rossoさんのレビュー
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ウィンブルドン
ラッセル・ブラッドン, 池央耿 / 東京創元社
最高のスポーツ小説であり、最高のサスペンス小説
7
今回の配信で「うぉっ!」と声が出た。実は再版のアナウンスは知っていて電子書籍が出るかどうか分からなかったので文庫版で買ってしまったのだ。それでも改めて電子版でも買ってしまうぐらい、本作はすごい。
…私が初めて出会ったのは今を去ること20数年前。当時コバルト御三家の一人と呼ばれていた久美沙織の書いた書評からだった。当時はテニスをやっていたので「面白そうだな」と何気なく買ったのだが、一気に作品世界に引き込まれたのを良く覚えている。そして、一度でも本作を読んだことがある人は今回の再版に関して私と同じ感想を持ったであろう。
「やっと返ってきた」
と。
実際、http://www.excite.co.jp/News/reviewbook/20141112/E1415724218274.htmlにも熱い思いが語られているし、他のサイトでも再版を喜ぶ声がいくつも上がっているのだ。
あらすじは、、、
テニス世界ランク2位のオーストラリア人ゲイリー・キングは全豪オープンの前哨戦で17歳のソ連(本作の出版時は冷戦期だったのだ)の天才プレーヤー、ツァラプキンと出会う。言葉も通じない二人だがテニスを通じて心を通わせる。
だが、そこは冷戦期。キングと仲が良くなったこと自体がソ連幹部の不興を買い、その後のわずかな誤解からツァラプキンはオーストラリアに亡命することになる。
やがて2人はウィンブルドンの決勝を戦うことになるが、その舞台の裏では卑劣な犯罪が計画されていて、、、
と言う話。
とにかく、あらゆるシーンが圧巻。ランキング1位のアメリカ人プレーヤーの罠により怪我をさせられたキングの復讐をツァラプキンがもくろむシーンなんか、最後の犯罪とは全く関係ないのにすごい迫力があるし(これだけでひとつの小説にして良いぐらい)、もちろん最後の決勝戦やそれに絡む犯罪も恐ろしいほどの迫力がある。ツァラプキンは今日のプレーヤーで言えばロジャー・フェデラーを彷彿とさせる美しいテニスを展開させるし、キングはキングで片手打ちのバックハンドから豪球を叩き出してくる。
錦織圭の活躍でテニスに興味を持った人はもちろん、スポーツ好き、サスペンス好きのあらゆる人にお勧め出来る最高の小説である。 続きを読む投稿日:2014.11.20
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ローマは一日にして成らず──ローマ人の物語[電子版]I
塩野七生 / 新潮社
歴史書ではなく小説だが
6
本シリーズのタイトルは"Res gestae populi Romani"で直酌すれば「ローマの人々の諸々の行動」である。本シリーズはまさにローマ人が建国に当たって、危機にあって、滅亡に当たってどう行…動したかを淡々と綴った記録のような小説である。
作者の塩野七生ははっきり言えば「文章を書くのがあまり上手では無い小説家」だと思う。本作を含め、文章は極めて説明調であり、一般的な小説、それも歴史小説と比べても、例えば司馬遼太郎のような生き生きとした人物描写では無い。これは本作だけの話ではなく例えば著者のデビュー作である「ルネサンスの女たち」でもその後に書かれた「チェーザレ・ボルジア、あるいは優雅なる冷酷:や「ロードス島攻防記」でも同じである。
逆にこの淡々と感情をほとんど交えず史実の流れを追っている部分が、本書をいかにもローマ正史であるかのように感じさせ、また人物描写が淡々としているが故に「リアルな歴史上の人物」として感じさせているところが本シリーズの極めて優れたところであり、小説として成功している部分であると思う。
実のところ、正史としてとらえれば「あれ?」と首をかしげる部分も存在している。だが、あくまで本書は歴史小説であり、その意味では極めて成功している作品だと思う。 続きを読む投稿日:2015.05.29
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理不尽のみかた 1巻
柳原望 / Silky
もっと続けて欲しかった
6
50年も続いているのに「裁判員」と比べると無名な「検察審査会」。そこに務める事務員「縁(えん)」は日々訪れる人の「理不尽」と向き合っている。ある日、日本オタクのイギリス人が縁のアパートに越してきて、、…、
と言う話。
これまた柳原望の作品ほとんどと同様、打ち切りになっている様子(あるいはマニアックすぎてネタ切れしたのかも知れないが)。例えば「モーニング」だったらこう言うのってもっと続いていたんじゃないかな、と思わせる点ですごくもったいない。星四つなのはその不完全燃焼感からの評価で、星5つつけても良いぐらい。 続きを読む投稿日:2014.11.15
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……絶句(上)
新井素子 / ハヤカワ文庫JA
始まりで終わり
6
この作品はそれまでの新井素子作品のすべての始まりであり、逆にそれまでの新井素子の作品の終着点でもあると思う。
コアな新井素子ファンは当然初版の後書きを読んでいると思うし、本作のネタバレにもなるので…理由・詳細は割愛するが、本作が代表作である第13あかねマンションシリーズ(二分割幽霊奇譚、ラビリンス-迷宮-、扉を開けて、ディアナ・ディア・ディアス)、星へ行く船シリーズ、ブラックキャットシリーズのすべてをつなぐ核となっている。
一方、本作を最後として新井素子の作風は大きな変換点を迎える。本作の直後に上梓したのが「あなたにここにいて欲しい」なのだが、この作品のあとから新井素子の作品は急速にサイコホラーへと形を変えて行っている(出版順では「・・・絶句」のあとに「ブラックキャット」が出版されているが、ブラックキャットはコバルトに書き下ろした2作をまとめたもので、掲載順では書き下ろしである「・・・絶句」があとになる。ゆえに「・・・絶句」の次の作品は「あなたにここにいて欲しい」である)。
故栗本薫(中島梓)の書評では「・・・絶句」までの新井素子の作品は「おはなし」であり、「あなたにここにいて欲しい」でようやく「小説」になるとのことだが、この書評は正鵠を射ていると思われる。
ただし、新井素子の「おはなし」が好きなのか、「小説」が好きなのかは全く別の問題ではあると思うが。
おそらくファンの多くは新井素子の「おはなし」が好きだったのだと思う。本作以後の新井素子作品で最も人気があったのは「チグリスとユーフラテス」だと思われるが、この話はかつての新井素子の「おはなし」に最も回帰している小説であると思う。
さて、どうでも良いんだが初版の「・・・絶句」あとがきで書いた第13あかねマンションシリーズはどう収拾を付けるのだろう? 続きを読む投稿日:2014.10.13
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高杉さん家のおべんとう メモリアル
柳原望 / KADOKAWA
ファン必読 珠玉のエピローグ短編
6
10巻のレビューで「是非メモリアルも配信を」と書いたら早速配信されて驚喜。
10巻のレビューにも書いたが久留里の○○○○姿も見れるし、もし「○○と○○が結婚してたら?」もみれるし、オールカラーのポス…トカード集も付いているとても「おトク」な一冊である。
「高杉さん」ファンは必読の1冊 続きを読む投稿日:2015.08.28
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青空の卵 ひきこもり探偵シリーズ1
坂木司 / 創元推理文庫
じんわりと暖かい「人が死なないミステリー」
6
最近「万能鑑定士Q」、「ビブリア古書堂」「氷菓シリーズ」など人が死なないミステリーが増えてきているが、その中の一つ。上記の中では一番地味だが一番上手いと思う。
本作が代表作だが、短編集の「短劇」を除い…てどれを読んでも面白い。 続きを読む投稿日:2013.09.26