kabさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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虐殺器官
伊藤計劃 / 早川書房
絶望と解脱感がない交ぜになった心地よい感覚
8
久々に読んだ、読み応えのあるSF。というか、戦記物。
この本から受け取ったテーマは、意思とは何か、その意思によって求められる自由とは何か、ということ。主人公は、(ことばや記憶やテクノロジーや組織やの…影響を受けている)自分の選択が自分の意思によるものだったのか、を常に思い悩む。その過程が圧倒的な論理性と文章力で展開される。結果、主人公の抱える問題は、読み手である私にも突きつけられて、内省することになった。
主人公とともに内省を始めると、ルツィアやジョン・ポールが語る、ことばや良心も人間の進化の過程で生まれた産物、器官のようなものだ、という考えには強く引きつけられる。私もまた、主人公と同様に。
そのままラストまで突入すると、絶望と解脱感がない交ぜになった心地よい感覚がやってくる。エンディングは弱いという意見もあるようだけれど、この小説が主人公の内面を主軸にしたSFである以上、このくらいでいいのだろうと思う。 続きを読む投稿日:2014.04.29
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いつもの服をそのまま着ているだけなのに、なぜだかおしゃれに見える
山本あきこ / ダイヤモンド社
強烈に実用度が高いおしゃれ本
5
これまでスタイリストやタレントが出すスタイルブックは、パラパラ立ち読みすることはあれど、買わなかった。「私、おしゃれでしょ?」感満載で、「はいはい、そうですね」と思いながら、棚に戻す。それだけ。
で…もこの本は違う。
立ち読みして購入即決。電子書籍でスマホに入れておきたい、と思った。法則が明確。一見、無難。それでいて、確かにあか抜けてると思うコーディネートの何が違うのか、よくわかった。
今、世の中的にover35くらいの大人向けで、コンサバでもママでもないカジュアルを志向した雑誌がない、と不満なんだけど、この本だけで当面頑張ってみようかな。 続きを読む投稿日:2015.05.19
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蔦屋
谷津矢車 / 学研
江戸文化を情感盛り気味に書いた人情者という感じ
3
蔦重の本、しかもストーリーものなんてあまり見かけない。日本のコンテンツビジネスの原点ともいうべき、面白い人物なのに。ということで、貴重な蔦重小説。
飄々と粋で大胆、アイデアあふれる編集者兼プロデュー…サーとしてのイメージは裏切られない描写で楽しく読めた。ただ今回は、蔦重よりも春町自死で憤り、編集者としての矜持に震える豊仙堂丸屋小兵衛に共感してぐっときた。
吉原での立ち上がりプロセスや日本橋での展開など、事業での活躍とかがもうちょっと読みたかったが、全体に心理描写や情感に主眼があるから仕方なし。ただ、エピローグはやりすぎというか、私にはちょっと甘みが強すぎた。 続きを読む投稿日:2015.01.17
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黒髪のヘルガ
朔ユキ蔵 / 太田出版
脱帽ですよ、朔先生。
1
朔ユキ蔵という作家が、グッと好きになったような気がした一冊。
初めての朔ユキ蔵は『つゆダク』。「なんて妄想なエロアホ漫画(笑)」と思った。『ハクバの王子様』は、「あの『つゆダク』の作者が大人の恋愛を…こんなに丁寧に描けるのか」と意外だった。『セルフ』を読んだときは、「エロもこう描くと、私小説的ファンタジーになるね」と感心した。
でも最大の衝撃は『黒髪のヘルガ』。これは、エロ(というか性愛)を真正面から、正統ファンタジーの世界に落とし込んだ作品だと思う。前述の3作品とは趣が違うけれど、それぞれの端的要素(エロ、恋愛、ファンタジー)を抽出して混ぜ、昇華するとこうなるというような話。どれよりも独特で、根源的で、読み応えがあった。
見えてくるテーマは一つ。性愛や嫉妬、愛憎は、愛があってこそ生まれる。だが、愛もまた、それらがあって初めて生まれるものだ。これって、大人だからわかる愛の本質。「少女」でいる(あるいはいさせられる)うちはわからない。
連載中の『お慕い申し上げます』もどう決着させるのか、楽しみにしてます。 続きを読む投稿日:2014.04.29
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再起動せよと雑誌はいう
仲俣暁生 / 京阪神エルマガジン社
愛情を語るだけでは答えは出ない。
0
タイトルと著者の経歴から、雑誌の現状分析や(説教くさくても暴論でもいい)閉塞感を打破する提言を期待していたのだけれど、完全に肩すかし。雑誌好きの懐古趣味、愛情語りでしかなかった。雑誌産業が崖っぷちに立…っている今、業界内の人間がビジネス上の視点なく雑誌の現状を語ることに、もはや現実的な意味はないと私は思う。少なくとも「再起動せよ」なんて銘打つのなら(ノリは「再起動してほしい。そう私は祈っているよ」くらいの感じだろう、これだと)。
この本の唯一の収穫は、そもそも雑誌好きによる雑誌語りが成立すること自体、メディアとしての雑誌の衰退を象徴していると実感できたこと。かつて雑誌とは、多くの人にとって「別段好きというほどのことはないし、語るほどの思い入れもない。それでも読んでいるもの」であったはずなのに。特定の雑誌がではなく、雑誌というメディア全体がニッチ産業になったということだ。 続きを読む投稿日:2014.04.29
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ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕
ジョン・ル・カレ, 村上博基 / ハヤカワ文庫NV
再読決定。
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映画『裏切りのサーカス』を見てから原作を読むと、あの映画の脚本が、いかに大胆かつ上手にストーリーと登場人物を整理していたかがわかる。 原作は一層複雑。読み切れた気がしない。「少ししたら再読」リストに入…れておかないと。 続きを読む
投稿日:2014.04.29