にしむらさんのレビュー
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解体屋外伝
いとうせいこう / 河出書房新社
お前は暗示にかけられていないと断言できるのか?
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最近、久々の小説「想像ラジオ」が芥川賞候補になり、再び注目を集めているいとうせいこうの初期作品。初版が1993年ということから、もう21年前の作品になりますが、初めて読んだ時の衝撃は今でもはっきりと…覚えています。
テーマは「洗脳」で、今でこそカルト教団の事件などを経ていることから特に目新しい単語ではありませんが、当時はまだ一般的とは言えない状況を逆手に取ったような造語、例えば洗脳のプロを「洗濯屋(ウォッシャー)」、洗脳外しのプロを「解体屋(デプログラマー)」と呼ぶセンスが無茶苦茶格好よくて、読みながら痺れました。テーマがテーマだけに、小難しそうなストーリーかと思われるかもしれませんが、そんなことは決してなく、いとうせいこうを初めて読むにはうってつけの<冒険活劇愉楽小説>になっていると思います。
そして、読み終た読者に対して発せられる「お前は暗示にかけられていないと断言できるのか?」という問いに、あなたはなんと答えますか? 続きを読む投稿日:2014.02.01
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剣豪将軍義輝(上) 鳳雛ノ太刀
宮本昌孝 / 徳間文庫
宮本昌孝の代表作にして時代小説の傑作
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「室町幕府」と言われて思い浮かぶ将軍と言えば、初代の足利尊氏以外では、義満が金閣寺、義政が銀閣寺絡みで知られているのと、後は大河ドラマで戦国時代が取り上げられる度に登場する<謀略好きでぱっとしない小…物>として描かれるのが常の義昭くらいで、なんかキャラが立った人物がいないなぁ、そんなふうに考えていた時期がわたしにもありました。
そんな時に読んだ本作ですが、主人公の足利義輝には「え、なんだこいつすげーやうわすげーすげー」と「すげー」としか言えずにラストまで一気読みでした。だって「すげー」んだもん、マジでキャラ立ちまくり。まず将軍なのに剣豪、塚原卜伝に師事し名刀三日月宗近を振るいそれはもう強いのなんの南野陽子、歴代将軍参加の天下一武道会があったら優勝候補No.1、みたいな? それにただ単に強いだけではなく、織田信長や上杉謙信を前にして一歩も引かず、それどころか相手に「この将軍になら家臣として仕えてみたい」と思わせる大物ぶりで、歴史に「もしも」は禁物なれど、わずか29歳で永禄の変で討死にしていなければ、その後の日本の歴史は確実に変わっていたことでありましょう。
Only the good die young-そんな悲劇的なラストではありますが、読後感はいっそ爽やかで清々しいのは、やっぱりひとえに主人公の魅力に因るところが大かと思います。普段、時代小説なんて読んだことないよ、時代小説?何それ美味しいの? という方にこそお薦めしたい一冊です。
「五月雨は 露か涙か 不如帰 我が名をあげよ 雲の上まで」(義輝の辞世の句) 続きを読む投稿日:2014.10.24
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紅 ~歪空の姫~
片山憲太郎, 山本ヤマト / ダッシュエックス文庫DIGITAL
紫かわいいよ紫
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前作の「紅 ~醜悪祭~」からもう6年経ってしまったそうですが、6年と言うと「『崩月流甲一種第二級戦鬼、紅真九郎』!うおー、 かっけー!!」と(心の中で)叫びつつ読んでいた中二病を患っていた人もとっく…に成人して、「『紅』? まだやってたんだ、あれ」と言いそうなくらいの歳月ではあります。原作が出ないもんだから、途中からオリジナル展開になっていたコミックス版(これはこれで割と面白かったのですが)もいつの間にか完結していて、もう続きは読めないものと諦めていたので、ダッシュエックス文庫から続編が刊行されると聞いて、人間真面目に生きていれば良いこともあるんだなあ、としばし感慨に耽ったものでした(ごめん、ウソついた。そこまでしみじみしなかったわ)。
