母の友2023年9月 特集「母もみんなも息がしやすい世界」
母の友(著)
/福音館書店
作品情報
「母の友」創刊70周年記念特集は「母もみんなも息がしやすい世界」です。「ふつう」に生きたいだけなのに、息苦しさも感じてしまう今の社会。母とみんながより自由な方へ行くためには? 学者や作家、アーティスト、様々な方と共に考えます。童話欄は絵本『ぐりとぐら』のもととなった「たまご」(1963年作)を再録。*電子版には巻末付録のカレンダーはつきません。*電子版では、掲載されないページ、マスキングされた画像が含まれる場合がございます。*この作品はカラー版です。お使いの端末によっては、一部読みづらい場合がございます。
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この作品のレビュー
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創刊70周年記念特集
『母もみんなも息がしやすい世界』
70周年記念ということで、様々な視点から眺めた内容に心が軽くなり、様々な見方を教えてくれた特集でした。
長島有里枝さん×塩川いづみさん
…「ケアする人のケア、は」
ケアと聞くだけで、とても難しい印象を持ったが、「ケアの学校」という展示で、長島さん本人が『いる』こと。ただそこにいるだけでもいいことに、ホッとするものを感じただけではなく、
『自分がいい状態になることだけがケアではなくて、相互関係なんだ』という、私もいて、あなたもいるということの大切さを、改めて噛み締める。
河合香織さんの
「母は死ねない、のか。自由のほうへ」
「ふつう」の呪いを解く鍵は、「母として」どうか? と考える前に『私として』どうか? を考えること。母であっても私は確実に存在している。
そして、改めて見直したい
『人ってもっと弱くて、やわらかい存在』。
柚木沙弥郎さんの「新しい空気を吸うために」
染色家、画家、絵本作家として、百歳の今も挑戦し続けている、柚木さんの言葉、
『つらい思いは実は自分の中、内側にある』ということを認識すると、明らかに諦める、そうか、自分の中にあるのなら仕方ないな。そうすると、つらさの形が変わってくるということに、まだ完全に自分の物に出来ないもどかしさがあるものの、少し肩の荷が下りた気がした。
阿比留久美さんの「母とみんなの居場所」
日本で暮らす息苦しさの要因の一つ、『生き方の規範が強いこと』に肯けるものがあり、それは、今や世界で夫婦別姓が認められていない国は、日本だけという事実からも感じさせられた。
森山至貴さんの
「『子どもがかわいそう』母を閉じこめる『ずるい言葉』に立ち向かう」
知らなかったから。悪気はなかったから。だから、人を傷つけていいのか? 知る努力の必要性を痛感させられながら、言葉の大切さも実感。
『人を閉じこめるのも言葉ですが、人をつなげることができるのも言葉』
それは、子の育ちを担うのは母だけではなく、その子と出会うみんなの責任であることにもつながっている。
小原一真さんの「ウクライナの母たち。あるいは『友』であること」
『属性の先にある、多様な一人一人の姿を想像することを諦めないこと。そのために、属性を超えたところで他者とつながりを保つことも大事』
それは、ウクライナ北部に位置する、チェルノブイリ原発の取材を何度もするうちに、多くの友人が出来た、小原さんの「友達が戦争に直面することがあるなんて思ってもみなかった」という思いに感じ取れるものがあったからこそ、私の中にも、すっと入ってくるものがあり、ロマ民族のことも知ることが出来て良かったと思う。
ここからは、気になったコーナーを。
「読んであげるお話のページ」
こちらも創刊70周年記念ということで、1963年6月号に掲載された、『ぐりとぐら』の元となった「たまご」が収録されており、大村(山脇)百合子さんの絵も、また違った魅力があって楽しめます。
宇野碧さんの「わたしのストーリー」
