sohtaさんのレビュー
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わたしはマララ
マララ・ユスフザイ, クリスティーナ・ラム, 金原瑞人, 西田佳子 / 学研
マララ自身の存在を通じ、教育の大切さを知る
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"わたしが生まれた日、村の人々は母をあわれんだ。娘が生まれた日は悲しみの日になる。"
男性優位の保守的な地域、パキスタン北西部のスワートに生まれたマララ。
幸いにも彼女には、娘(女性)にも教育を受け…る権利と自由に生きる権利があることを唱え続ける父、ジアウディンがいた。
マララが"教育のために戦う少女"として世に現れたのは、決して彼女が天才だったわけではなく、間違いなく政治的な活動家でもある父の背中を見て、そして自身が然るべき教育を受けたことによるものであるということが、本書を通じ良くわかる。
娘には一定以上の教育を受けさせないスワートの保守的な家庭に生まれていたのなら、当たり前のようにそれを受け入れ、今の彼女のような存在に成り得なかったであろう。
それだけに、彼女の"教育第一"という言葉には重みがある。
本書は彼女がタリバンに襲撃された時の様子から始まり、彼女の生い立ち、タリバン支配下での壮絶な暮らし、襲撃前後の様子から、イギリスでの暮らし始めの様子まで描かれる。
彼女のこれまでの半生の記録としても素晴らしい作品であるが、パキスタンの歴史・現況、スワートにおけるタリバンというものを知る上でも貴重な作品といえる。
とりわけ第2章で語られる、タリバンがはじめはイスラム教の教えを説いていく者として徐々にスワートの民衆の心を掴んでいき、支援者が増えたところで最終的に恐怖で支配するという様は読んでいて恐ろしい。道端に首を切られて横たわる死体、公開鞭打ち刑、とても現世とは思えない光景だ。
訳者のあとがきにもある通り、共著の方がどれだけ手を加えているかはわからないが、とても16歳の少女が書き上げたとは思えない、素晴らしい作品。ひとりでも多くの人に手をとってもらいたいと切に思う。
最後に収録されている彼女の国連でのスピーチ。彼女のたどってきた半生を知る今、彼女の力強いメッセージに涙を禁じえません。 続きを読む投稿日:2014.04.06
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空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
角幡唯介 / 集英社文庫
探検家たちの探究心とロマンに触れる
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1924年、探検家キングドン=ウォードがツアンポー峡谷を踏破した際に探検できなかった5マイルは、現代にまで残った地理的空白部分として「ファイブ・マイルズ・ギャップ(空白の五マイル)」と呼ばれ、1990…年代以降の探検家の目標となった。
本書は著者が空白の五マイルを含むツアンポー峡谷に挑む様と、過去、ツアンポー峡谷に挑んだ歴代の探検家たちの記録を交互に織り交ぜる形で構成されている。
チベットにツアンポー峡谷というものがあることも、その地を目指しそして命を懸けた探検家が幾人もいたことなど知る由もなかったが、読み進めるうちにツアンポー峡谷における探検史への理解が深まると同時に、過去の探検家たちの探究心、ロマンを感じずにはいられない。
一方、著者はかつて、ツアンポー峡谷の探検史で語られてきた"幻の滝"を見つけることをひとつの目標にもしていたようだが、1990年代には米国の探検隊によって"幻の滝"も発見されてしまい、空白の五マイル部分も大方踏査されてしまっている。
それでもなお僅かな未踏査地帯を目指しツアンポー峡谷に挑む著者は、この探検を通じ何を見つけ、何を感じるのか。至高のノンフィクションです。 続きを読む投稿日:2014.02.22
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ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗
円谷英明 / 講談社現代新書
非上場、一族経営の悪い例
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創業者 円谷英二氏の時代から、一族が追放されるまでの円谷プロの経営の歴史が、内情に通じた6代社長 円谷英明氏によって綴られている。
予実管理のできない放漫経営、経営層による会社の金の着服、お家騒動…e…tc。非上場会社、そして一族経営のダメな部分が、これでもかというぐらいに出てくる様は、思わず苦笑せずにはいられないほど。
「ウルトラマン」という視点以外にも、他社のありえないくらいに望ましくない経営状況を覗き見れるという点で、非常に興味深く読み進められる一冊です。
続きを読む投稿日:2014.02.13
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[図解] 電車通勤の作法
田中一郎 / メディアファクトリー新書
くだらない。が面白い。息抜きには最適。
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自称"電車通勤士"の著者がいたって真面目(?)に電車通勤の作法を論じている。
くだらないことがもの凄く真面目な言い回しで書かれており、本当に真面目に書いているのか、ふざけているのか本意がよくわからない…。
役に立つ作法というよりは、"電車通勤あるある"といった感じで、電車通勤している方なら日々の自身の通勤時の出来事に照らし合わせて、共感しながら読み進めることができるだろう。
思考力泥棒のくだりはおもわず笑ってしまった。
続きを読む投稿日:2014.08.30
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名著で読む世界史
渡部昇一 / 扶桑社BOOKS
名著の価値を解説した書評本
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とっつき易そうな表紙だが、中身は中々敷居が高く、"シャルルマーニュはご存知のように…"といった調子で話が流れていくので、世界史に関する素地は合ったほうが良いと思われる。
ただ、本書で紹介している本がな…ぜ名著といえるのかといった点は、時代背景を交えながら詳しく且つ、分かり易く解説をしてくれるので、次はこの本を読んでみようという意欲を掻き立ててくれる。
世界史を読み解くというよりは、名著の価値を懇切丁寧に解説した書評本といった趣だ。
続きを読む投稿日:2014.04.16
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桶川ストーカー殺人事件―遺言―
清水潔 / 新潮社
被害者は二度殺された。一度目は刺殺犯に。二度目は警察に。
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「私が殺されたら犯人は小松…」
被害者、詩織さんの"遺言"を黙殺し続け、主犯格の男がまるで存在しないかのように捜査をする警察、いや、捜査をするふりをする警察。
被害者はストーカー行為、脅迫行為を受け…ていることを何度も警察に相談したにもかかわらず、警察は全く取り合わず、遂には本当に殺されてしまった。
責任逃れ、そして面子を保つため、警察はストーカー行為と殺害は無関係という絵柄を描き、被害者が生前必死で訴え続けた「このままでは殺される」という主張も、遺言も、遺書も、警察は無視し続け、生前の被害者の思いは死後も届かない。
更にはまるで被害者には殺される理由があったと言わんばかりに、警察は記者会見を通じ被害者の人間像を貶め、マスコミは警察発表を鵜呑みにし捻じ曲がった人物像を世間に報道する。
これが現実に起きたことかと思うと、やるせなく、腹立たしく、被害者家族は本当に報われない。
事件の全容を全く知らなかった私は、記者と一緒に事件取材、真相究明しているような感覚で、あっという間に読み終えた。
多くの方に一読してもらいたい一冊。
続きを読む投稿日:2014.05.08