さて、そんなわけで久方ぶりの本作ですが、なんで急に悪宇商会と手打ちしてるんだよとか本作のヒロインが登場した途端にその後の展開が全部分かったような気になったけど最後までその通りに話が進んじゃったよとか紫かわいいよ紫とか、いろいろと言いたいことはあるのですが、復帰第一作目としてはまぁ、こんなもんじゃね? なによりこれが売れてくれないと続きが読めなくなりそうだし、読めてもまた6年後なんてことになるとそれまでわたしが生きていられるか割と際どいので、みんなで読もうお願いだから。
ただ、本作からいきなり読んでも正直分わけが分からないよ!状態だと思うので、どうせ読むなら全作読んでもたったの4作なので最初から読むことをお薦めします。とりあえず、紫かわいいよ紫と(心の中で)呟きながら読めばいいと思うよ。
終わりだよ~
(o・∇・o)/
続きを読む投稿日:2015.03.21
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800
川島誠 / 角川文庫
今、800m全力疾走なんかしたら確実に死ぬね
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三浦しをんの「風が強く吹いている」や、佐藤多佳子の「一瞬の風になれ」などの、<爽やか青春陸上競技もの>(今、適当に名付けた)の元祖、とまでは行かないまでも、先駆的な作品であるのは間違いないと思います…。
もちろん川島誠なので、なんちゅうかこう、もっと「ギラギラ」してると言うか、「爽やか」なだけじゃないと言うかそんな感じですが、スポーツ物が好きな人は読んでみるといいんじゃないかな。
あと陸上競技物では、川上健一のマラソンを題材にした「ららのいた夏 」という作品があって、それもReader Storeで買えるのでそちらもお薦め。 続きを読む投稿日:2013.10.18
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これは王国のかぎ
荻原規子 / C★NOVELSファンタジア
ファンタジー作品の入門にうってつけの一冊
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今、<日本三大ファンタジー>シリーズを選ぶとすると、小野不由美「十二国記」シリーズ、茅田砂胡「デルフィニア戦記」シリーズ、上橋菜穂子「守り人」シリーズあたりが有力かと思いますが(なお、反論は認める)…、荻原規子の「勾玉」三部作や「西の善き魔女」シリーズもいいところまでいくんじゃないでしょうか?
本作はそんな荻原規子作品を初めて読む人にも、「ファンタジー? 所詮子供向けで大人の鑑賞に堪えるようなものじゃないだろ?」と分かったようなことを言って敬遠しがちな「いい大人」な皆さまにも、うってつけの一冊となっております。
いや、確かに上↑の凡庸で陳腐な「書籍説明」を読んだ限りでは、そう思ってしまうのも無理も無いことだとは思いますが、そうやってこの先もずっとこのジャンルの作品を避けて通るのは、もったいなさすぎて<もったいないおばけ>が出ますよ?
取りあえず、だまされたと思って読んでみるのをお薦めします。電子書籍なら表紙イラストが恥ずかしくて買い辛いこともないし、1巻で完結してるので読みやすいしね。あと新潮社は「十二国記」の新作書下ろし長編を早く出すように。「十二国記」の新作書下ろし長編を早く出すように。(大事なことなので2回書きました) 続きを読む投稿日:2013.10.26
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あなたに似た人
ロアルド・ダール, 田村隆一 / ハヤカワ・ミステリ文庫
あなたにも似た人、わたしにも似た人
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なにやら二分冊の[新訳版]とやらも出ているようですが、わたしが読んだのはこちらの版なので、こちらでレビューを書きます。
そんなわけで、江戸川乱歩の造語であるところの「奇妙な味」と呼ばれる作品は多…々ありますが、本作はその中でも代表的な短編集と言ってよいでしょう。なにせ記憶力にモンダイがあり、読んだ本のストーリーを端から忘れるこのわたしですら、「味」、「南から来た男」、「おとなしい凶器」と、三篇ものストーリーを覚えているのですから! もっとも、全部で十五篇収録されているので、1/5しか覚えてないんですけどね。
それはさておき、この三篇はホラーでもなくミステリでもなくSFでもなく、まさに「奇妙な味」としか呼べない傑作短篇で、普段あまり海外物の短編集などに手を出したことが無い人には特にお薦めです。あと早川書房は<異色作家短篇集>を電子書籍化するなら、マシスンの「13のショック」とフィニィの「レベル3」を早く電子化するように。 続きを読む投稿日:2013.10.26