【感想】肉食の思想 ヨーロッパ精神の再発見

鯖田豊之 / 中公新書
(31件のレビュー)

総合評価:

平均 3.8
5
11
7
2
0
  • かなり大味で時代をかんじる

    初版が今から半世紀ほど前なので、現在の研究水準からするとかなり一面的だったり、間違っていたりという点も目に付きます。
    「ではあるまいか」という推測が多く、推測に推測を重ねたあげく、なぜかインドのカーストに飛んだりして、落ち着いて読んでみるとかなり強引です。
    第一線の研究成果が翻訳で読める現在と比べてはいけないとは思いますが、なんというか、そういう時代だったのだなぁ、と。

    本書は文庫版も電子化していますが、こちらの新書版の方が表が見やすいかと。
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    投稿日:2021.01.31

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  • djuax

    djuax

    日本では義務教育は金持ちの子も貧乏人の子もみな同じ小学校に通うものだった。明治の時代から、金持ちの子と貧乏人の子が机を並べて初等教育を受けてきた。しかし、欧州では義務教育とは、放っておけば文盲のまま一生を終わりかねない下層階級の子のために無償の初等教育機関を作ってやり、そこへの就学を強制することを意味した。欧州では上層階級の子は、パブリックスクール(英)・リセ(仏)・ギムナジウム(独)に通い、貧乏人と机を並べることはなかった。p.101

    日本では才能と努力で水兵が将校に昇進できたが、欧米では将校は上層階級に独占され、下層階級は兵隊どまりと相場が決まっていた。p.169

    欧州において、自由と平等は伝統的な階層意識とそれに反発する(下層階級の)個人意識との対立をやわらげる解毒剤であった。自由と平等はあくまで大義名分でありフィクションにすぎなかった。自由と平等の建前の裏には、伝統的な階層意識が形を変えて存続していた。しかし、自由と平等が日本に持ち込まれると、ただでさえ薄かった階層意識は踏みつぶされ、良きにつけ悪しきにつけ、フィクションが実体化されていった。p.172
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    投稿日:2024.04.28

  • まりも

    まりも

    ヨーロッパの肉食文化の基底にある風土の違いから日本と西欧の思想の違いを論じる。西洋の見方を克服し、あくまで「日本の尺度」で西欧を論じたいのが執筆の動機らしい。
    日本の肉食は食が洋風化したとはいえ、所詮はままごとレベルであると、筆者は断じる。1960年代の本だが、主食・副菜の考え方を見れば、日本の食卓が完全には西洋と同じになっていないのは現代でも妥当するだろう。
    食文化の違いは、穀物生産力や家畜の飼育に適した環境によって左右されたとする。すなわち、日本は穀物生産力が高い一方で、家畜を放牧するのに適した草木が自生する土壌にないが、西欧は穀物生産力が低い一方で家畜の放牧に適していた。屠畜が身近であったヨーロッパでは、人間と動物を峻別する必要があり、結果的に人間中心的なキリスト教が根付くことになる。また、他者を区別する感情は階級意識にも波及し、他宗派への不寛容や公衆道徳といった社会意識にも作用する。
    最後に近代の自由・平等といった輸出可能な思想は、土着の伝統的な思想に対するアンチテーゼであったとする。多数決原理による民主主義は、個人・社会・階層意識のバランスの上で成り立った。
    論理展開が明快で腑に落ちるところが多かったが、独自研究の様相を呈しているようにも思えたので、評価は⭐︎3つとした。
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    投稿日:2023.10.01

  • 司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    NDC 361
    [欧米人は、なぜ動物をと畜して食う一方、動物を愛護するのか?本書は、ヨーロッパ思想の原型を、歴史的・地理的条件に由来する食生活の伝統に求め、それに基づき形成された思想的伝統を明らかにし、日本とも比較しながら平易に説く。食という新しい視点で西洋の歴史を見直す、西洋史学究の問題作。]

    「著者はヨーロッパ中世史の専門家ですが、日本人の食生活とヨーロッパの人々の食生活を比較対照しながら、日本とヨーロッパ双方の文化の特徴をみごとにあぶりだすことに成功しています。また、ヨーロッパ社会とヨーロッパの人々が持つ思想の本質を知りたい人、そしてそれとの比較を通じて日本人の思想の本質に触れたい人もぜひ本書をどうぞ。食生活という観点からのアプローチによって、「常識」が次々とくつがえされる発見と快感を味わうことが出来るでしょう。」
    (『世界史読書案内』津野田興一著 の紹介より)


    目次
    1 ヨーロッパ人の肉食
    2 牧畜的世界ヨーロッパ
    3 人間中心のキリスト教
    4 ヨーロッパの階層意識
    5 ヨーロッパの社会意識
    6 ヨーロッパ近代化の背景

    著者等紹介
    鯖田豊之[サバタトヨユキ]
    1926年生まれ。1952年、京都大学文学部史学科卒。京都府立医科大学教授を経て、同大学名誉教授。専攻は西洋中世史、比較史。2001年10月逝去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
    ※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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    投稿日:2023.08.16

