が少ないが現在量産型を開発中。イメージ的には実在の戦闘機F-15 イーグルに近いのかと。エンジンはフェニックス。
    【信頼】《そう、現代人は信頼ではなく不信を物事の判断基準にしている。》グッドラックp.11

    【スーパーシルフ★】シルフィードのうち十三機は戦術偵察用に改造・運用されており「スーパーシルフ」と呼ばれることもある。必ず戻ってくるという任務のための強力な火器を持つ。電子頭脳を強化された空飛ぶコンピュータというべきものであってフェアリイ基地地下深くに設置されている戦略コンピュータや戦術コンピュータとダイレクトに繋がっておりスーパーコンピュータの端末とも言えそうだ。すべて特殊戦第五飛行戦隊に配属されている。後部座席に電子戦オペレータが搭乗する。エンジンは最終的にはフェニックス・マークⅪ。

    【生】《自分が生きているのがわかるというのは、たいしたことじゃないか。それ以上のどんな、確かなものを望めというんだ?》グッドラックp.458

    【戦い】《戦いに理屈はいらない、零は思った。他人にはなぜそれがわからないのだろう。》〈改〉p.119

    【チュー少尉】ムンク大尉の相棒。

    【通路】異星体ジャムの地球侵略用通路。半径五百メートル。紡錘形をしており最大直径三キロ、高さ十キロ。南極点から千キロ、西経およそ百七十度、ロス氷棚の一点にある。三十年前のジャムの先制攻撃によって人類は初めてその存在を知った。

    【テストパイロット】《他人とうまくやっていけない人間はテストパイロットにはなれない。》グッドラックp.169
    【電子戦闘要員】特殊戦の機体の後部座席オペレータ。閉鎖的空間で戦闘機の機動に耐えつつ膨大な情報処理をしなければならない。ある意味パイロット以上の激務。

    【特殊戦★】特殊戦第五飛行戦隊、あるいは「SAF」、通称「ブーメラン戦隊」。零の所属する部隊。スーパーシルフ全機が配備される。形の上では一部隊だが独立した司令部を持ち軍団レベルの運用がなされる。他の部隊に一~二機ついてゆき戦闘情報を収集する。その任務はたとえ味方機が全滅したとしても戦闘には直接参加せず情報を収集し必ず帰投すること。パイロットには鉄の意志ないしは人間性の欠如が必要で「なにかの手違いで人間になってしまった機械」という人格の者が選ばれている。当然他の部隊のパイロットからは嫌われており「死神」と呼ばれたりもする。特殊戦の戦闘機は十三機、最後の晩餐。一番機「雪風」に零(元は三番機だった)。二番機「カーミラ」はズボルフスキー中尉。三番機「チュンヤン(春燕)」はタン中尉。四番機「ズーク」。六番機「ミンクス」。七番機「ランヴァボン」はブリューイ中尉。十一番機「ガッターレ」はプッツァー少尉。十三番機がサミア→ヤガシラ→無人機「レイフ」。
    【トマホーク・ジョン】航空電子工学(アビオニクス)の天才。バンシーの異変を零とともに調査することになった。零は会った瞬間彼を戦士として認め握手をした。インディアン。心臓はプルトニウム238の熱で動いているので日本には入国できなかった。《そう、祖父は口ぐせのように言ってた、みんなで一緒に食べよう、一人だけ腹をいっぱいにするやつは仲間じゃないってね。》〈改〉p.182。《零、あなたはいつまでもブーメラン戦士ではいられないだろう。氷のハートはいつか融ける》〈改〉p.192。《ぼくは・・・・・・人間だよな》〈改〉p.196

    【ナイト】カール・グノー大佐のチームが開発した小型無人の格闘戦闘機。遠隔操縦する。格闘戦=旋回性能はシルフィードを上回る。「マクロス」の「ゴースト」に近いイメージかと。
    【南雲】アドミラル56の艦長。

    【人間】《人間に仕掛けられた戦争だからな。すべてを機械に代理させるわけにはいかんだろう》〈改〉p.97。《人間には予備の人生はないんだ》グッドラックp.271。《ヒトは群れて生きる生き物だ。組織という群れが危うくなるというのは、即、個人の生命が危うくなるということであって、それはヒトが誕生したときからそうだったに違いない。》グッドラックp.357。というか群れて生きるようになって初めてヒトが誕生したということかもしれまへんね。

    【バーガディシュ少尉】零のフライトオフィサ。後部座席に乗る相棒。頼りになるが地上では素っ気なく生きている死体のようだと零は思うが自分も同じだということも意識はしている。
    【パイロット】→特殊戦
    【バルーム】特殊戦の軍医。冷蔵薬品庫にビールを常備している。
    【バンシー】空中飛行基地。シルフィードの部隊を搭載し原子力と遠心力で飛ぶ。これまで一度も地上に降りたことがないし降りる機能もない。二艦あったがバンシーⅣはジャムにやられ今はバンシーⅢのみ残っている。

