「生きている」とはどういうことか
カール・ジンマー(著)
,斉藤隆央(著)
/白揚社
作品情報
生命とは何か?誰もが納得できる生命の定義は、いまだに存在していない。生物と無生物を分かつものは、いったい何なのか? 現代屈指のサイエンスライターが、波乱に満ちた生命研究の歴史をひもときながら、最先端の研究が進行中の数々の現場を探訪し、「生命とは何か?」という人類最大の難問に迫る。全米で高い評価を受けた、科学ノンフィクションの傑作。【各紙誌で年間ベストブックに選出!】NYタイムズ・ブックレビュー「今年の100冊」(2021年)に選出PEN/E・O・ウィルソン賞(2022年)ファイナリストライブラリー・ジャーナル、サイエンス・ニュース、スミソニアン・マガジンの2021年ベストブック【有名科学者による賞賛多数!】現代のフランケンシュタイン博士たちが研究に勤しんでいる今、実にタイムリーな探究の書。――ジェニファー・ダウドナ(ノーベル化学賞受賞者・『クリスパー』著者)ジンマーは鋭く魅力的な書き手だ。ふさわしいところで感慨深い逸話を紹介し、科学的な話を描き、研究室での実験に命を吹き込む。――シッダールタ・ムカジー(『がん 4000年の歴史』著者)軽やかで奥深い本書を読めば、生命についてまったく新しい見方ができるようになるだろう。――エド・ヨン(『世界は細菌にあふれ、人は細菌によって生かされる』著者)
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商品情報
- シリーズ
- 「生きている」とはどういうことか
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 生物・バイオテクノロジー
- 出版社
- 白揚社
- 書籍発売日
- 2023.07.12
- Reader Store発売日
- 2023.10.25
- ファイルサイズ
- 2.7MB
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この作品のレビュー
平均 4.3 (5件のレビュー)
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ちっぽけな生細胞が、魔法のパズルの箱になる
ふつうこのタイトルで本を書くとなると、日本人のライターならおそらく、生命の崇高さや美しさを結論に持ってくるだろうが、本書は違う。
著者は『ナショ・ジオ』にも寄稿する一流のサイエンスライター。
…出版されるや絶賛され、『NYタイムズ』誌など年間ベストブックにも選出された。
もともと大学で文学を専攻していたのも首肯けるほど、文章がうまい。
例えば、冒頭の自身の発汗の過程を脳のニューロンレベルで詳述した箇所を読むと、タダ者でないことがわかる。
電圧のスパイクが軸索を突っ走り、次々に新たにシグナルに変換され、脳を逆順し、無数の腺から水が絞り出される。
「そしてひとりの汗まみれの人間は、この浜辺に存在するさまざまな脳への思いを自身の脳に詰め込み、ニューロンに似たケルプの体についての記憶を自身のニューロンに収めて運び去る」。
痺れる書き出しだ。
生命観が歴史的にどのような変遷を遂げてきたかを綴る長大な物語の始まりは、ジョン・バトラー・バークという忘れ去られた物理学者から始まる。
一時は時代の寵児となって、生命の秘密を明らかにしたと讃えられたが、その後みじめな転落が待っていた科学者の話。
著者がなんでこのイカれた学者から始めたかは、最後の最後で判明する。
なんとも心憎い演出。
ところで私たちは普段生活していて、"生きているとはどういうことか"なんて考えない。
ましてや生命の定義なんかで思い悩まない。
なぜなら、馬鹿で関心がないからではなく、わかるからだ。
それもありありと瞬間的に。
経験的にわかるんではなくて、生まれたばかりの赤ちゃんでさえ、いや数多の動物たちでさえ、この(判別)能力を備えている。
生物を見分け瞬時に知覚する直感力は生得的なもので、丘を転がり落ちてくるのが岩か狼かなど、朝飯前なのだ。
だけど世の中には、生と死の間のあいまいな境界に属するものが結構ある。
脳死判定議論でも問題とされた人工呼吸器による延命措置や、干涸びて死んだように見えても生き返るクマムシや線虫、マムシのような蘇生可能な生物もそうだし、皮膚のサンプルからリプログラミングで初期化して育てたニューロンもそうだ。
もとは毎日剥がれ落ちている皮膚の細胞。
しかし、秘伝のレシピによっていくつかの化学物質を調合し加えると、あら不思議、ミニ脳の誕生だ。
これは一体なんだ?
脳に近づいてはいるけど、細胞のかたまりに過ぎない。
こうした時が、生と死の判別など容易にわかるはずだという直観がゆらぐ瞬間だ。
中絶をめぐる論争では、「生はいつ始まるのか」が焦点となっている。
「生は受胎した時点から始まる」というのが中絶反対派の言い分だ。
だが、受精卵は確かに生きていても、それは細胞が生きているという意味であって、人間が生きているという意味ではないはずだ、と賛成派は反論する。
人間性に関わる権利を有した比類なき個人の誕生は、精子と卵子が融合する瞬間ではない。
さらにヒトの発生の過程を丹念に追っていくと、精子が卵子と融合する瞬間を、新しい個人の始まりと特定することはできないことがわかってくる。
そもそも生きた受精卵も、同じく生きた2個(精子と卵子)の細胞が融合してできたものであり、それらもまたいきなり生を得たのでないことを考えれば、「生はいつ始まるのか?」という疑問に単純な答えなどないことがわかる。
命の流れは、前の世代から、途切れなく受け継がれていることを考えると、「生に始まりはない」とも言えるのだ。
細胞すべてがひとりの人間としての権利をもつと考えるならば、われわれの家の埃も、毎日何百万もの剥がれ落ちた皮膚細胞で構成されているため、細胞のリプログラミング技術によりヒトになる素質が獲得できる現状、そのひとつひとつが失われた命と主張することになる。
我々はあらゆる環境に適応し、知能を発達させるには脳が必要だと考えているが、粘菌の生存戦略を見ているとそうではなかったと悟る。
脳を持たない粘菌の記憶方法を見ると感心する。
複雑な迷路に置かれた粘菌は、探索の触手を伸ばした先々に粘液を残すことで、つまり経験の記録を外界に残すことで、出口への最短ルートを見つけ出す。
単細胞なのに体全体で周囲の状況をたちまちに把握する。
本当の知能とは、習得能力ではなく、環境の変化への対応力だということを思い知る。続きを読む投稿日:2023.11.20
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生と死の境界線。実験室で育てられるオルガノイド。古代地球での生命の発祥。宇宙での生命探索。ウイルスや赤血球といった「半生命」について、などなど。タイトルに偽りなく、「生きている」という現象に惹きつけら…れた研究者たちの冒険の数々。科学系の翻訳本にありがちな総花的なところがあって、読むのはだいぶ骨が折れたけど、おもしろかった。今では否定された(が発表された当時にはもてはやされた)生命に関する仮説や研究についても触れている本は珍しい。
「生きているとはどういうことか」を3行で知りたい、という人にはおすすめできない。続きを読む投稿日:2024.04.24
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