  • aya00226

    aya00226

    このレビューはネタバレを含みます

    ヨーロッパの家庭料理は、動物が丸ごと料理される。
    島崎藤村『エトランゼ』籠城用に豚、羊が集められた。
    日本の主食であるコメに相当するものはない。
    日本は米飯を食べるので排尿回数が多い。
    ザビエルは、日本の粗食に困った。日本に来る宣教師の資質として粗食に耐えられること、とした。
    幕末のハリスは牛またはヤギの乳を求めて放牧したがった。日本では当時放牧はしていない。ヨーロッパでは、勝手に生える草を家畜の食糧にできる。植物が硬くならないため。

    蒸し暑い日本は、草も硬くなって放牧では食べられない。食べられる草か穀物を与える必要がある。

    日本ではコメ、ヨーロッパは麦。コメは連作しないと田がだめになる。麦は連作すると収量が落ちる。
    水田は、江戸時代でも播種量の30~40倍取れた。五公五民に耐えられた。麦は中世では2倍以下。
    ただし日本の農業は雑草に責められる。麦作は巻いたらほっておくだけ。ヨーロッパの農業は気楽な稼業。
    日本は土地生産性が高く、労働生産性が低い。ヨーロッパは逆。むしろ労働しても終了は増えない。
    麦畑を家畜の放牧地にして回復させる方法=三圃制農業

    農業革命は、休耕地にカブやクローバーを植えて家畜飼料とした。穀物生産と家畜飼育は一体だった。

    パリの市場では、家畜が丸ごと売られていた『パリの主婦・東京の主婦』
    雄鶏のきも、豚の頭のローストが家庭料理『カンタベリー物語』

    動物を殺すことは残酷ではない。残酷なのは遺棄、面倒を見ない、など。安楽死させるべきと考えている。
    動物と人間は一線を画する存在と考える=キリスト教の思想。
    進化論を受け入れない。日本では受け入れられる。
    性生活を動物的本能に基づくものとして拒否する=カトリックの聖職者独身制。
    結婚は次善の策で、一夫一婦制や離婚の禁止が妥協点。

    離婚ではなく前婚無効の訴え=近親婚の禁止にあたる。14親等まで禁止だった。許可を受ければ結婚できた。
    ヨーロッパでは、家畜がたくさんいたため、性交渉をまじかに見ることになり、動物と人間の違いを強調する必要があった。一夫多妻制は動物的。
    宮廷愛の理想は、肉体交渉を持たないもの。

    1527年、ローマ法王パウロ3世がインド人や黒人を人間であると宣言した=それまでは白人が人間であった。

    日本の支配階級(武士)はヨーロッパの貴族に比べて格段に多い。10倍くらい。日本は支配階級と被支配階級との断絶が少ない。=身分制議会がなかった。
    人事興信録にあたるソーシャルレジスターで、3代くらい前までさかのぼれる。

    日本は企業内労働組合、欧米は職種別組合、ウチという概念が違う。
    マルクス主義は階級闘争と見做したのも階級があったから。マルクス主義では、政権を取ると裏返しの階層意識が出てくる。
    インドのカースト制はヨーロッパの階層意識とは違う。
    インドは家畜がいなければ工作できない。身近な存在。
    カーストの上位ほど、肉食をしない=人間は別といいう断絶思想の表れ。
    インドは牧畜適地ではなく、穀物適地だったが、家畜は耕作のためのもの。屠畜に抵抗があった。家畜には穀物を与えていた。

    麦を手間がかかっても粉にしてパンにしたのは、消化吸収がいいから。粉引きの水車やパン焼きかまどは領主しか持ってはいけない。
    ヨーロッパの都市の成り立ちは、共同での耕作から始まった。都市では自由だが、共同体としての自由が優先された。

    キリスト教徒の異端狩りは、他宗教だけの間ではない。
    ザビエルは、日本の仏教の間の宗派が協調的なことに驚いている。

    日本の平等化は、最下層からでも立身出世ができる仕組みの構築に注がれた=日本全体の発展につながったのではないか。
    日本の戦争中には15代の内閣が成立した。満州事変から太平洋戦争終結まで。それぞれが多数意志の代弁者に過ぎない。指導者ではない。

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    投稿日:2023.05.26

  • こべこべ

    こべこべ

    欧米と肉食文化の関係性を探る中で、欧米の思想の根源を見出していたが、少し強引な気がする。キリスト教や人間中思想、マルクス主義や自由主義の理念にまで考察は進むが、論理が少し飛躍していて、結局「ヨーロッパ文化や思想とは肉食による」という不可思議な結論に陥っていた。また、終章あたりになるともう本の趣旨から外れている気がする。
    ただ、それ以上に面白い読み物ではあった。各データを参照しながら日本と欧米の食文化を比較して、そこから特有の生命倫理や精神性を見出していく過程には目を見張る。前述の大袈裟な部分を削って、この部分をもっと膨らませていけば、さらに良い本になっていたかもしれない。
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    投稿日:2022.10.31

  • echigonojizake

    echigonojizake

    このレビューはネタバレを含みます

    竹山道雄のパリでの違和感から始まり、牧畜中心であるがゆえに肉食が根付いたとの指摘。

    しかし、その背景には文化的なものがあるだと解く。キリスト教の人間中心主義、ヨーロッパの階層意識などまで話は進む。

    最後は肉食からだいぶ話は離れていき、私の期待したものから外れていったが、これはこれで読み物としてはよかった。

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    投稿日:2022.01.30

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