金建さんのレビュー
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シュヴァルツェスマーケン 6 儼たる相剋の嚮後に
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
あぁ、リィズ
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分かり合えたはず、共に戦うと約束したはず、それでも裏切ったリィズ。
彼女が裏切りさえしなければ、国家保安省を壊滅させることも夢では無かった――
一体何故、彼女は裏切ったのか、と言うまでもなくテオドール…のためである。
リィズの裏切りは、想い合うことが即ち協力には繋がらないこと、目指すものが同じでも手段が異なれば道を違えることがあること、攻撃は害意によってのみ為される訳ではないことなど、信頼の難しさを語る上でまさしく本作の象徴である。
合理が道理を超えた反体制陣営の行動も狂気を帯び始める。仲間達の信頼がテオドールに試練を与え、彼の精神を蝕む。見ていられない、だが目を離せない。 続きを読む投稿日:2016.06.22
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シュヴァルツェスマーケン 5 紅蓮なる弔鐘の中で
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
大逆転
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全編にわたって描かれるのは重光線級への光線級吶喊。
『オルタネイティヴ』では言うほど脅威に思えなかった重光線級が、スペック通りの脅威として立ちはだかる。舞台がゼーロウというのもまたいい。SF的な人型機…動兵器・レーザーと対照的に織り込まれる大戦期・冷戦期の遺骸が情景に深みを増しており、個人的には戦闘シーン最大の見せ場である。
テオドールはさらに行動的になっており、想い人であるアイリスディーナに対しても言うべき事ははっきりと言うようになる。彼の努力の甲斐あって中隊は団結を取り戻し、西方総軍との連携も確立、いよいよ国家保安省への反撃へと進むべき道が見えてくる。
本巻を一言で言うなれば「大逆転」。最初から最後まで、一度も気の抜けない展開のオンパレードである。 続きを読む投稿日:2016.06.22
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シュヴァルツェスマーケン 4 許されざる契りのために
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
壊れ始める日常
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第4巻は前巻の大団円を揺るがすものとなる。
反体制派の一斉検挙、BETAの大規模侵攻、そしてリィズのスパイ疑惑再燃。
またしても訪れた666の窮地にテオドールは如何に対処するのか。
本巻の最大の見所…は、やはりテオドールの揺れ動く心であろう。
アイリスディーナへの思慕を自覚し始めた彼は、決して報われないと知りながらも彼女の望みを叶えるべく行動する。しかしながら彼はカティアやリィズに対しても憎からず想っており、彼女らに寄り添うことがアイリスの意に沿ってしまうが故に却って苦悩することになる。最善の選択をしているつもりでも、常に3人を裏切り続けているかのような罪悪感に苛まれてしまう。意志を貫徹する強さは持っているのだから冷徹に他者を利用できればもっと楽になれるのだろうに、言動の一つ一つに彼自身の持つ繊細さや優しさが透けて見える。しかし、それこそが彼の最大の魅力なのだろう。
さて、我らが同志中尉は本巻においてもますます存在感を増してきている。
不覚にも不穏分子であるテオドールに好意を抱いてしまった同志中尉は、彼女なりのアプローチを試みるが、そのあまりの拙さに悶える。もちろん政治的な折衝においても大活躍しているので、期待してもらいたい。 続きを読む投稿日:2016.06.22
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シュヴァルツェスマーケン 3 縹渺たる煉獄の彼方に
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
同志中尉がこんなに愛おしくなるなんて・・・
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海王星作戦に伴う西側勢力との邂逅、リィズとの再会、そして明かされるアイリスディーナの目的と、本作中で最も大激動を迎えるのが第3巻である。
リィズの存在は以降最終巻まで物語を掻き乱し続けるが、その活躍ぶ…りは到底言葉で語り尽くせるものではないので、是非とも読んでもらいたい。
そして、何よりも大激動しているのが我らが同志中尉グレーテル・イェッケルンの立ち位置である。第2巻まではシルヴィア以上にヘイトを集める存在であった同志中尉であるが、本巻以降は彼女なりの苦悩や理想が描かれるようになり、愛おしく思えてくるのである。理想と現実の乖離に気付きながらも、党の言いなりになることでしか理想を実現出来ないと信じ込もうとしていた彼女は、果たしてアイリスディーナやテオドールの敵なのだろうか。彼女が自らの足で一歩を踏み出すとき、テオドールたちとの新たな関係が始まり、物語も大きく進む事になる。
戦闘描写については東独式ドクトリン「光線級吶喊」と西欧式ドクトリン「機動防御」の差が描かれる。
寡兵による浸透戦術と物量にものを言わせたエアランドバトルの相性が良いわけもなく、物量の差は経済力の差を誇示して貧者の心を苛み、敵のまっただ中に浸透すれば砲撃を阻害し、ますます対立を深めていくことになる。
互いに足を引っ張り合う連合軍が、激戦の中で結束していく様子もまた見所である。 続きを読む投稿日:2016.06.20
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シュヴァルツェスマーケン 2 無垢なる願いの果てに
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
運命が動き出す
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第1巻でカティアと信頼関係を結びながらも、保身第一のスタンスを崩さないテオドール。しかし国家保安省の陰謀が彼らを引き裂き彼女を窮地に追い込んだとき、彼が生来持っていた正義感に火が付く。
この第2巻以降…、巻き込まれる側でしかなかったテオドールが自らアクションを起こす側に廻る。そのきっかけは決して大きなイベントではないが、だからこそ彼の繊細な心理描写が際立つ。
戦闘描写の緻密さは健在。
本編で唯一、BETAと歩兵が交戦するシーンが描かれておりその泥臭さがたまらない。 続きを読む投稿日:2016.06.20
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シュヴァルツェスマーケン 1 神亡き屍戚の大地に
吉宗鋼紀, 内田弘樹, CARNELIAN / ファミ通文庫
格の違い
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本作の見所は、マブラヴという特殊な世界観に準拠しながらも東ドイツという国を自然に描ききった所にある。
会敵以前に凍死しかねない戦場の吹雪、人を信頼できぬ閉塞感、合理が道理を超えた時に産声を挙げる狂気、…その中で尚も消える事なき心の灯火。政治将校の同志中尉がかわいい。
戦闘描写も圧巻だ。20、30を超える梯団による無停止進撃、それに対抗すべく編み出された浸透突破戦術とエアランドバトル、戦車に群がる敵を薙ぎ払う対空機関砲の水平発射、そして100を超える対艦ミサイルの同時着弾。政治将校の同志中尉がかわいい。
作者は「本職」の仮想戦記作家、内田弘樹先生である。従来のマブラヴ作品がいくら緻密に制作されようとも、あくまでミリタリーを「趣味」としてきた方々の作品だったのに対して、本作はミリタリーで命を繋いできた先生の作品なのである。その重み、格の違いを同志諸君は読み進めていくうちに思い知ることになるだろう。
さて、記念すべき第1巻は主人公テオドール君が「西」からやってきた少女カティアにうっかり関わってしまう話である。かつて壁越えに失敗して一家もろとも始末され人間不信に陥ったテオドールは日々生き残る事しか考えておらず、「西」的理想論を振りかざすカティアを嫌悪する。カティアの言動はテオドールと部隊を政治的窮地に追い込み、テオドールは保身と人間としての矜恃の間で苦悩する。
この時点で、状況は彼の与り知らぬ所でしか動いていない。しかしながら、この出会いが彼に勇気をもたらし、ひいては東ドイツの運命を変えていくのである。 続きを読む投稿日:2016.06.20