おひさまさんのレビュー
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コズミック 世紀末探偵神話
清涼院流水 / 講談社ノベルス
三国志のごとく、面白いキャラクター小説
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この小説はミステリーではありません。
いわゆる謎解きを楽しむ本格ミステリーではありません。ホームズのような名探偵の活躍を楽しむ名探偵小説なのです。探偵と殺人事件という構成要素のため、ミステリーに…分類されていますが、どちらかと言うとファンタジーや大河ロマンものに近い物語です。
この本が壁本と呼ばれるのは、本格ミステリーとしては最低だからです。
おそらくほとんどのミステリー愛好家は最初の事件の話を読んだ時に、真っ先にトリックに気づきます。だけど、まさかこんな簡単なトリックのはずがない、きっと自分では想像もつかないすごい真相があるのだろう、と期待して読み進めて行きます。
とてもキャラクターが魅力的で、かなり面白い小説だから、これ程の長い物語も一気に読めてしまいます。
そして、最後の真相にたどりつきます。そこでミステリー愛好家は思うのです。「最初の想像通りの一番つまらないトリックじゃないか!」と。「真犯人の正体なんてただの言葉遊びじゃないか!」と。そして、怒りにまかせて本を壁にたたきつけてしまう。
しかし、それは途中の物語の面白さの反動なのです。
この小説は三国志などと同じ楽しみ方をする物語なのです。ほとんどの読者は物語を読むまでもなく、最終的には曹操が劉備、孫権に勝つ、と歴史として知っています。しかし、それでも最後には負けると知っていても、劉備、関羽、張飛の活躍を楽しみに読むのです。諸葛亮孔明の智謀をもってしても蜀の衰退は免れません。それでもやはり諸葛亮孔明は最高の軍師なのです。最後に倒されるとしても呂布は最強の戦士なのです。
それと同じように、この小説は名探偵たちの活躍を楽しめば良いのです。落ちのトリックがどうこう言うのは無粋なのです。
大河の流れのごとき大事件の中で現れ消えていく人物たちの活躍を楽しむのです。
それをして、作者の言う「大説」≒大河小説ということだと、私は思います。
さぁ、最後まで読んで落ちを知ったあなた、もう一度この物語を読んでください。魅力的な名探偵たちの活躍は、何度読んでも面白いと思いますよ。そして最初に読んだ時には気づかなかった作者の仕掛けた色んなものを発見することができると思います。 続きを読む投稿日:2020.12.13
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密造人の娘〔新版〕
マーガレット マロン, 高瀬 素子 / ハヤカワ・ミステリ文庫
傑作シリーズの第1作目
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デボラ・ノットシリーズの第1作目。
南部アメリカの緻密な描写が素晴らしい。作者の生まれ故郷でもあり、ニューヨークなどの大都市とは違う田舎のまだ色濃く残る女性蔑視や人種差別がある地方が舞台。
…
密造酒を製造していた地方の大物の孫でもある主人公が弁護士として活躍する。日本で言うと地方のヤクザの大物の孫娘が正義の弁護士になるようなものか。なかなか骨太なシリーズである。
20作を超えるロングシリーズの第1作目であり、主人公を取り巻く人間関係などはまだまだこれからという感じだが、続編を期待したい。
過去に4作まで出版されていたが、電子化はまだこの1作目のみ。未邦訳の残りのシリーズも期待したい。 続きを読む投稿日:2022.09.17