三森雪さんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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wonder wonderful 上・1
河上朔, 結布 / レガロシリーズ
優しさに泣けるんです、
15
異世界への常習旅行者な妹、の良き理解者である姉が、妹のために異世界に飛び込んで、そして大人だからこそ試行錯誤する物語。
ネットで話題になった時、社会人異世界トリップ+恋愛もので一回敬遠したのですが、…なぜもっと早く読まなかったのかと、読了後に後悔したのは懐かしい想い出。
彼女が主人公なら、異世界トリップものじゃなくてOL生活ものでも良いくらい、こかげさんの一人称と行動が素敵すぎる。それぐらい理想的な、20代女性像なのですよねー。
そんなこかげさんが、異世界の傍観者から、助言者となり、主人公となっていく物語。胸キュンラブ要素はありますが、むしろこれはハートフルにヒューマンなファンタジーだと思う。
人の優しさがあったかくて、優しさに泣ける。そして、読むたび泣ける場所が違う。 あ、でも多分バルコニーのシーンはいつだって号泣する。忘れていた何かを取り戻すような、“あたたかくて、いとしいもの。” 続きを読む投稿日:2013.09.25
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最後の晩ごはん ふるさととだし巻き卵
椹野道流 / 角川文庫
自分に自信が持てない日には「ここにいていいよ」が救いになる。
15
給仕がつくかしこまったレストランの方が、町の定食屋よりも美味しいとは限らないはずで、大体は時と場合によりけり。素朴で優しくて、つい長居してしまいそうな喫茶店に似た雰囲気の小説です。
捏造スキャンダル…で活動休止に追い込まれ、地元の定食屋で住み込みで働くことになった元イケメン俳優が主人公。深夜だけ空いてる定食屋「ばんめし屋」を舞台に、ほっこり和やかで、でも不意打ちでやってくる切なさとちょっぴりファンタジーテイストが隠し味になっています。
都会で散々な仕打ちに遭いながらも基本好青年な主人公海里が素敵。「努力してますって顔すんの、俺、嫌いなんだ」ていいながら、料理人に感心されるくらいテレビのためにキャベツの千切りを練習して、幽霊のために寝ずに出し巻き卵を練習する生真面目な真っ直ぐさにときめくる。 続きを読む投稿日:2015.05.16
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四畳半神話大系
森見登美彦 / 角川文庫
エッシャーの騙し絵の世界を歩くような、奇妙な心地よいふわふわ感。
13
冴えない苦学生が薔薇色のキャンパスライフを夢見つつ、うだうだ悩んで駄弁って選択して空転して過ごす、4つの平行世界を巡る「if」の物語。もし〜たら、れば、を巡って知る、必然と偶然と運命。
4話目、蛾と…もちぐまが出て来た辺りからの、頭の中で伏線が一本のベクトルに集約して物語を逆行していくすっきり感と、4話までの間に繰り返された表現が改めて多用されることによる既視感が凄い。あえて既読箇所を飛ばし読みしていくと、読む箇所が減ってくる物語の後半、展開が早まるような錯覚に陥るのでおススメです。エッシャーの騙し絵の世界をふらふら歩くような、奇妙な心地よいふわふわ感。
隣の芝生は青いけど、今いるそここそがあなたの選択、青い鳥はいつもそこにいるのね的な普遍的なテーマを、一見高尚な文体で包み込んでピリッとスパイスを利かせた、でもやっぱり面白い小説です。 続きを読む投稿日:2014.08.15
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あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。
日野瑛太郎 / 東洋経済新報社
「仕事を通じて一番幸せを感じるのは、自分の成長が実感できた時や、やりがいを感じた時です」
13
タイトル勝ちってこういうこと、の見本みたいなタイトル。「それと、今日は定時で失礼します」な帯のコピーも良いなぁ。タイトルで主題の8割語っとる。
「脱社畜ブログ」のブロガーさんの著書。ウィットに富んだ…社畜の考察がスルッと読めて面白い、ですが、焼き増し的な内容も多いのでブログ愛読者は買うに至らないやも。それ以外の、特に会社員の方は、何かしら心に刺さる部分があるんじゃないかなと思います。
人によってはこのタイトル、一時流行った"ぶら下がり社員"や"ゆとり社員"をイメージするかもしれませんが、実際はもっと能動的な人向け。生産性と自分の市場価値を意識し、会社を"保護者"ではなく、"「自分」を経営する会社の取引先"と考える。要は会社への依存度を減らしましょう、という、大概のビジネス書の命題に沿った本です。 続きを読む投稿日:2014.08.24
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ボトルネック
米澤穂信 / 新潮文庫
ただ思うのは、それは諦めに慣れない若さ故の絶望なのだと。
13
亡くなった恋人を偲びに東尋坊を訪れた「ぼく」は、断崖から墜落した・・・はずが、気づくと見慣れた街にいる。しかし自宅には見知らぬ「姉」。その姉と共に過ごすうちぼくが見せつけられた残酷な「IF」の世界とは…。あり得たかもしれない「可能性」と実際あった「現実」が逆転する、どこまでも苦い青春パラレルミステリー。
著者が「最後の一撃(フィニッシング・ストローク)」をテーマに書いた作品には短編連作の「儚い羊たちの祝宴」がありますが、こっちは長編な分ズドンと衝撃と余韻の残る一撃。
選んだ未来が必ずしも正しい訳はないはずで、それでもなんとか進めるのは、やり直せない「たられば」が実際にどうなったのか分かるはずがないからこそ。にもかかわらず、「最適解ばかり選んできた姉」視点で、選べなかった/選ばなかった選択肢の行方を見せつけられる主人公。畳み掛ける伏線と回収劇、それが収束してラストに現れる主人公の絶望と決意が、予測はつくのに救いを求めて頁を繰る手が止まれない。 続きを読む投稿日:2014.12.13
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思考を広げる まとめる 深める技術
太田薫正 / 中経出版
これから卒論を書こうとする過去の自分に渡してあげたい。
13
"一から理論を組み立てる"経験を初めてする時、側にあってほしかった本です。卒論の書き方に迷える学生さん用に、大学の生協へそっと忍ばせておきたい本。定評のあるマッキンゼー印、事例交えてビックリするほど平…易で丁寧に書かれてます。
卒論とか、新規開拓型プロジェクトの企画書とか、最初に何をするべきか、迷いませんでしたか。"人が作った文章を組み直し・更新する"経験は日常的にあっても、"一から理論を組み立てる"経験って中々ないものです。
まず何をやって、どう削ぎ落として組み立てて、それを他人から見ても穴がない形に纏め上げるか。本から引用すれば「拡散=広げる力、集約=まとめる力、検証=深める力」の三段階での思考力の鍛え方。こうした思考力って、フレームワークとか仮説力とかより前に鍛える必要がある、基礎体力だと感じます。 続きを読む投稿日:2014.09.14