日本文化における時間と空間
加藤周一(著)
/岩波書店
作品情報
日本文化の特徴とは何か.幾度も反復されてきたこの問いに,著者は時間と空間の両面から切り込む.文学・絵画・建築など豊富な作品例,それらを貫く時間と空間の感覚,さらに宗教観や行動規範の分析から,「今=ここ」に生きる日本文化の特徴が鮮明に浮かび上がる.日本文化の本質,その可能性と限界を鋭く問う渾身の書き下ろし.
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商品情報
- シリーズ
- 日本文化における時間と空間
- 著者
- 加藤周一
- 出版社
- 岩波書店
- 書籍発売日
- 2007.03.27
- Reader Store発売日
- 2023.10.26
- ファイルサイズ
- 0.7MB
- ページ数
- 272ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (9件のレビュー)
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第2部以降を読んで
2部は空間の話。古来よりムラ社会である日本において、内部の人とは対等だが、外部の人に対しては上に見て従うか、あるいは見下すかの二択であったことが例示される。例えば、ムラにおいて官吏…は従う対象で、旅芸人は見下す対等だったように。あるいはかつては属国として従っていた中国を、アヘン戦争後は急に見下したように。
前に仕事で話した大企業のお偉方が、外国人のコミュニケーションと日本人のそれを比較して言っていた、「結局日本人は対等な話はできないんですよ。目上が目下に論説をぶつ。目下はうんうん頷いて聞く。それしかできない。」という話と重なる。
外交の場面でも、日本は包括的な問題解決においてイニシアチブを取ることはなく、本当に国益に関係するトピックの時だけ「わが国」の主張を通そうとする。この姿勢はあらゆる問題において関係国と調整を図り、いくつかの選択肢を提示したうえで妥協点を探すEUなどとは大きく異なるとのこと。これもかなり身に覚えがある。
これらは全て、コミュニティの内部に向かう強烈な意識に端を発するとのことだが、果たして今の日本人もそうだろうか。もはや自分の生まれた地域にこだわりのない人、さらには日本という国にすらこだわりのない人も多いことだろう。会社の形態もかつてはムラに例えられたが、今はもうそうではないことは明白だ。そういう人々が国際社会でどう振る舞い、どういう日本人像を作っていくことができるのか。少なくとも形式的にはムラの消失した現代日本において、私たちはもっと別の精神性を獲得できるはずである。いつまでも「外国人から見た日本文化のすごいところ」なんでテレビ番組を作ってご満悦に浸っている場合ではない。その段階から抜け出せる社会的土壌はもうあるのではないか?
加藤周一は(これまでの日本文化のどうしようもなく悲しい性を丹念に炙り出してくれたものの)残念ながらその先を提示してはくれない。
ーーーー
第1部 (時間について)を読んで
「明日は明日の風が吹く」し、「宵越しの銭は持たない」日本文化は、過去や未来に対して明確なビジョンを持っておらず、あるのは今だけであると説く。おそらく和辻哲郎に言わせれば、台風などの突発的災害が多い日本の風土が育んだ独特の「諦観」ということになろう。読んでいて自分も、「今が良ければ良い」と思うし、「失敗しても何とかなる」と思うし、最終的には「人生はなるようになる」と思えてしまう典型的日本人の一人だと気づいた。
著者曰く、その価値観は、文明開化や敗戦後にころっと態度を変える国民性にも表れており、例えばナチスの罪を徹底的に懺悔し断罪したドイツとは異なる。(確かに右派でない人でさえ、いつまでも過去の恨みを忘れない隣国に対して、どこかで「第二次大戦は軍部の責任が大きいし、賠償金だって払ってるのに、いつまで過去に拘ってるんだろう」という感想を全く持たないとは言えないだろう)
特にこの「今さえ良ければ良い」傾向が顕著だったのが平和な江戸時代で、芸術は急激に世俗化し、室町時代のような宗教や哲学に触れたものは見られなくなるようだ。
ここまで読んで、平成のポップスを思い出した。よく「最近の歌は深みがない」というが、何のことはない、平和だったのだ。
「(たまに困っても)基本は平和」というのが、過去や未来を真剣に考えない要因として大きいのだろう思う。今が苦しければ未来への思いが強くなるだろうし、未来が危ういと思えば過去を勉強するだろう。島国で外敵も無くのほほんと暮らし、台風で困ってもまあなんとかなり、オイルショックで困ってもまあなんとかなり、リーマンショックで困ってもまあなんとかなってきたのが日本である。皮肉にもかつて日本が未来に対して何か大きな構想を持った唯一の例がおそらく大東亜共栄圏で、それは列強の侵略という危機に晒されていた時代だ。
そう思ったとき、これからの時代はどうだろう。世界情勢は日に日に危うくなっている。大国は何をしでかすか分からない指導者を抱えている。隣国との溝はここに来て急激に深まっている。国内でも嘘と本当が入り混じっている。台風や地震は、もはやちょっと困る程度の規模ではなくなっている。試しに、これからのポップスの変化には注目していようと思う。軽薄な歌よりも、哲学的な、重いものが流行りだしたら時代が変わったサインだろう。
きっと、ここからは日本人にとって不得意な時代になるかもしれない。「なるようになるさ」ではなく、未来に対して意思を持たないといけない。そのためには過去を自分で体系立てないといけない。そして戦前戦中のように、一部の意見に迎合してもいけない。これらは未だかつて日本の民衆が一度もやったことのないことである。もちろん、不得意だから、やったことがないからといって、それをやらなくてもいい理由にはならないのは明白だ。でも、自分にそれができるだろうか。続きを読む投稿日:2019.09.23
時間と空間のとらえかたについて、日本の文化(絵画、和歌、俳句、演劇)からその特徴を捉えようとする本です。まず時間について、世界には(1)はじめと終わりのある時間(ユダヤ教)、(2)円周上を無限に循環す…る時間、(3)無限の直線上を一定の方向に移動する時間、(4)始めなくおわりのある時間、(5)始めがありおわりのない時間、の5類型がある。そして古事記から始まる様々な例をひもとき、例外はあるものの、日本は(2)(3)の無限の時間の概念が主流だと主張しています。そこでは時間の分節化が難しく「いま」の連続で時間が流れゆくとのこと。
ついで空間についてですが、こちらは(1)開かれた空間、(2)閉じられた空間、という類型の中で、日本は想定通り(2)だという主張がなされます。これだけですと真新しさはないのですが、私が最も興味深かったのは、日本の空間の3つの特徴として、「オク(奥)」の概念、水平面の強調、そして建て増し思想が挙げられていたことでしょう。これは実感にあいますし、現実の建築物だけでなく企業の組織にも同様の特徴があると思いました。特に3つ目の建て増し思想については、よく隠喩で「熱海の旅館」という表現がされることがありますが、熱海の旅館に行ったことがある人ならわかるように、無節操に建て増しされた迷路のような構造になっています。著者はここから、日本の空間思想を、部分から全体へ、つまり部分重視、細部重視主義であり、全体ではなく「ここ」を何よりも重視していると指摘します。
そして2つがあわさると「いま=ここ」志向が、日本文化に見られる時間と空間の特徴だと結論づけるわけです。確かに禅宗のお寺で座禅に参加すると「いま=ここ」に集中せよ、そこにこそ真実があると諭すわけですが、これだけ座禅がブームになっていることを裏返すと、現代人は、「いま=ここ」ではなく、過去や未来、そして「ここ」以外の事象に囚われすぎているということが言えるのかもしれません。いろいろと考えさせてくれる良書でした。続きを読む投稿日:2023.05.06
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