心淋し川
西條奈加(著)
/集英社文庫
作品情報
江戸、千駄木町の一角は心(うら)町と呼ばれ、そこには「心淋し川」と呼ばれる小さく淀んだ川が流れていた。川のどん詰まりには古びた長屋が建ち並び、そこに暮らす人々もまた、人生という川の流れに行き詰まり、もがいていた。青物卸の大隅屋六兵衛が囲っている年増で不美人な妾のおりきは、六兵衛が持ち込んだ張形をながめているうち、悪戯心から小刀で仏像を彫りだし・・・(「閨仏」)。飯屋を営む与吾蔵は、根津権現で小さな唄声を聞く。荒れた日々を過ごしていた与吾蔵が捨ててしまった女がよく口にしていた唄だった・・・(「はじめましょ」)など、生きる喜びと哀しみが織りなす全六話。第164回直木賞受賞作。
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商品情報
- シリーズ
- 心淋し川
- 著者
- 西條奈加
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文庫
- 書籍発売日
- 2023.09.20
- Reader Store発売日
- 2023.11.02
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 288ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (29件のレビュー)
-
私の中では「金春屋ゴメス」や「まるまるの毬」の作者さん。直木賞を獲られた作品が文庫になったので遅ればせながら手にしてみた。
江戸、千駄木の一角に流れる小さく淀んだ心淋し川。そのどん詰まりに立ち並ぶ長…屋で暮らす人々のお話。
働かない父を抱えながら恋人と一緒に今の生活から抜け出ることを夢見る娘を描く表題作「心淋し川」をはじめ、死んだ兄弟子の後を継いで飯屋を切り盛りする料理人の過去の悔恨が滲む「はじめましょ」や同じ岡場所から異なる道を進んだふたりの女性の行く末を描く「明けぬ里」など、終盤の転換が鮮やかな話が並ぶ。
四人の妾が住む家でお呼びのかからない最年長の女性の手慰みを描く「閨仏」には妙なおかしみがあり、「冬虫夏草」では嫁から息子を取り返した母親の狂気が怖い怖い。
最後に語られる長屋の差配の物語「灰の男」は、男の人生のやるせなさがたっぷりの反面、これまでのすべての話が収斂し、それでもそこで生きていく人たちの活力も描かれていて秀逸。
とても上手だなあと思ったが、ちょっと上手が過ぎる感じも実はして、それ以上の感想が浮かんでこない。続きを読む投稿日:2024.03.27
このレビューはネタバレを含みます
本当に、本当に素晴らしい物語でした
レビューの続きを読む
全ての短編であっ、と驚きがあり、がらりと見えていた景色が変わり涙が溢れていました
心に沁み入る切なさと温かさが共存していました
本書は、江戸の淀んだ心(うら)淋し…川の辺りにできた、吹き溜まりのような心町に住み着く、いろいろなことから逸れて行き場を失ったような貧しい人々が織りなす暮らしを描いた連作短編集、時代小説です
最近ぼくが手にとる本が、壮絶に苦しい現実を突きつけられるような話が多くて、もちろん学びもあるのだけど、現実もしんどいのに、フィクションまで苦しいの読むのしんど、とか思ってました(自分で勝手に選んでるだけやん!ってツッコミも甘んじて受け入れます、そういう本も大好きなのです)
でも、やっぱりぼくはこういうまた違った苦しみといいますか…、直向きに懸命に生きる人が励まされるこういう本を読んでいたいんだなと改めて気づくんですね
この短編に登場する主人公たちはみんな苦しい、いろいろなことが上手くいかず、虐げられて腐っている、下を向いて諦めていたりもする
でも、だから人の苦しみにも人一倍敏感なんでしょうか
自分の苦しみって、主観的なもの、経験することだから、人と比べるのは無意味といえば無意味だし、他人の苦しみはわからないですよね、ほんとのとこは
でも、人の苦しみを想像し慮ることはできる
人一倍苦しんだ人はその度合いも強いのかな、と思うんです
そしてこの物語に出てくる主人公は、誰かのために苦しみ涙を流すことができる人たちだった、それがぼくの心に響いて共鳴して涙があふれたのだと思います
この世に尊いものがないのなら、人の存在価値はない
そんなことを山本周五郎さんも仰ってたとか
宮部みゆきさんの時代物みたいなとても豊かで、淋しい優しさに溢れていて、読んでいる間ずっと胸が苦しかった、それが本当に幸せでした
直木賞受賞きっかけで手に取ろうと思いましたが、はたして手に取って本当によかったです
きっと、またしばらくしたら読み返してしまうと思います
もうひとつ
この物語には印象深い台詞や言い回しがいくつも出てきて、そこもぼくは好きでした
その中のひとつを引用させてください
弱い稲次も、儚げなるいも、守ってやらねばならない存在だった。守られていたのは、実は自分の方だったと、稲次が死んでから思い知った。こんな情けない男を、ふたりはあてにして頼ってくれた。おかげてどうにか、立っていられた。続きを読む投稿日:2024.05.11
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