麗しの聖母ひょうさんのレビュー
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三浦綾子 電子全集 氷点(下)
三浦綾子 / 三浦綾子 電子全集
恋とは憎しみだろうか
2
妻・夏枝の「不倫」の最中に、娘・ルリ子が殺された啓造は、
夏枝を苦しめるために、夏枝に隠して、ルリ子殺しの犯人の娘・陽子を引き取り、
夏枝に育てさせる。
ルリ子の身代わりにと、陽子を溺愛する夏枝。
が…、ふとしたことから真実を知った夏枝は、どうしても陽子を愛せなくなり
一転して、陰湿な「継子いじめ」が始まる・・・。
後編では、この陽子が高校生に成長し、
青年・北原との出会い、そして恋が描かれる。
今まで、明るく素直だった自分が
北原の前では、思い通りにふるまえない・・・
そんな「恋する自分」に戸惑う陽子。
そして、北原が別の女性と歩いているところを目撃し、
嫉妬心は一気に爆発する。
逢いたいのに、許せない。
許せないのに、なつかしい。
自分の心なのに、自分の思うように動いてくれない思い。
そんな自分に戸惑い、陽子はつぶやく。
「恋とは、憎しみだろうか」
と。
このあたりの初々しい描写は、
作品発表後50年たつ今も、そのみずみずしさは色あせていない。
そして、いくつもの誤解や行き違いを超えて、
結ばれようとする二人に、母・夏枝は言い放つ。
「北原さん、この人(陽子)の父親は、ルリ子を殺した犯人ですのよ」
結末がどうなったか・・・
それは、ぜひとも、直接読んでいただきたい。
新聞連載当時、読者からの手紙が殺到したというそのシーンは
涙なしでは読めない哀切さに満ちている。
続きを読む投稿日:2013.11.07
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海の底
有川浩 / 角川文庫
実は、子供たちの自立の物語
2
巨大甲殻類に襲われた子供たちが、自衛隊の潜水艦に避難した。
小学生から高校生までの15人、その中に少女がひとり。
主役の自衛官2人は、子供たちを無事に親許へ返すために
大車輪の働きを見せ、もちろん、そ…こがこの作品の一番の見どころだが
この少女こそが、実は本編の主人公じゃないかと思う。
複雑な家庭環境に育ち、何もかもに遠慮がちなこの少女が、
密室の中で、危機に直面して
中途半端な自分の生活を一変させ、
強くなっていくのが、自衛隊とエビの戦い以上に印象的。
そういう意味では、女性におすすめの一作。
続きを読む投稿日:2013.10.15
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三浦綾子 電子全集 道ありき 青春編
三浦綾子 / 三浦綾子 電子全集
結納の日に発病、絶望の果ての自殺未遂、そして
1
これが実話だという。
24歳、結納が入る日に貧血で倒れ、そのまま肺結核と診断され
療養生活に入る著者。
婚約者は誠実な人だったが、当時は肺結核は不治の病、
婚約解消を決意した著者は、自殺を決意するが途…中で止められ、未遂となる。
その後、13年に及ぶ寝たきりの生活。
望みは、自分の足で立ち、トイレに行けること。
ベッドの上に起き上がって、自分で自分の食べ物を見て食べられること。
すごい人生である。そこらのワイドショー顔負けである。
何度も書くが、実話である。
そんな過酷な療養生活を、著者はこう表現する。
その日々は「青春」だったと。
人間にとって、生きるとは何か、
どうしたら人間はこれほどの苦難を耐えて強くなれるのか、
キリスト教の教えに裏打ちされたひたむきさに
強く心を動かされる名作。
前半の「苦悩編」と、後半の「復活編」との対比もあざやかで
読み終わって、とてもさわやかな気分になれる。
ちなみに私は、紙の書籍で2回買った。
(読んでるうちに傷んでしまったので)
電子書籍なら、何度読んでも大丈夫。まことに結構である。
続きを読む投稿日:2013.11.07
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八日目の蝉
角田光代 / 中公文庫
「やさしかったお母さんは、私を誘拐した人でした」
1
映画のコピーである、この一文だけで
すべての内容がわかる。
そして、
映画と原作では設定が違うが
子どもを奪い去られた実母も、また哀れである。
誰もが「悪くない」のに、みながズタズタに傷ついてゆく切…なさ。
自分ならどうしただろうと、
読み終えたあとも考えさせられた。 続きを読む投稿日:2013.11.09
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和菓子のアン
坂木司 / 光文社文庫
読む人の教養が試される一冊
1
主人公アンちゃんが「水無月」を知らないのに驚いた。
京都では、6月のあの季節、みんな買う菓子だが、
他の地方では、無名の風習だったのか。
という風に、
和菓子のことで勉強になる一冊であり、
読み終えた…あとは、日本茶が飲みたくなる気分だ。
その他、デパ地下の裏事情っぽい部分も描いており
食品偽装の昨今、タイムリーかも。
全体的には、ミステリー仕立てでうまくまとめてあり、
たのしく面白く読めると思う。 続きを読む投稿日:2013.11.13
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井伊直虎 女にこそあれ次郎法師
梓澤要 / 角川文庫
まさに女子(おなご)の直虎
1
NHK大河ドラマの「おんな城主直虎」、
高殿円「剣と紅」
そして本書を読み比べると、
とても同一人物とは思えないほどの
造形の差に驚きます。
どの直虎が一番史実に近いのか、
読み比べてみるのも一興か…と思います。
個人的には、この梓澤要さんの描く直虎が
一番、「おなご」かなと思います。
恋愛要素も一番濃い印象があります。
歴史小説というより、数奇な運命の元に生まれた一人の姫の
物語というのが近いと思います。
続きを読む投稿日:2017.05.04