    【ヒカラチア】プーメラン戦隊の女性オペレータ。
    【ピボット大尉】特殊戦の情報分析担当。

    【ファーン】単座の格闘戦闘機。
    【ファーンⅡ】ファーンを高性能にし無人化を念頭に開発中。
    【プーメラン戦隊】→特殊戦
    【フェアリイ★】「通路」が繋がっていた先の惑星。ジャムの母星かどうかたか、全天のどこにあるのかなどいっさい不明だが現在の主戦場。ジャムによって戦場として選ばれ地球側がここに呼び込まれたような雰囲気もある。太陽は連星。原生恐竜とかいるらしい。もしかしたらジャムはこういった「戦場」をいくつも持っていて複数の戦争をしているのかもしれない。
    【フェアリイ基地】惑星フェアリイにある地球の基地のうち最大で中心。地下大洞窟の底にビルが林立する都市。
    【フォス大尉★】エディス・フォス大尉。零のリハビリプログラムの精神面のケアを担当している医師。女性。若く実戦の経験値が低い。元はシステム軍団のテストパイロットたちの精神的ケアを担当していた。《関係ないでは済まされない。あなたの心は、あなた自身のものなのよ。関係ないなどというのは、それを放棄することだわ。そんな希薄な自己では、雪風にも通用しない。》グッドラックp.302。《あなたが、わたしを、必要としている?》グッドラックp.303。零いわく《特殊戦は実戦部隊だ。結果だけがすべてなんだ。》《役に立つ結果を期待している。》《これはテストだ、などというきみの意識は、甘いとしかいいようがない。》《現実から逃げるなよ、エディス》p.305
    【深井零】→零
    【複合生命体】フォス大尉の造語。人間と機械戦闘知性が互いに独立しつつも利用し合えるような存在となることか。
    【ブッカー少佐★】ジェイムズ・ブッカー。零の唯一の友人。顔に切り傷があり凄味がある。零よりも日本通で雪風の機体に書かれた「雪風」という文字は少佐の手になる。元はパイロット。プーメラン作りの趣味がある。いろんな雑学を持っている。《ジェイムズ・ブッカー少佐は、一言でいうならば、恐れを知っている男だった。》〈改〉p.57
    【ブラッディ・ロード】フェアリイの太陽は連星で一方からもう一方に向けて吹き出すガスが赤く、ブラッディ・ロードど呼ばれている。
    【フリップナイト・システム】→ナイト
    【プロファクティング】フォス大尉によると、心身負荷強度分析法などから理論的に導き出された行動心理予測手段の一つ。プロファイリングとは異なる。

    【ポラック】チャン・ポラック。国際弁護士。《ポラックは地球の幻想で動いている男だよ。》グッドラックp.126

    【マース勲章】最高位の勲章。
    【マーニー】TAB-14の看護師。

    【ミュレル】ガレ・ミュレル。特殊戦の食堂のシェフ。コック長。

    【ムンク大尉】シルフィードのパイロット。

    【メイル中尉】ギャビン・メイル。505攻撃部隊の隊長。ヤガシラの元上司。扱いにくかったヤガシラを特殊戦が引き抜いてくれてせいせいしている。《なぜ自分がここにいなければならないのだ?》グッドラックp.93

    【ヤガシラ少尉】矢頭。十三番機のパイロットとしてサミア大尉の後任。元505攻撃部隊の優秀なパイロットだったが自分一人で戦っているようなところがありチームプレイができなかった。零のことを気にしている。ということは人間性が残っているわけで特殊戦には向かないかもしれない。
    【ヤザワ少佐】TAB-14所属。

    【雪風★】零の愛機のパーソナルネーム。特殊戦三番機。スーパーシルフ。最後の方では地球の空も飛べるエンジン、フェニックスマークⅪを搭載。次第に人間を必要としない兵器に近づいていく。《片想いだ。雪風はもはや独立した意識体になりつつある。いつかふられるぞ》〈改〉p.272。《おれが言いたいのは、零、いつの日か、雪風がおまえの、人間の、敵になるかもしれないということだ》〈改〉p.273

    【ライトゥーム中将】ギブリール・ライトゥーム。FAFフェアリイ基地戦術戦闘航空軍団司令。形式上のボス。女に手が早い。上層部の人間らしくプライドは高い。《これまでも特殊戦のわがままは精いっぱい実現させてきた。わたしの才覚でだ。それを忘れるな、クーリィ准将。》グッドラックp.425
    【ランコム少尉】ジョナサン・ランコム。TAB-15所属。雪風に殺された。ジャムだったと思われる。
    【ランダー】アンディ・ランダー。アメリカのフリーコラムニスト、軍事評論家、ロビイスト、兼作家。偏向的な文章を書く。「宇宙大作戦」のカーク船長っぽいかも。

