マルティン☆ティモリさんのレビュー
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79
このユーザーのレビュー
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だれがコマドリを殺したのか?
イーデン・フィルポッツ, 武藤崇恵 / 東京創元社
まず小説を読む楽しさがあり、そして最後に…
5
読み始めてから、半ばあたりまで読み進んだあたりで、これホントに推理小説なの?と思ってしまった。
推理小説の常道として思い浮かぶのは、まず死体があり探偵が登場、関係者が尋問され、さらに謎が深まって…とい…う流れだが、この小説では、探偵は冒頭に登場するもすぐにどこかへ行ってしまう。
その後に延々と続くのは、ある男女(男の方は探偵の友人)の燃えるような恋愛、結婚、失意、そしてその二人を取り巻く人たちの人間模様。よって、ここを楽しめるかどうかがこの作品を好きになれるかどうかの分かれ目になるんじゃないかと思う。僕は大変楽しめました!
後半(ここで初めて登場人物のひとりが死ぬ)に入ると少しミステリっぽくなってきて、読者も真相についてあれこれ思いを巡らせながら読み進むこととなる。ここで前半の丁寧な人物描写が生きてくるんですね。しかもやっと帰ってきた探偵が驚きの真相についてちらちらと仄めかすものだから、読む方はさらに物語の中へと引きこまれてゆく。最後は古典ミステリにもかかわらず展開がまるでアクション映画的。そのまま一気にに頂点に達した後、驚くべき真相が明らかになる。
物語を読む楽しさを満喫しました。ちょっと2時間ドラマみたいでもあった。2時間ドラマ、お好きですか?僕は結構好きです!
続きを読む投稿日:2015.06.12
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イタズラなKiss(フルカラー版) 1巻
多田かおる / ミナトプロ/エムズ
作者の最高傑作にして遺作
5
こっ、これほどの名作のレビューがまだ書かれてない!?こりゃ、後進の若い読者に作品を紹介するためにも自分で書かなくっちゃ!そう思ってとりあえず1巻だけを購入…のはずが、読みだしたら止められなくなってさ…っきから2巻、3巻と購入・ダウンロード。ずっと読み続けてます。このまま最後の23巻まで行くのは必至。ってことはこのあと数日間は琴子ちゃんや入江くんと一緒に過ごせるんだ!何てシアワセ!!!
ご存知、天才入江君と、学業成績はまぁわきへ置いとくとしてメゲないことにかけては誰にも負けない琴子ちゃんの、偏差値の垣根を超えたラブコメディです。
この両極端な主役ふたりの魅力に加えて、思考がメルヘンの世界に遊ぶ入江ママ、大阪弁の金ちゃんなど、ふたりを取り囲む脇役たちがまたまた素晴らしい!笑いのツボをあちこちつつかれ、こちらはもう悶絶状態!次々繰り出されるギャグに合わせて多田さんのダイナミックな描線が踊ってる。
でも、この物語は23巻の最後で、たしか新たな展開を予感させながら突然に終わるんでしたね…作者の多田かおるさんが急逝されたため、入江くんも琴子ちゃんも、多田さんと一緒に青い空の彼方へと消えてしまった…
多田さん、ありがとう。これからも何度も読みかえしたいです。そして、たくさんの人に読んでほしい、この漫画読んで、みんなで笑って幸せになりましょう!
続きを読む投稿日:2014.03.28
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善人ほど悪い奴はいない ニーチェの人間学
中島義道 / 角川oneテーマ21
中島氏がニーチェと奏でる二重奏
5
中島氏の本は好きで良く読んでいるが、その中でも特に引きこまれて読んだ一冊。とても面白かった。
で、まずこの本の題名だが、「善人」とはもちろん良い意味でつかわれているわけではなく、親鸞の「善人なおもて往…生をとぐ」の「善人」であり、無自覚で鈍感、自己の姿を顧みる事の少ない人間をさしている。そして本の内容はといえば、この「善人」についての考察が全てかというとそうでもなく、「善人」をテーマとしながらも、全体を読んだ印象としては寧ろ『矛盾のニーチェ』とか『ほんとうのニーチェ像』とかそんな題名が浮かんでくる。
しかし、「善人」そのものについて論じられている箇所が大部分を占めているのは事実であり、実際、そういう部分が読んでいて特に魅力的であった。
さて、本の中で中島氏は時にニーチェと距離を置き、「善人」というキーワードを通してニーチェの人物像を批判的に描き出していく…のだが、そればかりでもない。
ひとたび「善人」そのもの(=ラクとトクに最高の価値を置く人間群)について論じ始めるやその舌鋒はとどまるところを知らず、まるでニーチェが乗り移ったかのよう。現代日本の風景にまでニーチェ(=中島氏)の鋭い眼光がおよび、読んでいるこちらも自分はひょっとして「高貴な者」なんじゃないかと思い込みそうになるほどに気持ちが高揚してくる。(だが、そこは哲学者中島氏、そんな頃合いを見計らったかのように、ちらと警句を発して手綱を締める、といった具合。)
これはヴァイオリンソナタだなと思った。
心のままにヴァイオリンを奏でるニーチェ。
それを時には共に高揚し、また時には行き過ぎるヴァイオリン(と聴衆)の手綱を締める役割も担う、酸いも甘いも噛み分けた名ピアニストの中島義道氏!
