この作品のレビュー
平均 3.9 (17件のレビュー)
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旧作ながら新鮮
昔々あるところで、恐竜さんと蟻さんが出会うことから始まる壮大なお伽噺。設定の巧妙さと筋立ての力強さ(強引さともいう)が面白かったです。
「三体」の四年前、作家として駆け出しの頃の作品らしい。最近、日…本オリジナルの旧作短編集が出ているようですが、新作が出たら読みたい。続きを読む投稿日:2024.01.22
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蟻と恐竜の間の世界大戦と文明崩壊
代表作『三体』発表前の中篇で、はじめて著者のSF作品に触れるには恰好の作品。
もともと児童向けだし、蟻と恐竜との共生関係が生まれる導入部は、さながら童話を読んでいる味わいがある。
蟻は脳が小さ過ぎ…、単独では文明を築けない。
が、恐竜世界の欠かせない一部となることで、蟻の技術が恐竜の文明の進歩を促したというお話。
共生関係がやがて相互依存関係になる様も面白い。
恐竜の歯の爪楊枝的な掃除共生から、やがて体内に侵入する医療共生へ、そして蟻が恐竜文字を習得し、十万匹の文字軍が床に文字を綴って対話が可能になる情報共生へと進化し、竜蟻同盟が誕生する。
これにより蟻は、恐竜の器用な手となり、恐竜は蟻の思想と創造の源泉となった。
人類が誕生からまだ10万年しか経っていないのに、恐竜は7000万年に渡って君臨してきたことを考えれば、その間にどんな進化があり得たか、知性のかすかな萌芽も生じなかったのか、SF作家ならずとも想像を巡らせてしまう。
本書では、恐竜と蟻の同盟がなければ地球に文明をもたらすことはできなかったとする。
微小部品の製造からミクロな精密医療まで担う万能なアリちゃんだが、決定的に欠けていたのがインスピレーションと創造性だった。
恐竜の技術進歩の基礎にはこの好奇心と想像力があるのだが、人間と同様、それは反面で情緒不安定を生み、蟻から「逸脱は恐竜の本性」とまで言わしめるまでに。
竜蟻同盟はたびたび危機を迎え、両者が鋭く対立することも。
まず神の姿、つまり創造主が蟻か恐竜かを巡って対立し、宗教問題に発展する。
蟻側から作業をボイコットすると通告され、恐竜は慌てふためくところがおかしい。
蟻の細かい仕事を恐竜にやらせようとしても無理な相談で、恐竜の太い指では電線をつなぐことさえできない。
すべてを恐竜サイズに大型化すればいいじゃないかと思うけど、それをするとエネルギーのコストは厖大になるし、何より光や電波、遺伝子など原理的に小さくならざるを得ないパーツは厳然と存在する。
さらに恐竜の枕カバーに蟻から殺しのメッセージが届くまでに。
小さな者には小さな者の強みがあって、都市や食糧に次々に放火されて恐竜は飢餓状態に陥る。
『老神介護』の短編で読んだ時も思ったけど、恐竜世界の二大勢力間の相互確証破壊の仕組みは本当に見事。
これまでの核兵器の先制攻撃によるリモート起爆失敗を避ける手段として、「カウントダウン・サイクル」という新しいスタンバイ方法が編み出される。
核以上に破壊的な反物質を兵器化し、その保存容器の起爆信号を送信するのではなく、起爆解除信号を送信し続ける。
解除信号受診によるリセットがされるまで、つねに起爆に向けたカウントダウンが進む。
これにより先制攻撃は自殺行為で、敵の生存が自らの生存の必要条件となる関係が築かれるが、毎日が地球の死刑の先送りとなるような、ヒリヒリする危うさも同時に併せ持つ。
「相互確証破壊」とは、文字どおり「破壊は確証され、相互的なものであり、確実に許されないものである」ということで、米ソのどちらが核の先制攻撃を仕掛けても地球が全滅することになるため、両国のあいだで相互に抑止力が働くという理論だ。
合理的な行為者は自殺行為をしないという考え方が基本にあり、いまなお効力は確実だと考える専門家が多数いる一方で、そうではないとする見方も存在する。
専門家の中には、相互確証破壊は真に大国同士の間でのみ成立するもので、現在のようにロシアの国力が落ちてきている現状では成り立たなくなっていると考えもある。
事実プーチンは、ウクライナ侵攻以降、事あるごとに核兵器使用をほのめかしていて、もはや核を使うぞと脅すことでしか均衡を維持できなくなっているようだ。
自分たちを大国とみなしてくれないことに対する怒りがウクライナ戦争の出発点であり、同時に曲がりなりにも相互確証破壊の綱渡りの世界にいま生きていることを考えると、本書を読みながら複雑な感慨が湧いてきた。続きを読む投稿日:2024.02.27
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