    【理性】野生動物はきわめて理性的な存在だと思います。生と死の狭間では理性的でないと生存を続けられない。ブーメラン戦隊のパイロットたちもまた理性的。で、理性的なことは一般人類にとっては非人間的なのでしょう。だから疎ましがられる。これもまた動物=人間そのものではあるのですが。まあ、ブーメラン戦隊の連中はそれすら理性的にスルーするようですが。
    【リン・ジャクスン】対ジャム戦史を著した。『ジ・インベーダー』というのがそれかもしれない。かなり皮肉な見方をしているようだ。《異星体ジャムも結局のところ、一隣国の仲間にすぎなかったのだといえる。》〈改〉p.138
    【リンネベルグ少将】FAF上層部の一人。情報軍のトップか。ロンバートと行動を黙認している。というか推し進めている。

    【零★】主人公。深井零。ブーメラン戦隊所属で三番機雪風のパイロット。少尉→中尉→大尉。《地球は苦い思い出を溜めた大きな水球でしかない》〈改〉p.36。《おれは性能の悪いやつは嫌いだ。人間も機械もだ。》〈改〉p.38。《雪風を狙うものはすべて敵だ。おれは雪風以外は信じない。》〈改〉p.171。ジェイムズ・ブッカー少佐が戦争と人間性についてや、戦争が人間のものであるかどうかを考えるが、零は自分が人間的であるのか非人間的であるのかよりも雪風にとって自分が必要なパーツ(できれば対等なパートナー)であるかどうかを重視しているように見える。
    【レイフ】特殊戦十三番機として補充された無人機の愛称。「知恵の狼」という意味らしい。機体はFRX99。

    【ローラン大佐】フェアリイ基地広報部。
    【ロンバート大佐★】アンセル・ロンバート。FAF情報軍の事実上のトップ。女に手が早いがライトゥーム中将よりは洗練されている。《わたしの望みは、ささやかな平安だよ。ま、それは老後の話だがね》グッドラックp.582。《わたしの目的は、ジャムを支配することだ》グッドラックp.583

    【AICS】エアインテーク制御システム。自動的なシステムで戦闘機にとっては不随意で機体のコンピュータが感知できない部分だった。
    【BAX-4】開発中のパワードアーマー。
    【FAF★】フェアリイ空軍。地球防衛機構の主戦力。フェアリイ側「通路」を中心にほぼ同円周上に基地を配置している。
    【FRX00】FRX99の次世代試作機。有人にし、人間の戦闘勘を生かすコンセプト。エンジンはスーパーフェニックス・マークⅪ。機体カラーは黒。形状はジャムの戦闘機に似ている。後につけられた愛称は「メイヴ」、風の妖精を統べる女神。
    【FRX99】スーパーシルフを元にした小型軽量機だがコンピュータの容量はスーパーシルフに匹敵する。最終的には無人化を予定しているが当面は特殊戦のパイロットが教育役として搭乗する。
    【PACコード】パーソナリティ分類用コード。世界標準でありFAF独自ではない。零の配属もこのコードニヨッテ決められた。全国民が幼少時より分類されている国もあれば犯罪者のみが分類されている国もある。より拡張されたPAXコードというものがあり「MAcProⅡ」などのツールでのプロファクティングにはそれを使う。
    【SAF】→特殊戦
    【TAB-14】壊滅したはずの基地。
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    投稿日:2023.08.22

  • おおきに!(smoneyb)

    おおきに!(smoneyb)

    戦闘妖精・雪風 第二巻

    前巻で覚醒が示唆された、戦闘機搭載AI 戦闘妖精・雪風。
    人間と、フェアリー星人(人類)、異星人(ジャム)、特殊戦、情報軍入り乱れての戦闘になだれ込んでいく。

    投稿日:2022.10.01

  • bookaholic

    bookaholic

    面白い。濃厚、重厚。まさか最後、そこで終わるとは…!
    主人公の深井中尉の独白が多かった前作に比べて、今作は数多くの魅力的なキャラの内面によりスポットが当てられていた。
    前作のモブがモブじゃなくなり、物語により深みと広がりを持たせた。

    個体としての生存本能と集団・組織の存続のための戦略の対比とか、戦略と戦術の違いとか、内容は哲学的でより難しいものになった。ストーリー展開も後半はドラマ的に進む。
    最終作のアンブロークン・アローを読むのが待ち遠しい。
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    投稿日:2020.07.23

  • dipnoi

    dipnoi

    最高!
    人間ってなんだろう、存在ってなんだろう。解説にもあったけど、レムの小説と主題は似ている。
    将棋でAIに勝てなくなった今、棋士は必要か。みたいな話。(違う)

    投稿日:2020.03.22

  • パンダの眼は何かたくらんでる

    パンダの眼は何かたくらんでる

    世紀の変わり目に読んでいました。
    この先続くわけですが、なんと言っても、筆者が合間を置い
    て執筆しておられることが大きい…?巻を重ねるごとに、な
    んだろうか。主人公というか登場人物のウェイトの置き方や
    立ち位置が変わっていきます。基本はハードSFなんですが、
    それを度外視して<映像化>しておりますよね。
    あれは、ちょっと苦しかったんだとおもう。錚々たるスタッ
    フに囲まれてもがいていたような印象です。主演(深井零)
    は、あの「倍返し!」のかたです。すごいよね!
    続きを読む

    投稿日:2019.11.27

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