かんけつさんのレビュー
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18
このユーザーのレビュー
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沈黙のフライバイ
野尻抱介 / ハヤカワ文庫JA
SFらしいSF短編集
5
一貫してSFらしいSFが書かれていて大変面白く読んだ。この作品を読んだことで、安心して他の著者作品を買えるようになった。エンジニアにとって元気の出る小説を書く作家さんである。
「沈黙のフライバイ」。…地球外文明探査(SETI)。JAXAのSETI班が異星人の探査機が接近するのを迎える話。確かに簡単には意思疎通はできないだろうが、いつかはわかり合えるはずだとの希望は湧いてくる。
「轍の先にあるもの」。2020年代小惑星エロスに立つ野尻抱介という夢を描いた小説。
「片道切符」。火星の有人探査に向かう二組の夫婦。しかしテロにより帰還不能になり、片道切符を覚悟する。
「ゆりかごから墓場まで」。太陽だけで閉じた生態系を形成し地球を旅するスーツ。火星のバクテリア。
「大風呂敷と蜘蛛の糸」。凧によるアシストで宇宙に達する方法。理工系ヒロインが主役となって長編「ふわふわの泉」に通じるところあり。
続きを読む投稿日:2015.09.22
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火星の人
アンディ・ウィアー, 小野田和子 / ハヤカワ文庫SF
お薦めしやすいSF小説
4
自分は相当SFの数だけは読んでいて、奇想、とんでもない発想のものほど評価する傾向があるので、なかなか☆5つはつけにくいのだが、人にお薦めやすいSFとしては近年の収穫ではなかろうか。
「SFが読みたい」…2015年版で1位なのも納得。個人的にはスコルジー「レッド・スーツ」が1位押しだったけれども。イーガン「白熱光」は買ったんだけども未読。
事故により火星に取り残されたエンジニア&植物学者の宇宙飛行士のたった1人のサバイバルが描かれる。
火星探査で事故に遭うというと、電子書籍にはなってないが「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」(早川書房)にエリック・チョイ「献身」という作品があって、これと似ている。当然ながら、過去の火星探査機とかが重要な役割を果たすところも共通だったはず。
宇宙飛行士魂というか技術者魂は当然として、この作品のオリジナリティは遭難した当人が常にユーモアを忘れないことろなのだろう。絶望的な状況からなんとか生き抜く姿は感動的ではらはらしつつ読むことが出来た。
続きを読む投稿日:2015.06.21
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鋼鉄都市
アイザック・アシモフ, 福島正実 / ハヤカワ文庫SF
SFであればこそのミステリー
3
大昔に図書館で借りて読んだ「鋼鉄都市」は少年少女世界SF文革全集(あかね書房)の中の1冊だった。訳者はともに福島正実で、翻訳時期は相当古いはずだが、まだまだいける。登場する科学技術もさすがに時代遅れに…なっている箇所もあるだろうが、それはそれで味がある。
ロボットにRをつけること以外、話のほとんどを忘れていたせいもあって新鮮な気持ちで再読できた。
読み終わってみると、冷静に分析的読み方ができていれば犯行方法は推理できたはずと思われる合理的謎解きでした。その意味で正統派ミステリー。
広所恐怖症のように都市の外へ出られない地球人と、ロボット工学三原則により人は殺せないロボット。人と機械が探偵と相棒役になって宇宙人(地球人の子孫たち)殺人事件の謎に挑む。
鋼鉄都市に閉じこもっている遠未来の地球人類を、C/Fe世界を受け入れさせて地球外惑星へ導くという、宇宙人のSF的な計画と事件とその謎解きが不可分のものになっていて、未来世界(=異世界)で殺人事件を解決する以上の物語になっているところがいい。SFとミステリーの組み合わせが必然だったのだと感心させられた。
舞台を未来なり異世界に移しただけの作品ではなかったところがさすがアシモフ。続編「はだかの太陽」も是非読みたい。 続きを読む投稿日:2016.03.05
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SF西遊記 【復☆電書】
石川英輔 / 講談社文庫
入手困難な本を蘇らせるのも電子書籍の使命かも
2
今なら、石川英輔というと「大江戸リサイクル事情」の印象が強いが、古いアニメファンには「SF西遊記スタージンガー」の原案だろう。
子どもの頃何話かアニメは見たのだが、この本を読むと、ほんとに原案にすぎず…アニメはアニメで好き勝手にやっていたのがわかった。アニメに出てくるオーロラ姫って何?って感じ。
小説は西遊記の枠組みを結構利用していて、原作リスペクトという意味でもアニメより数段上だろう。いずれにしても、まだまだ楽しめる作品であった。
入手困難な本もこんな形で復活するなら電子書籍はまだまだいけるんじゃなかろうか。 続きを読む投稿日:2015.09.05
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MM9 ─destruction─
山本弘 / 創元SF文庫
読んで損なし
1
ビッグバン宇宙と神話宇宙の相克の中で登場する怪獣たちが怪獣大戦争を繰り広げる。
円筒状バリヤを持つ怪獣とか、合体するロボット怪獣とか子どもの頃夢中になって見ていたウルトラシリーズを思い出す。
後日、総…天然色ウルトラQで初めて「ガラダマ」「ガラモンの逆襲」を見たので、前作MM9(invasion)はウルトラQのガラダマへのオマージュだったことに気付く。ウルトラQはリアルタイムでは見てなかったんだなあ。
そういった過去の怪獣映画、特撮ものへの愛とSF魂にあふれた連作の完結編。 続きを読む投稿日:2015.09.16
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すべてがFになる THE PERFECT INSIDER
森博嗣 / 講談社文庫
犯人の動機は理解は出来ないんだけれども納得は出来る
1
真賀田研究所に対する犀川助教授の感想は、おおむね同意できるなあ。窓は無くても個室で電子会議で仕事ってのは理想に近い。それとも窓がないのはWindowsを使っていないという暗喩なのか?
描かれているの…は90年代後半あたりのプログラマの世界で、UNIXで動くワークステーションとマックがでてくる。私も90年代後半にはHPのHP-UX(UNIX)を載せたエンジニアリングワークステーションで仕事をしていたので、なんだか親近感を覚える。確かその仕事を始めた頃は1千万円くらいしていたはずだ。
デボラはデボラ数、粘弾性のネタとか、機械系がmm単位で話すとか、専門が近いところは細かいところも楽しめた。
それにしても、犯人の動機はちょっと理解が及ばないほど常識離れしているのだけれど、犯人の動機に不満が残った綾辻行人「十角館の殺人」よりは納得できた。理解は出来ないんだけれども納得は出来るというのも変な話なので、なぜなのか考えてみた。つまるところ、ミステリー小説にあるような連続殺人、密室殺人はそれ自体がかなり現実離れしているので、その動機もそれこそ奇想天外なものであった方が釣り合いが取れている気がするから私は納得できているように思われる。だいたい現実の殺人事件はほとんどが衝動的、発作的なのだろうし。密室殺人なんて特殊な犯行を試みる犯人の動機はやはり常識を外れたものの方が似合うと個人的に思うのだ。リアリズムより奇想を好むSF好きゆえの感想かもしれないが。 続きを読む投稿日:2015.10.04