科学者とは何か(新潮選書)
村上陽一郎(著)
/新潮選書
作品情報
19世紀にキリスト教の自然観の枠組から離れて誕生した、科学者という職能。危険な一面を持つ、閉ざされた研究集団の歴史と現実、その行動規範とは? 核兵器の開発、遺伝子組み替えの技術、環境問題――科学者は研究に伴う責任をどう考えるのか。自然と人間の相互作用を読みこむ新たな科学観が問われる、転換期の科学者像を探る。
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商品情報
- シリーズ
- 科学者とは何か(新潮選書)
- 著者
- 村上陽一郎
- ジャンル
- サイエンス・テクノロジー - 数学・物理学・化学
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮選書
- 書籍発売日
- 1994.10.17
- Reader Store発売日
- 2023.10.06
- ファイルサイズ
- 0.4MB
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この作品のレビュー
平均 3.8 (6件のレビュー)
-
この本は,科学者が考えなければならない,科学者(研究者)としての倫理や価値観について書かれています。内容は,歴史的な変化のなかで,科学者がどのようにして共同体を形成して,そのなかでどのような倫理や価…値観が作られてきたのか等が述べられています。
私は,ソーシャルワーカーというアイデンティティを持ちながら,大学の教員であるわけです。以前より,ソーシャルワーカーの倫理や価値についてはその重要性を実感しているところですが,科学者(研究者)としても同様に考えていく必要があります。
ソーシャルワーカーは科学者(研究者)というより,実践者としての側面が強いと思いますが,科学的な方法によってソーシャルワークを捉えていく必要があると思います。そんなふうに思って読んでいると,科学者と技術者(ソーシャルワークでいうと実践者に近いと思います)の違いや関係について述べられていたり,科学と神との関係が書かれており,非常に興味深く読めました。
ソーシャルワーカーという専門職はキリスト教文化の影響のもとに生成,発展してきていますが,そのあたりのことにつながることですので,きちんと理解しておきたいと思いました。続きを読む投稿日:2007.01.22
このレビューはネタバレを含みます
とある図書館で処分品として一冊30円程で売っていて購入しました。村上氏は科学史、科学哲学とか、そういう分野を研究されている方で東大とかICUで教えていらっしゃった方。科学論をテーマに現代文の問題で取…り上げられることも多いですね。
レビューの続きを読む
・・・
読みましたがこれが非常に面白かったです。
内容を極々簡単に言えば、本作は、科学者の倫理はどうあるべきか、という本です。
まずは科学史が非常に興味深い。
当初は科学者は単なる同好の士であったこと、更には職能集団として機能し、その口伝の中で倫理も伝えられていったこと。大学での教育を経るも19世紀までは神への誓いとして職業倫理が保たれていたそう。困った人を助ける医学、弱い人と助ける法学、そしてそれはすべて神の召命につながっている、と。
ところが市民革命以降は神命への遡及は廃れ、個別科学の深化も進み、学会という同胞組織ではピア・レビューなどでこっそり成果横取りなどという輩が現れ、科学者の研究は他人を出し抜いて新たな成果を発表するという性格が出てきたと言います。
他方で、科学界がその内部だけで安住できる時代は終わったことが示唆されます。自分の研究成果が明らかに外部世界を改変するということです。
顕著な例は原爆です。第二次世界大戦中の亡命科学者のシラードが原子力の軍事利用を阻止するべくアインシュタインらの協力を仰ぎつつ当局に働きかけるも、逆に米国は軍事利用を進める形になりました。原爆の結果、研究を自らやめた学者も居たそうです。科学の研究を他人が利用することで害悪が及ぶことがある、と科学者自身が認知し始めました。
また、科学者が外部への説明責任を果たさざるを得ないことも明示しています。
日本で大学院生活を送った方には馴染み深いかもしれません。所謂学振や科研費の減少も加え、部外者に対して研究の意義や有効性について説明する必要が迫られるようになったということです。
つまり、科学者は自らの研究の外部的インパクトについて想定せねばならない。場合によってはその倫理的スタンスについても整理するべき。また、研究費を獲得するため、自らの研究の意義を門外漢にも伝える努力が必要である、と言えます。
さて、勘の良い方は薄々気づくと思いますが、こうしたことは何も科学者に限らないと思いませんか。
自分の仕事が周囲にどのようなインパクトがあるか、そして自分の仕事の意義や結果について自己レビューをするって、これは世の仕事人がやっている・やらねばならないことそのものではないでしょうか。
仕事の外部的インパクトについては、サラリーマンだとあまり考えないかもしれません。でも、年端もゆかない子どもに自分の仕事の内容を聞かれたらどうでしょう。パパの仕事って何なのと。そういう視点で考えると、自分の仕事の外部インパクトについて整理できそうな気がします。
成果についての説明責任についてはこれまたサラリーマンが毎年やっているものですね。年次レビューとかKPIとか呼び名は色々ありますが、サラリーを支払う人への説明責任ってありますよね。
そうしたことを考えると、本作で問われている科学者の倫理は科学者に限ったことではないような気がしてくるのです。
・・・
筆者は最後に科学者は『社会と人類にたいして責任をもつ』べきと述べています(P.181)。
上で書いた通り、私はこれは科学者に限らずに問いうることであると思います。倫理というのは明文化された法律ではないので強制はできません。ですので、倫理感を持つとはある意味でこうした説明責任を(誰にも強制されないなかで)果たしていく、という事なのかもしれません。一方、金銭という誘惑が常にこの倫理観を曲げようとしているようにも思えます。
自分は今、社会と人類にたいして責任をもって仕事をしているか? 自分の立ち位置や日々の仕事の仕方、将来への展望をも省察する機会となった良い作品でした。科学史系の本としても純粋に面白い本です。あ、あと大学院に進学したい方は読んでおいて絶対損はないと思います。特に理系の方。続きを読む投稿日:2021.07.12
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