luteceさんのレビュー
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サガとエッダの世界 アイスランドの歴史と文化
山室静 / 現代教養文庫ライブラリー
北欧神話とアイスランド
3
ムーミンの翻訳で有名な故山室静氏によるアイスランドの歴史と文化の紹介本。北欧神話の原典であるエッダとサガの名がタイトルにあるが、エッダとサガの紹介のみにあらず。前半はこれら原典(『植民の書』(12世…紀)など)をもとに、創作の可能性も示唆したうえで、アイスランドの歴史を大雑把に点描。後半はエッダとサガの内容に踏み込んではいるが、あくまでも紹介程度。この辺りをもう少し掘り下げたい向きには、谷口幸男さんの『エッダとサガ』のほうが好適。もちろん一番は原典に触れることだろうと思う。幸い邦訳もあることですし(同じく谷口幸男『エッダ』『アイスランド・サガ』)。エッダは短いのでわりとすぐ読めるが、サガは長大なものも多そう。本書末尾にはアリの『アイスランド人の書』全訳が付されている。
アイスランドに初期に入植したのがケルト系の人々というのが、本書を読んで一番の驚きでした。アイスランドとアイルランドの不思議なつながり……。
この方の翻訳は逐語訳的すぎてえらくわかりずらかったりしますが、著書となるとそうでもないらしい。長野県佐久市に「山室文庫」があるそうで、ちょっと行ってみたい。
続きを読む投稿日:2014.07.12
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幻想博物誌
澁澤龍彦 / 河出文庫
幻獣入門に
2
神話などに登場する、さまざまな幻獣を紹介したエッセイ。時おり昆虫や海胆や貝なども出てくるが、あとがきにあるように、プリニウスの『博物誌』のうち8〜11巻の動物の部を特に参照したらしく、幻獣が中心。
… RPGに出てきそうな幻獣がいっぱい出てくるけれど、名前を知ってはいても元ネタの神話などはおぼろにしか知らない場合も多く、全体に非常に興味深かったです。
スフィンクス、バジリスク、フェニックス、サラマンドラ、ケンタウロス、などなど。
とりあえず、プリニウスは必読のようだ。ボルヘスの『幻獣辞典』もわりと頻出したので、再読しようと思う。ちなみに表紙絵は『ベリー公のいとも豪華なる時祷書』。
博物学が面白い気がしてきたので、荒俣宏なんかも読んでみる。 続きを読む投稿日:2014.07.06
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私のプリニウス
澁澤龍彦 / 河出文庫
プリニウス入門に
2
まさに澁澤龍彦のプリニウス、『私のプリニウス』。気まぐれにふと開いてみたページを読みつつ、澁澤の関心のおもむくままに紹介していく感じの本。まあエッセイ(随筆)というのは基本的にそういうものだろう。
… プリニウスは澁澤によると随分と虚言癖というか、見てきたような嘘をつく人のようで、『博物誌』はそれ自体がすでにして創作、文学に類するものらしい。アリストテレスなどからの孫引きも多数。むしろ想像界(イマジネール)の博物誌と言えなくもないかな、と思う。
『博物誌』は和訳も存在するけれど、五巻にわたる浩瀚な書物であることと、図書館で参照するにもやや困難だったりするので、こちらのエッセイを入門的に読むのがいいと思う。引用が多いので、一応原典を参照しているような気分になる。正確なところを知りたければ、原典を当たるしかないがそこまでの用はないという場合、さらっと知りたいような場合に読むのがよろしい、と思いました。 続きを読む投稿日:2014.07.06
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黒魔術の手帖
澁澤龍彦 / 文春文庫
若干クセはあるけどオカルト入門に良い
2
60年代、某雑誌に連載された澁澤龍彦のエッセイ集。
83年に文庫化された際にも手を入れなかったそうで、表現や訳語が古めかしかったりするが、21世紀の今でさえ内容の面白さは全く色褪せることがない。魔…術、占星術、錬金術、呪い、タロット、観相学、妖術、サバト、悪魔礼拝、ジル・ド・レーなどなどオカルティズムに括られる様々な話題について軽妙洒脱に語ったエッセイ。怪しげな雰囲気を芬々と撒き散らせつつも、別に迷信やカルトに誘うような本ではないので、ご安心を。むしろ、澁澤の筆は明晰かつ批判的だと思う。エッセイなので読みやすく入門向けとも思うが、古めの文章そのままなので、今ならきっとこう訳される、という訳語も多く、他の本で予備知識を身につけてから読んだほうが、迷いは少ないだろうと思う。解説にもある通り、さらっと言及してなんのことか説明してくれないのが澁澤流のペダンティズムらしいので。西洋オカルティズムに興味をお持ちの方には面白い本だと思います。そして、当然だが実践的ではない。
著者が参照している主なネタ本はおそらくジュール・ボワ(ユイスマンスの弟子)とエリファス・レヴィだと思う。彼らが研究している原典も当たっているだろうけれど、孫引きが多いかもしれない(と、予想)。六十年代半ば、安保闘争かしましい頃に書かれたとのこと、何とも皮肉なものを感じてしまう。 続きを読む投稿日:2014.07.05
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夢の宇宙誌
澁澤龍彦 / 河出文庫
『胡桃の中の世界』前史だが……
2
『胡桃の中の世界』前史。澁澤好みのテーマのいくつかについて。自動人形、庭、ユートピア、怪物、錬金術、ホムンクルス、天使、両性具有、エロティシズム、世界の終末など。他書と一部かぶっていたりはするが、違…う文脈で出てくるだけで色合いを違えて見えてくるから不思議。 続きを読む
投稿日:2014.07.06
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胡桃の中の世界
澁澤龍彦 / 河出文庫
出てくるテーマがいちいち興味深い
1
澁澤龍彦のエッセーの中では手帖シリーズと『幻想博物誌』が今のところお気に入りなのだが、本書もいいですね。澁澤の博覧強記ぶりが実に際立っている。どんだけ色んな本読んでいるんですかと読むたびに思う。結晶…、螺旋、宇宙卵、賢者の石、動物誌、紋章、怪物などなど自分好みのテーマが盛りだくさん。形象の想像誌という点において、夢の宇宙誌に連なるエッセイ。いつもながら、文学作品や哲学からの引用を交えて語るところはひどく衒学的だが、まったく嫌味がない。やっぱり自家薬籠中のものにしているからですかね。 続きを読む
投稿日:2014.07.06