無垢の時代
イーディス・ウォートン(作)
,河島弘美(訳)
/岩波文庫
作品情報
一八七〇年代初頭,ある一月の宵.純真で貞淑なメイとの婚約発表を間近に控えたニューランドは,社交界の人々が集う歌劇場で,幼なじみのエレンに再会する――.二人の女性の間で揺れ惑う青年の姿を通じて,伝統と変化の対立の只中にある〈オールド・ニューヨーク〉の社会を鮮やかに描き出す.ピューリッツァー賞受賞.
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商品情報
- シリーズ
- 無垢の時代
- 著者
- イーディス・ウォートン, 河島弘美
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波文庫
- 書籍発売日
- 2023.06.15
- Reader Store発売日
- 2024.03.28
- ファイルサイズ
- 3.3MB
- ページ数
- 588ページ
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この作品のレビュー
平均 5.0 (2件のレビュー)
-
書き出しがすばらしい。映画の歴史大作を思わせ、まるで壮大なオペラの幕開けのようだ。しかしそれからしばらくは、19世紀後半のニューヨークの時代背景や、上流階級でのみ通じる複雑なしきたりや人間関係を詳細に…描こうとするあまり、私たち現代人からすると退屈ともとられかねず、読み飛ばしたい衝動に駆られるかもしれない。
だが、そんな読むのに忍耐が必要な描写が続くのは第一部の最後から1つ前の章の第17章まで。そこまでは何とか読み進めてほしい。なぜなら第18章以降、主人公ニューランドとエレン・オレンスカ伯爵夫人の2人が織りなす物語は、ラヴェルのボレロのようにクレッシェンドしていくからだ。
それは私たちが思い描くような姿での恋とは言い表せられない。同様に愛とも言い難い。だが2人が第18章でお互いの心のうちを告白し合い、その後出会うたびに深められてゆく思慕の念は確かに恋であり愛だと言えるだろう。ただそれらは私たちの通俗的な想像をはるかに越えた姿かたちをしているがゆえに、そう簡単には読み解けないだけだ。
そうは言うものの、本書の新しい訳文は現代的な言い回しで占められ、(本当にその訳文で原文の本意を満たしているのかという議論はあるが、)500ページ以上というボリュームの岩波文庫としては比較的読み進みやすいはず。
そして本編最後のページである550ページ目。この物語の最後の2行によって語られるニューランドの行動は、ここまで読み進めてきた読者の期待とまったく正反対のものだろう。しかし彼にとってはこの結末以外は絶対にありえない珠玉のものだ。
この2行の真意、つまりなぜニューランドがそのような行動をとったのかを理解できるかどうかが、読者自身が人生を味わい深く過ごしてきたかどうかの指標ともなりうるのではないか。まるで自分の人生の密度や深淵さを見積られるようで恐ろしい。だが彼の行動は他人の目や財産やしがらみといった外的要因から一切離隔されており、読者自身に対して自由で正直でinnocenceな生き方をしているかを問いかけているようでもある。続きを読む投稿日:2023.11.20
このレビューはネタバレを含みます
まだ途中だが、ニューヨーク上流階級の話。これは映画化されたのち原作として読むと面白いやつかも。
レビューの続きを読む
…そして読み終わった。
そしてスコセッシ(いつも苦手な作品の監督なのだが)がすでに映画化してたとことに気…づいた。
アメリカの歴史があまりにわかってないから、スコセッシの作品もピンとこないのかなー。とこの本を読んで思い当たった。
1870年代のニューヨークがこんなに「保守的」であったとは。アメリカの歴史をあまりわかっていない為、こんなにも「自分たち」の様式に執着し「自分たち」と「そうでないもの」を意識するとは、と少し驚く。とりわけヨーロッパとアメリカは違う(もちろん違うのだけど)と言うのが興味深い。
上流階級の人たちの話だから「自分たち」に籠る傾向があるのは理解はできるが。
ニューランドは「ヨーロッパ的」なエレンに惹かれ自由を希求し、「女性も我々男性と同様自由であるべきだと思います」なのだが、生まれた環境の色々を窮屈と思い同時に良いものだとも思う。
妻のメイは、そこから出ることなど考えたこともないけれどエレンの魅力はわかる、でもエレンは離婚すべきでないと考える。ニューランドがそうしたいなら、彼が一番好きな人を選ぶのも
ニューランドを愛しているからそれでよい、とまで思いつめる(でもその時にはその女性がエレンとはわかっていなかったはず)純粋な心はもっていても、「成長(ニューランドの言葉)」は望めないメイ。
最後の章でいきなり30年がたち、前半で話題にされていた「電話とかいうもの」が実用化されている。そもそも、列車はあるが自動車というものが実用化されてないのが、考えたら当たり前だがちょっとビックリ。必要な場合には自ら手綱を操ることが上流階級であっても行っている(乗馬できるから当然か)。電報はあるがふつうのやりとりはメッセンジャーに手紙を託すこと。人を訪問して会えなかったら持ち歩いている名刺にメモを書いておいてくること。これらは上流階級だからこそなのかもしれないが、そういう方法もあるのね!と新鮮だった。
あくまでニューランドの視点で描かれているが、彼の気持ちの浮き沈み、突然違うフェーズに入るところなど、非常によく描写されていて面白かった。
最終章の、「時代遅れなお父さん」(彼と仲良しの長男の言葉)が、いまはこのように変わった、と思う様も、結局は一歩踏み出すことができなかったにしても、基本、進歩(あるいは成長)しようとする気持ち、自由を求める気もちがあった人だから、それほど時代遅れ感はなく、むしろ、何十年も生きると世界は変わるわけで、自分の親(少年時代には空襲があり今は子どもたちにいわれてiPhoneをとぼとぼ使っている)もずいぶん変わった世界を見てきたはず、などと思った。続きを読む投稿日:2023.10.08
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