わたしたちに翼はいらない
寺地はるな(著)
/新潮社
作品情報
同じ地方都市に生まれ育ち現在もそこに暮らしている3人。4歳の娘を育てるシングルマザー、朱音。朱音と同じ保育園に娘を預ける専業主婦、莉子。マンション管理会社勤務の独身、園田。いじめ、モラハラ夫、母親の支配。心の傷は恨みとなり、やがて・・・・・・。「生きる」ために必要な救済と再生をもたらすまでのサスペンス。
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この作品のレビュー
平均 3.7 (104件のレビュー)
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読了してから改めて表紙を目にすると、表紙に表されているものの意味が分かった。しかし、分かったからといって、すっきりするといった気持ちにはならない。タイトルの思いをかみしめて、私もそうだなとも思う。寺地…はるなさんの作品を『川のほとりに立つ者は』に続けて読了した。作品の中の寺地さんのストレートで飾らない言葉が、胸に刺さってくる。それは、『川のほとりに立つ者は』の作品とも通じる。寺地さんの言葉の強さやまっすぐさを感じる作品を続けて読了した。
本作品は、序章と終章、その中に9章の場面で描かれている。そして、終章の後に序章に戻ると、2つの章のつながりが分かる。
作品の舞台は、人口20万人の明日見市。その街での登場人物たちが、中学生からの人間関係に大きく影響を受けながら、物語は展開していく。見栄や比較といった人の心の根底にある思いが表面化しズキズキと胸が痛んだり、それも人なのかなと感じたり、心が動かされ続けていく。それだけ、寺地さんのストレートな表現が際立っているのかな。
中心となる登場人物は、園田律、中原大樹と莉子の夫婦と娘、芽愛。園田、大樹、莉子は中学の同級生、そこに大樹と莉子に近い関係の同級生、美南の存在。佐々木朱音と離婚した夫、宏明と娘の鈴音。芽愛と鈴音は同じ保育園。中学時代の大樹は王様だった。そこに優越感を感じていた莉子は、そのまま社会人となって結婚。そして現在へ。人と比べていることに不穏な思いを抱きつつ、誰にでも持ちうる感情でもあるかなとも感じる。その思いは、屈折していくことにもなっていく。本当に大切にしたいことは何なのだろう。登場人物の思いに触れつつ、そんな疑問が浮かぶ。
園田と朱音は偶然に出会う。この出会いが、人間関係を複雑にし、つながりが生まれていく。保育園内の子供同士の諍いによって、莉子と朱音は直接やりとりをすることになる。それぞれの背景があり、考えがあるため、2人の関係は平行線で、交わることがないように感じた。結局、子育ての構えや行為が、それぞれ違うのだ。その背景には、莉子も朱音も、相談相手がいないということがあるのかな。家族だから、相談できるとは限らない。そこも、人それぞれなのだろうな。それぞれに生活があり背景があるから。家族なのに友達なのに相談できないという関係は辛いかな。形だけになってしまっているかもしれないな。だからこそ、人を信頼できるってすごいことに思えるな。
園田は大樹をずっと憎んでいた。大樹の素性を調べていた。しかし、同級生のはずの莉子の存在に覚えがなかった。そのくらい、中学生時代の園田は、関係を作れない存在だったのだろう。園田は朱音に、様々なことを話す。それを受けて、朱音は耳を傾ける。それは、過去に痛みを感じ、今もその痛みが浮き出ることがあるからなのだろう。そこに、2人のやりとりの自然さやありのままを感じる。居心地のよさって、こういうことなのかもしれない。『わたしたちに翼はいらない』に込められた登場人物の思いを重ねる。
莉子はカフェで働き始める。そのカフェを運営している会社に勤めているのが朱音。偶然が重なっていく展開に驚き、唸りながらも読み進める。朱音は、莉子の状況を見聞きし、別の喫茶を紹介することにする。朱音の馴染みの『喫茶くろねこ』。そこには園田も来店する客として。喫茶のマスターの悟志とも馴染みで、「園田くん」と呼ばれるほどだった。近い距離に複雑に絡み合う関係が、次の展開が気になっていく。莉子は園田のことを同級生と認知していないが、園田は莉子が大樹の妻で同級生であることを認知している。このあたりの描写が細かく伝わってくる。それぞれの心を想像しながら、ページを捲るスピードが速くなっていく。そうとも知らず、莉子は園田に好意を寄せている感じが伝わる。よからぬことが起きそうな想像が膨らんでいく。それが、偶然の出会いによって、その方向へと動き出しそうな状況へと移る。そのことを朱音にメッセージで伝える。それがきっかけとなり、園田が憎んでいた相手が大樹と知る。絡み合った知る知らないの関係性がなくなっていく。そこからの展開はさらに進んでいき、ラストに向かってスピードを上げて読み進めていく。そして、莉子と朱音の関係も色濃くなっていく。しかし、その関係は形にははめられていかない。寺地さんの作品世界を作り出す、そこも絶妙に感じる。
園田は、大樹と美南がマンションに一緒に入っていくところを目にする。そして、その直後、大樹の身に起こる出来事に衝撃を受ける。そこからの園田と莉子のやりとりは、何もかも曝け出していく。本当の思いですら、相手によっては伝わらないこともあるだろうな。それぞれの心根がちがうのだから、それも仕方ないのだろうな。園田のいたたまれない思いを受け止めるのは朱音。同じ痛みを抱えていると想像できることも重なるのかもしれないな。ラストに向かって、それぞれの確かな思いがはっきりとしていく。自分の気持ちは、自分にしか分からないし、自分でもわからない。そんな思いが膨らんでいった。
寺地さん作品世界を続けて思う存分味わった。これから手にする寺地さんの作品はどんな世界なのだろう。楽しみになった。続きを読む投稿日:2024.05.18
#わたしたちに翼はいらない
#寺地はるな
23/8/18出版
https://amzn.to/3wsXXOo
●なぜ気になったか
本屋大賞ノミネート作『川のほとりに立つ者は』を読んで気になりだした作…家さん。面白そうな予感が感じられる内容紹介。本書を読み相性よい作家さんか確認したい
●読了感想
読み始めたら先の展開が気になり読み続けてしまい、やろうとしていたことが1日後回しになってしまった。現実感を感じさせられるストーリーは引き込まれやすく、それが僕の好みと再認識
#読書好きな人と繋がりたい
#読書
#本好き続きを読む投稿日:2024.05.08
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