数年前まで、生理前になると理不尽なことで怒り、理不尽な行動を取ることがよくあった、宇野さんの、その当時の話だが、そこで見られたのは、たとえ本人の辛さは分からなくても、少しでも分かろうとする気持ちが行動に表れていた、夫と息子の姿勢に心打たれ、「アイスの実」も思わず泣き笑いしてしまいそうなくらい、感動的だった。
小林エリカさんの「母の冒険」
「で、いくら稼げるの?」という、この台詞だけで辛いものを感じさせるのは、自分のやりたいことを、その価値を、他人に決めつけられることの心苦しさや尊厳の問題でもあることもそうだが、そうした発想でしか、自らの価値を見出せない、発言者が最も苦しいということにも納得の思いであった。というか、見えるものだけで全てを決めつけるのは、もうやめようよ。人間は見えないものも心の拠り所にしているのだから。
小川たまかさんの「自由のほうへ行くために」
1980年生まれの小川さんは、所謂『氷河期世代』の女性であり、20代の新卒の頃には、政治家たちがこぞって『自己責任』を唱えていた時代だったそうで、その根拠の一つと思いたくはないが、
『あの若者が他国で人質となって残酷な殺され方をしたのに、国内には悼むどころか当然の報いだという雰囲気すらあった』
『これから社会に出る世代に向けて、国に“迷惑”をかけたらこうなるのだと思わせるのに、あれ以上のことがあっただろうか』
なんて、当時も嫌な印象を持っていたが、改めて、また思い返すと言いようのない怒りが込み上げてきて、どう考えてみても、人質とされた方より、人質にした方が明らかに悪いと思うし、そもそも自己責任取る以前に、命落としてるんですよ。残された人達の気持ちとか想像出来ないのかなって、それが、たとえ私とは関係ない赤の他人だとしても、こういうのって凄く頭に来る。悔しくてならない。
少し話が逸れたが、私が今回の小川さんの連載で勉強になったというか、人を知る上で大切だと思ったことが、他の世代の気持ちを知ることであり、それは、昨年、元首相を銃撃した男が1980年生まれで、その世代は連帯の方法を学ばず、社会運動にも心の距離があり、彼は個人の『自己責任』で、単独で行動したという件からも感じ取れて、勿論、犯罪はいけないことだとは思うが、もしかしたら、そこに至った過程の一つと知ることで、社会のあり方を考え直し、問い質すきっかけになるのかもしれない。そんな気付きが、私には大きかった。
そして、小川さんの下の世代に対する思いは、気軽に連帯して、古い慣習を、意地悪な大人を、蹴っ飛ばしてほしいと願いながら、私にできるのは、下の世代を邪魔しないことぐらいだと思うこともあるといった言葉に、私は、小川さんも出来るのではなんて思ったりもしたが、やはり、その世代の焦燥感と諦観は、同世代でなければ実感として湧かないものもあるのだろうと感じたし、しかも小川さんは、愚痴っぽくてごめんと謝っており、それが私には、『点子ちゃんとアントン』を書いた、『エーリヒ・ケストナー』の真摯な願いを思い起こさせて、こうした時に、小川さんには何と声をかけてあげればいいのか、分からなくなってしまう。しかし、それでも考え続けてみることが大事なんだと思いたい。
改めまして、「母の友」創刊70周年、おめでとうございます。
私はまだまだ、今年から読み始めたひよっこですが、こうした様々な視点から、人を慮る気持ちを呼び起こさせてくれる雑誌の存在は、いつの世の中に於いても絶対に必要だと思うので、ぜひ、これからも長いこと続けていって、母も子どももみんなも、ほっとひと息つける居場所であることを願っております。続きを読む投稿日:2023.09.17
人は柔らかくて弱い存在だから、息がしやすい場所をもちたい。(河合香織さんと阿比留久美さんの言葉より)
私にとってのその場所は「母の友」になりつつある。
小説を読むだけでは辿り着けない、
様々な方々の…エッセイと出会えるのがよい。
この雑誌を読んでいると、
息ができている感覚があって、
「あ、私呼吸止まってたのか」となる。続きを読む投稿日:2024.02.26
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