最後には中島氏の冷静さが勝り、ニーチェの内面の矛盾、ニーチェの「善人」性までもが白日の下に晒される。
読んで、ニーチェという存在を哲学者と呼ぶのは適当ではないなと思えてきた。
この本から感じたのは、ニーチェとは実に特異な(そして極端な)人物であり、その内面のドラマが哲学というよりは文学作品のようだということ(名著「ツァラトゥストラ」もニーチェ個人の恨み節に思えてくる)。
「オレも頑張ってヤセ我慢して生きてきたんだぜ。だから、自分がこれまで必死で克服してきたつもりになっている対象を目の当たりにしたとき、そんな時にはもうその対象を、心の底から嫌悪せずにはいられないんだ…」なんてニーチェのつぶやきが聞こえてきそうだ。 続きを読む投稿日:2015.05.15
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管理人の飼い猫
E・S・ガードナー, 能島武文 / グーテンベルク21
解決はイマイチ、でもこの作品には別の魅力がある。
4
弁護士ペリーメイスンシリーズは水戸黄門や遠山の金さんに似ていると思う。というのも常にクライマックスは法廷でのメイスンの弁論であり、これが水戸黄門における印籠の提示や金さんの御白洲でのもろ肌脱ぎと同様、…「ああ、いつも通りのメイスンだな」と、シリーズに馴染んだ読者に安心感を与えるからだ。(ただし法廷のシーンのない作品もあります)
さてこの作品について…
僕は本作も、やはりいつも通りに楽しく読み終えた。しかし正直言うと、メイスンが法廷で述べた解決は確かに意外性もあり筋も通ってはいるのだが、何か無理があるようにも感じた。真相がどこかスカッとしていない。メイスンの語りにも、なぜそこまで見てきたかのように話せるのかという不自然さを感じずにはいられなかった。(よって星三つ)
でも、読まなきゃよかったなんて思ってませんよ!
今回のこの作品には別の魅力がある。それは秘書のデラ!
有能なメイスンの片腕、だが鉄の女ではない。なぜってメイスンへの秘めた気持ちがその振る舞いの端々に感じられるから…いや、本作ではもっと大胆な行為に出てその場面ではドキッとしてしまった。そしてメイスンもいつになく彼の人生観を語っているぞ。
今回はメイスンに相対する悪徳弁護士も登場。息詰まる対決が見られるのかと思いきや、相手の小物感が何とも半端じゃなかった。メイスンの敵となるには全くの役不足。でもこれで良いのだ。メイスンはいつも頼りになる男、まわりは所詮引き立て役でいいんです(デラは別です)。
ペリーメイスンシリーズは現在、紙の本では絶版となっている。
僕なりにその理由を考えてみると、このシリーズには、ポワロの「アクロイド」やクィーンの(いやドルリーレーンのというべきか)「Yの悲劇」に匹敵するような、「一冊選ぶならコレ!」という看板となるような作品が無いからなのかもしれない。
でも馴染んでしまうと次から次へと読み続けたくなります。
黄門様の印籠を毎週拝まなけりゃ何だか落ち着かなくて、ついついテレビをつけてしまうのと同じ。
僕は遅れてきた読者なのかもしれないけれど、電子で読める限りは読んでいきたいな、ペリーメイスン。
続きを読む投稿日:2015.09.12
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吠える犬
E・S・ガードナー, 小西宏 / グーテンベルク21
果たして犬は吠えたのか?
4
メイスンのもとにやってきたのは、隣家の奥さんに財産を残したいという奇妙な依頼人。彼は隣家の犬が吠えて困ると言い、隣家の主人は犬は吠えていないという。そして殺人事件が…。
法廷闘争のために反則ギリギリの…手段を講じるメイスン。お約束の法廷場面ではメイスンのまいた種が見事に実を結び、畳み掛けるような展開の後に、例によって自信満々の検察官の鼻がへし折られる。
法廷場面の後にも新たな展開が待っていて最後まで飽きさせない。
今となっては電子版でしか読めなくなってしまった弁護士ペリーメイスン・シリーズ。作者のE・S・ガードナーはアベレージヒッターだけに、シリーズに駄作はないけれど、とりわけこれはもう紛れもない傑作です!
続きを読む投稿日:2014.01.28
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星からの1通話
黒井千次 / 講談社文庫
一言で言えばショートショート『小説』です。
3
ショートショート小説と聞くと、オチのある軽い話というイメージがある。僕は黒井氏については小説『春の道標』を読んで(あと新聞の夕刊に連載のエッセイで)名前を知ったので、上の紹介文にあるような「ショートシ…ョートの奇才」という印象はなかったのだけれど、その黒井氏がどんなショートショートを書かれるのか興味があって購入した。
素晴らしいです!
最初に思っていたようなオチのある読み物ではなく、一篇一篇が日常に端を発しながら、最後には不思議な非日常の世界へ連れて行ってくれる。しかも文章がショートショート調の軽いものではなくて、短いながらも実に『小説』らしい文章なので、ちょっと小説が読みたいけど疲れていて短編にすら手が伸びないような夜には、この本を開けばほんの数分で『小説』が味わえる。僕は一篇だけ読んだらその余韻を楽しみながら眠りに就く事にしています。
ところで、先に書いた同じ作者の名作『春の道標』、現在は紙の本でも廃刊になっているようですね。これも是非、電子版で復刻してほしいものです。 続きを読む投稿日:2014.10.22