nannryouさんのレビュー
参考にされた数
1150
このユーザーのレビュー
-
マルクス・アウレリウス「自省録」
マルクス・アウレリウス, 鈴木照雄 / 講談社学術文庫
五賢帝の哲学皇帝
11
マルクス・アウレリウスの一冊です。
この作品は自分自身を戒める自省録であり、おそらくは後世のローマ人を戒めるために保存された帝国の遺産の一つであったのでしょう。端々に、キリスト教やローマ多神教以外の宗…教に対して背を向けるべきだという主張が見えかくれします。
また、皇帝ですらこの立場に過ぎないという徹底したリアリズムと、そのリアリズムを決してわかろうとしない人々さえも理解しようとする皇帝のストア哲学の実践上現れた究極のリアリズムが記された歴史上の記念碑です。
…それにしても、耳が、耳が痛い。
わがままな現代市民の感想でした。 続きを読む投稿日:2017.03.12
-
SF JACK
新井素子, 上田早夕里, 冲方丁, 小林泰三, 今野敏, 堀晃, 宮部みゆき, 山田正紀, 山本弘, 夢枕獏, 吉川良太郎, 日本SF作家クラブ / 角川文庫
SFとファンタジーの境目
9
総じて上手い。
少し古めかしい感じもするロボット三原則を基にした機械への移入の話、ESPもの、ファンタジー、現代資本主義のポスト構造化の身分感、世代の断裂を起こす技術への達観、無抵抗主義の楽園と没落、…そして夢枕獏ワールド。
名をとげた作家が描いているのでおおむね平易に読めながら楽しめる。
いくつかの作品は長編を短編に押し込めているようで窮屈にも感じるが、その長さが良いようにも感じます。
SFももう歴史が長いので読者の肥えた目線に耐えうるかどうかは切実だなあと感じます。
現代小説には科学技術は欠かせませんから、ある意味では現代小説はSFを飲み込んでしまったのかもしれません。
と言っても私の日本小説観は大江健三郎と村上春樹で止まっていますが…。
星5つ。 続きを読む投稿日:2017.04.08
-
北欧神話と伝説
ヴィルヘルム・グレンベック, 山室静 / 講談社学術文庫
北欧神話!
9
神話の割合が3割程度で、半人半神の争議の割合が7割と言ったところでしょう。
巨人族と神々の話はさらさらと読めるのですが、神の子孫を名乗る半人の世界に入ると途端に人名の羅列に頭がゴルディアスの結び目状態…になります。
ニーベルンゲンの指輪とは異なったジークフリードのお話は興味深かったです。
描写上、どうしても巨人やトロールの姿や、神々の姿が思い浮かばないのですが、まあ面白かったのでよしとします。
ある意味古典の資料集ですから、これを基にライトノベルでも書いて新人賞にでも送りつけてやろうかとも思いましたが…。
とにかく何百年もかけて練り上げられた神話は出来が良く、記憶に残るエピソードが多いです。
星は5つ。 続きを読む投稿日:2015.08.07
-
マインクラフト 革命的ゲームの真実
ダニエル・ゴールドベリ, リーヌス・ラーション, 羽根由 / 角川学芸出版単行本
夢の体現者
8
マインクラフトが買いたくなります。そしてこの本は現代の情報科学をプレイするプレイヤーたちが見る夢を追体験させてくれます。
私も企業したいなあ。起業したいなあ。起業したいなあ。
だが、
社会Lvが足りな…い。
技術Lvが足りない。
資金Lvが足りない。
…。
一ゲームファン、ゲームクリエーターとしての態度を崩さないマルクス氏についての記述を見ると、多少のお手盛りはあるにしても感慨と感心を抱かずにはいられません。
それにしても現代は表現の手段が本当に多様化していると思います。
現在の文学部の代わりにゲームを含めたエンターテイメント全体を扱うような形に代わっていくのでしょうか?
科学と人類の未来とゲームの未来を祈って。
星5つ。 続きを読む投稿日:2017.01.31
-
アルゴリズムが世界を支配する
クリストファー・スタイナー, 永峯涼 / 角川EPUB選書
時代
8
何を行うにもまず金がほとんどのことを決める。
その後に、評価が決まり、正しさが導かれる。
資本主義への信頼が無ければ生まれない本です。
金融資本主義への幻滅と、アメリカ経済の復活の流れを見せながら、技…術発展の基幹とあくまでそこにいる英雄たちの人間味がよく伝わってきます。
トランプ政権になり、世界の中心は新古典派の精緻な理論と既存経営者のむき出しの資本主義が支配する時代となりました。IT業界の真価が問われているのでしょう。
とにかく、ITとベンチャーには夢が詰まっています。ウォールストリートの20万ドルの年俸を蹴って自分を試すというのはロマンですねえ。
星5つ。 続きを読む投稿日:2017.02.21
-
ご冗談でしょう,ファインマンさん 下
R.P.ファインマン, 大貫昌子 / 岩波現代文庫
ファインマン先生の人生は科学の言葉で描かれている…。
8
綺麗です。
人生も、思想も、科学に対する姿勢も、読み手との向き合い方も。
極上のエッセイを読んだときこういう気持ちになります。
ファインマン先生が体現するアメリカそのものの美しさに少し感動します。
科…学というものは善良でなければならないのです。
何事も自分自身が体現しないと納得しないファインマン先生の好奇心と、そしてそこからつながる、科学の再現性とコモンセンスの大事さがよくわかる一冊です。
科学の論理は、理論を尽くして、手を動かして、データと照合して、実験すれば誰もが同じ結論にたどりつくのです。
だからファインマン先生の一貫した人生観と遊びに満ちた人間性の理解に皆惹かれるのかもしれません。
星5つ。 続きを読む投稿日:2017.03.24